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深くて暗い穴

『騎士竜戦隊リュウソウジャー』感想・第15話

◆第15話「深海の王」◆ (監督:坂本浩一 脚本:荒川稔久
 「子供じゃないよ。私もう123だし」
 広げれば広げるほど、取り返しのつかない事態を招きそうで不安になるリュウソウ族の長命設定は、果たしてどこへ向かうのか。水テレパシーで黄金の海騎士竜と繋がり、見た目中学生ぐらいの妹の「婿探し」宣言をたしなめたカナロは、街で暴れるマイナソーと出くわし、栄光の騎士・リュウソウゴールドに変身。
 Youtuber家のシーンを前振りにして、科学実験Youtuberから生まれた磁力を操るジェラシーマイナソーをすんなりと視聴者に飲み込ませてから、ゴールドが一当たりして手持ちガトリングガンでの蜂の巣路線を強調し、スピーディなアクション演出と、話の転がる速度の噛み合った導入。
 7-8話が史上空前レベルの大惨事だった坂本監督と今作の相性にだいぶ不安があったのですが、「スキル」とか「センス」とか「企画との相性」とか様々な要因も絡んでくるので一概には言えないものの、1エピソードにおける必要条件が多い戦隊シリーズにおいては、ある程度のセオリーを自家薬籠中のものにしておかないと、〔映像にしやすい脚本/しづらい脚本〕の差が露骨に出てしまうものだな、と改めて。
 勿論、誰にでも“初めて”はあり、いつまでも困った時の荒川さんを召喚できるわけではなく(辻真先先生のような例もありますが)、狭いサークルで作り続けていれば袋小路にぶつかるのがわかっているからこその(ここ数年、その危機意識は明確に強まっていると思われます)模索ではあるのでしょうが、ジャンルにおける「脚本-映像」の距離感を掴む為にも、試運転の機会は出来る限り用意しておかないと、ギアチェンジの仕方もわからないまま壁に突っ込む、みたいな事故が発生するな、と……過去1クールに積み重ねられた道路脇のスクラップの山を見ながら思う次第です。
 というわけで、前作及び『スーパー戦隊最強バトル』に引き続いて、もはや戦隊マイスター・荒川稔久が参戦。今作ここまでの随所に感じられた脚本と演出(出来上がり)の、恐らくはプロデューサーの判断も含めたズレが勘違いではなさそうというのが浮き彫りになると共に、情報の処理が適切で話の流れが整理されると、演出サイドも余裕を持ってキャラクターの描写に神経を使えるようになる、のが手に取るように見える一方、壊滅的な大事件が発生してしまうのですが、それは後述。
 「深追いするのはやめておけ」
 マイナソーは逃亡し、つれない態度で去って行こうとするカナロに粘着しようとするコウだが、日常シーンに絡めない別行動組扱いされていたバンバとトワがそれを止める、というのも立ち位置が効いてタイミングの良い登場。
 カナロの態度が理解できないコウ・メルト・アスナの3人は、バンバとトワから“海のリュウソウ族”の事情を説明される。
 「遙か昔――隕石の落下でドルイドンが宇宙へ去った後、なんらかの理由でリュウソウ族は分裂し、あいつらの先祖は海へ消えたらしい」
 「そして、何千万年もの間、陸には戻らなかった。それほど戻りたくない、大きな理由があったみたいだ」
 「……いったい、なにが」
 ……どこをどう切り取っても、上部組織ドルイドン会が消えた後の跡目争いが抗争に発展であり、ますます濃厚になる、リュウソウ族=地上の覇権を争う戦闘民族説。
 「戻りたくない、大きな理由があったみたい」という相手方の主体的意思を示唆する主張にも歴史の闇を感じますが、そもそも私、ドルイドン族が「隕石衝突を恐れて逃げた」というリュウソウ族側の言い分、全く信じていませんからね!
 その頃、カナロは地上を出歩いていた妹と再会。兄を心配する妹の健気さに胸を打たれつつ竜宮城へ帰る様に説得するが、素直に聞き入れた筈の妹はしれっと地上に残ろうとした所を、クレオンにナンパされてしまう。そうとは知らぬカナロは、再び現れた磁力マイナソーに立ち向かい、そこに駆けつけるリュウソウジャー。
 「ちっちゃい子がママとはぐれるって、どれだけ悲しい事かわかってるの?!」
 磁力効果により引きはがされた母と子の為に怒りを燃やす、と細かいツボを丁寧に押さえた上で、無言で槍を構えて突撃してくるトランプ兵に対し、4人の顔アップで次々とリュウソウルを起動し、シャキーン! シャキーン! シャキーン! シャキーン! と連続で入る効果音がテンポもよくて格好良く、今回はいい坂本監督。
 4人をひとまとめに映すのではなく、全員のアップを順々に見せる事で、非道な悪と対峙するヒーローの意思がそれぞれの視線に乗せられ、セオリーに基づいた見得やハッタリのみならず、ヒーローがヒーローたりえるのは、こういう細かい部分の積み重ねでもあるのだな、と改めて感じます。
 「行くぞ!」
 コウが不在でバンバが音頭を取るのも、年長者というだけではなく、バンバ兄さんにもそういう気持ち(アスナの代表した怒り)がきっとある、と素直に受け止められましたし、感情の乗せ方がしっかりとはまって劇的な変身シーンとなりました(1クール目にぱらぱらと振り掛けられていた「家族」テーマとリュウソウジャー個々がきっちり繋がっていれば、もっと良いシーンになったのが惜しいですが)。
 4人はそれぞれ生身アクションからリュウソウチェンジし、アスナが結構、動ける感じ?
 子供を安全な所まで逃がしていて、遅れて合流したコウには盾を振り回して投げるという派手なアクションが与えられてバランスを取り、スキルソウルを発動して兵士を蹴散らす立ち回りでの個別名乗りから、マイナソーに向けてダッシュ突撃、連続スキル攻撃、揃い踏みと共に一斉必殺剣、という流れも鮮やかに炸裂。
 「下がってろ! お前達とは組まない」
 「いや、そっちが下がってな」
 ところが、シマ争いの遺恨から揉めている隙に6人は磁力攻撃を浴びてしまい、反発し合ったリュウソウジャーは、赤をその場に残して日本各地へ飛び散ってしまう……って、このネタ前もやりましたね荒川さん?!(まあ既に20年近く前なのですが、恐竜戦隊繋がりネタだったりしたのか)
 後これをやってしまうと、吹き飛び描写のあった民間人は……となってしまうのですが、まあ今作の世界観だとギリギリ大丈夫そうな感じはあり……
 「絆が強ければ強いほど、その反発力は、強くなるのさーーーーー!」
 ……あ、これ駄目だ、リュウソウジャーで日本各地に四散するぐらいだから、カップル男と子供の母親は、たぶん大気圏突破している。
 スタッフ的には逆の意図だと思われますが、とんでもないところに、地雷が埋設されていました(なおラストシーンで吹き飛び被害者達の再会シーンが描かれており、説得力はともかく、良い目配りであったと思います)。
 「どうして俺達は、反発しないんだ?」
 「当然だろ。俺達の間に絆は一切ない!」
 怪人の能力をノリノリで説明しながらナチュラルにフェードアウトしていくクレオンは面白かったものの、出来れば「絆」というのは、単語を直接出さずに描きたい要素ではありますが、赤と金の関係性をわかりやすく目視可能にしつつ、リュウソウジャーは強い絆で結ばれている」事にしてしまうという、物凄い荒療治。
 一人マイナソーに立ち向かおうとするも、金属製のものをくっつけられて身動きできなくなってしまう金だが、それを赤が救出。
 「どうして助けた?」
 「だって、同じリュウソウ族じゃん。海も陸も、関係ない」
 さらりと懐に飛び込んでいくコウに悪意は無いし、確かに“いい奴”ではあるのでしょうが、この善良さは、過去のリュウソウ族について全く知識がない故の善良さであり、リュウソウ族自体への認識からして怪しい圧倒的無知に基づく善良さだからこそ、逆に圧倒的無知に基づいて平気で人を傷付ける事と表裏一体(この散発的な被害者がメルトといえるわけで)、というカナロにとっての猛毒を含んだものなので、素直に受け止めていいのかどうかは悩ましい部分です。
 最終的には、過去のしがらみを乗り越えて今の自分たちがどうするのか、という辺りに落ち着くのが定石ではありますが、このコウの「無知ゆえの善良・純粋さ」を、カナロ(海のリュウソウ族)との関係改善の流れにおいてどう描くのか、というのは一つ、今後の今作の方向性を示す、重要な舵取りになる気がします。
 コウ、「世界が見たい」という割には、「身の回りの知識を得ようとする」描写がこれまで特にないのですが、「知ろうともしない」者の無知ゆえの純粋さをカナロが優しさや器の大きさと誤解したら大惨事の予感ですし、逆に、今作これまでのコウにほの見えた「純粋培養の戦闘兵器」という描写が(上手く行っていたかはさておき)意図的なものであり、その大きな変化を中盤に向けて描く狙いがあるのなら、コウというキャラが撥ねる可能性もなきにしもあらずかな、と。
 「あれ、今の? もしかして絆が生まれた?!」
 「違う!」
 ナンパ男の外面に騙されてときめきメーターがきゅいーんと上昇してしまうゴールドだが、そこに捕まえたカナロ妹を人質に取ったクレオンが再登場。言われるがままに無抵抗を貫く赤は、そうしていれば逆転の策も生まれるとマイナソーの攻撃に耐えるが……
 「ほざくな! おまえら、やっちゃてー!」
 クレオンが指示を飛ばし、トランプ兵が素体を痛めつけるとマイナスエネルギーが放出されてマイナソー巨大化、という破滅的大穴。
 今作お馴染みのマイナソー爆弾がスーパーノヴァし、1クール全てまとめて茶番に変えてブラックホール化してしまいましたが、あまりに致命的すぎて黒目が無くなりそうな勢い。
 まあ今作の事なので、おしなべてその場その場の都合であり、次回以降は「そんな事象は無かった」事にされたり「素体固有の性質であり再現性は無い」事にされたりで忘却の彼方へ消し飛ばされそうですが、「素体に直接ダメージを与えるとマイナソーの成長が早まる」というのは、可能性レベルでもやってはいけない描写であったと思います。
 もしかしたら今後これを、「リュウソウジャーが素体を確保しようとする理由」にするのかもしれませんが、今回のようにそもそも素体をクレオンが選ぶ以上、先回りは不可能ですし、そもそも今まで何故、クレオンは素体を遊ばせていたのかという事になりもはや設計図の穴が大きすぎて穴そのものが設計図みたいな事に。
 ……以前、コメント欄で「ドルイドン側もクレオン産マイナソーの特性を把握していないのでは」という面白い指摘をいただき、今回の件も、ドルイドン側もマイナソーの扱いに関して手探りであるとすれば納得はできるのですが、そういった設定は劇中で描写を積み重ねてこそ成立するわけなので成立しませんし、それなら今後この再現を一度は検証するの? と思うと、穴だらけで前が見えません。
 抜け道としては、今回の素体ダイレクトアタックはガチさんの発案であり、ワイズルーはその手段を好まない、といった上司による色分けという手はありますが、それなら先にガチのアイデアであると描いておかなくては効果的になりませんし、どちらにせよ「現段階で存在させるのは極めて望ましくない可能性」であろうと。
 また設定面を離れた部分でも、無抵抗の一般人がトランプ兵にリンチを受ける姿をやけに克明に描く映像そのものがあまり気分が良くない上で、それが人質にされたカナロ妹の為に赤が無抵抗を貫くシーンと対応する形になってしまい、結果的に「関係者の美少女の為に体を張るが、一般市民を守り切れないヒーロー」像を描くに至ってしまうという、大失敗。
 脚本、演出、どこから出てきたアイデアかわかりませんが(マイナソーの設定的にはプロデューサー案件でしょうが、今回の扱いを見るにそもそもマイナソー、ろくな設定が「ない」のではという気もして参りました)、あまりに酷すぎて、この後のそれなりに工夫を凝らした巨大戦も、全部どうでも良くなるレベル。
 次回――改めてリュウソウ族(リュウソウジャー)の立ち位置を確認してくれそうなのは望ましいですし、ガチさんはやはり左のワンポイント扱いで早々に降板しそうな雰囲気ですが、今回開いた穴が大きすぎて、埋められるのか、これ……?