『電撃戦隊チェンジマン』感想・第53話
◆第53話「炎のアハメス!」◆ (監督:山田稔 脚本:曽田博久)
(宇宙海賊ブーバは死んだ。シーマもゲーターも裏切った。……とうとう、この私一人になってしまうとは)
「今度はおまえが、その命をゴズマに捧げる番だな」
目をくわっと見開いて淡々と告げるSギルークがやたら格好よく、前回シーマへ向けた言葉の代償を支払う形となったアハメスは、SギルークとバズーのW獣士化光線を浴び、ついに宇宙獣士メーズへと変貌。
その頃、ナナやシーマを迎え入れた電撃基地ではシャトルベースを改造整備の真っ最中だったが、メーズが振りまく妨害電波の影響で基地のコンピューターに異常が発生。迎撃に出るチェンジマンだが、初球から投じた大リーグバズーカ2号を秘打・マジカルピッチャー返しでホームランされてしまう。
「恨み重なるチェンジマン!」
鏡獅子のごとく白銀の頭髪を振り回すメーズの攻撃を受けた5人はまとめて吹き飛ばされ、Sギルークの攻撃同様、威力が強すぎてチェンジマンを戦闘から離脱させてしまう、というのは終盤に目立つ面白くないやり口(強敵を相手にどうヒーローを一時退却させるのか、というのは常に難しい部分ではありますが)。
二代目必殺魔球を正面から破られ、強化スーツが無惨に損傷した事にショックを受ける伊吹は珍しく5人に優しく接するが、妨害電波のめくら打ちによるメーズの攻勢は留まるところを知らず(女性クルーが基地内部の爆発に巻き込まれて吹き飛ぶのが衝撃的な映像)、遂に電撃基地の出入り口が探り当てられてしまう。
長らく所在が秘匿され、初期はゴズマ側の作戦目標ともなった電撃基地の住所が判明する事により、かつてない危機とアハメス獣士の強敵感を出しているのですが、その手段は、虱潰しの絨毯爆撃という力技なのが、身も蓋もないリアル(笑)
「ここから先は、この私が通さないわ!」
負傷している5人に代わり、足止めの為に打って出た王女シーマは凄く普通に格闘スタイルでヒドラ兵を蹴散らし、前回に続いて、立場の変化を劇的に示す為のバトル。だが、額から放ったアマンガリウム光線はメーズに弾き返され、王女と女王の格の差を見せつけられる。
駆けつけた飛竜達もマジカル波動を浴び、背水の陣の電撃戦隊最大の危機のその時、基地の中から飛び出してマジカル波動を受け止めたのは――なんと伊吹長官。
そして、気合いと共にマジカル波動を跳ね返した伊吹は、青と黒の縞模様の異星人へと変貌する!
色彩といい、そこはかとなく角や翼が生えているように見えるデザインといい、さんざん宇宙伝説を語っていた長官自身が、古代地球に伝説を残してしまったのではないか疑惑も急浮上。
「…………私はヒース星人、ユイ・イブキ」
「宇宙人だったんですか……」
激しいエネルギー波の衝突の末にメーズは一時撤退し、伊吹はチェンジマンらに、ゴズマに滅ぼされたヒース星唯一の生き残り、という正体を明かす。
「バズーへの復讐を誓った私は、ゴズマに勝てる戦士を探し求めた。そして、それは地球のアースフォースを浴びた戦士しかない事がわかったのだ。(※独自の研究です)
……アースフォースを信じろ!
アースフォースが君たちに与えた力は、必ずゴズマに勝てる。(※独自の研究です)いいか! この地球を守る事が、宇宙を守る事になるのだ!」
大星団ゴズマは放っておいてもいずれ侵略に来るので、地球に防衛の為の力を与えてくれた恩人とはいえるものの、一歩視点を変えれば“復讐の道具として地球人を操っていた”と取れなくもない伊吹星人(地獄のサバイバルキャンプ……)ですが、素性を明かすや否やすかさず、「(私ではなく)アースフォースを信じろ!」と問題の中心を華麗にスライドし、更に大宇宙規模の使命感を後押しする事により、自身に対する当然の疑問や疑念を差し挟む余地を与えず戦いに駆り立ててみせるという、凄まじい人心掌握術!
「ほざくな! ヒース星人。偉大なるゴズマの力、今日こそ見せてやる」
「黙れ! アースフォースの力こそ、見せてやる!」
そこにメーズが戻ってきて、5人はレッツ・チェンジ。
「私も戦うぞ!」
空手の構えを取る伊吹に続き、剣を抜くシーマ、頷くナナ。伊吹星人に問い質したい事は山ほどあるもののの、どんな苦境でも諦めずに戦い続けてきたチェンジマンが築き上げた繋がりと、全ての手駒を失い自ら獣となるしかなくなったアハメスとの激突、という構図が盛り上がります。
スペース空手を解放した伊吹は次々と素手でヒドラ兵を撃退し、シーマはトレードマークのハイキックと剣技を組み合わせて戦い、ナナはベルトからジーニアスビームを発射。陸戦要員ではないナナがヒドラ兵に囲まれてピンチになると長官とシーマが助けに入るという見せ方のバランスもよく、ヒロイン度の高いナナちゃんを飛び蹴りで助け、色々な疑問をパワフルなアクションで上書きしていく長官が、ズルい(笑)
メーズの繰り出すマジカルビームを受けてチェンジマンが苦しむと、変身した長官は体を張ってその盾となり、最終盤に突如登場したジョーカーキャラの趣はあるものの、シーマやナナとの共闘と重ねる事で、伊吹星人もまた、チェンジマンがこれまでの戦いを通して紡いできた力の一つ、に収めてみせる見せ方は巧い。
また、これだけチェンジマン陣営に異星人の仲間が増えてくると伊吹星人もそこまで突出した存在ではなくなり、ゲーター一家とさえ手を取り合えたチェンジマンだからこそ、伊吹星人も自らの正体を明かして戦う事が出来た、という理由は納得のできる形でまとまっています。
「みんな、頑張れ! 俺達には、アースフォースがあるんだ!」
伊吹長官のカバーリングを受けた5人は、相討ち覚悟のパワーシンボルアタックを放ち、その直撃を受けたメーズからアハメスが分離。
「アマゾ星の女王――アハメス!」
「アハメスが分離したぞ!」
「なんという能力……いや、執念だ」
「星王バズー様! アハメスの戦いぶりを、ご覧ください! ……メーズ、やれぇ!」
アハメスはマジカルビームでチェンジマンを吹き飛ばすとメーズをけしかけ、自らは電撃基地へと向かう、が……
「アはハハハハハ! あハハはは!」
壊れたマリオネットのようにおぼつかない足取りで、哄笑しながら無差別に破壊の力を振るうアハメスは、既に精神の平衡を欠いていた。
「星王バズー様! アハハははハハ! アマゾ星を返してください! 私のアマゾ星を!!」
それは、獣士からの強引な分離によるショック症状なのか、或いはいみじくもチェンジマンの指摘した通りに、故郷の星を取り戻そうとする執念だけが分裂してしまった一種の幻像なのか、くるくるくるくる回りよろめきながら、天上の支配者に向けて手を広げ、甲高い狂笑の合間に絶叫するアハメス様の姿が、強烈。
一方のメーズはアハメスの分離によって弱体化した所に怒濤の必殺技ラッシュからパワーバズーカで爆殺され巨大化するが、調子外れに笑い続けながらオペレーションルームに辿り着いたアハメスは、電撃基地の象徴といえるその場所を無惨に切り刻みながら、噴き上がる炎に包まれていく……。
「あハハハハハ! あははハ! アハははは! アハハははハ! バズー様、アハメスはこんなにもあなた様に忠実です! あハハは……! おっしゃって下さい! アマゾ星を返すと! 女王にしてやると約束して下さい! バズー様! こんなにも忠実で、強く、美しい女の願いを、バズー様! あなたは何故聞き届けてはくださらぬ?! アマゾ星を返すと! ……バズー様ぁ!! アハハ! あははハはは! バズー様、バズー様ぁぁぁ!!」
アハメスの白銀の鎧姿は、まるでバレエのプリマドンナのようでもあり、見えぬ天上に向かって手を広げ、届かぬ声で叫び続けたアハメスは、自ら巻き起こした破壊の爆炎に巻かれながら哀れな舞姫として踊り続け――……そして、炎に飲み込まれる。
この終盤、ギルークもアハメスも、徹底して“悪に屈したチェンジマン”のメタファーであり、表裏一体の鏡像――原初的な英雄に対する鬼――なのですが、それ故に、壊れてしまった操り人形が、己自身の執念に焼き滅ぼされる、というのは、その執念により道を誤り、いつの間にか自覚のない操り人形になっていたアハメスに対する因果の報いとしてふさわしい、象徴的な最期でした。
では、巨大な悪に屈せず死ぬまで戦い続けるのが正しい事なのか? というのはまた別の問題になりますが、この物語において、アハメスが決定的に道を誤った分水嶺があるとすれば、自らの目的の為にギルークを陥れた時なのだろうかな、と(これは同時にSギルークにもいえます)。
だからこそチェンジマンは、ゲーターやシーマに対し諦めずに手を伸ばし続ける事で、本能的に“ゴズマになる”事を回避していたという一面もあるといえそうですが、このテーゼを極めて印象的な一つの台詞に集約してみせた後の『星獣戦隊ギンガマン』(1998)は改めて凄かったな、と。
そして今作全体としては、シーマやゲーターを通して、「悪に屈する事もあるかもしれない。だが、勇気を持ってそこから立ち上がる事もまた、出来る筈(そしてヒーローは、いつだってそれを助ける)」事が描かれているのが、お見事。
また物語としては時間をかけて「救えない側」であるという一線を引きつつも、アハメスをあくまで自滅させたのも、今作らしい目配り。自らの選択により自滅していくというのがアハメス様らしいと同時に、チェンジマンがアハメスを救おうとしないという状況を直接的に描いてしまう事を、うまく回避しました。
女王アハメスは電撃基地を道連れに壮絶な最期を遂げるが、シャトルベースの脱出は間に合い、チェンジロボ発進。巨大メーズの電波攻撃に苦戦するも、スーパージャンプによる空襲からスーパーサンダーボルトにより勝利するのであった。
何話ぐらいから使っているかチェックするのを忘れましたが、(たぶん)後半に入って、サンダーボルトを決めた後、太陽をバックに剣と盾を構える締めのポーズが、格好いい。
「伊吹長官が宇宙人だったなんて……それで宇宙の事をよく知っていたのね」
生き残った電撃戦隊は崩壊した基地を見つめ、これまでの諸々の《知識:宇宙伝説》についてフォローが念押しされるのですが、改めて台詞にされると、妙に笑えます。そして、さやかさんは少し、気にしていたのか(笑)
「たった独り地球へやってきて、電撃戦隊を作り上げたんだ。その危地が破壊されてしまうなんて」
長官の心情を慮る飛竜だが、地球で戦争映画と任侠映画を見て今のスタイルをロールプレイしていたと思われるヒース星から来た男は、力強く振り返る。
「アースフォースを信じろ!」
じゃなかった、
「…………私たちにはまだシャトルベースがある! ……そして君たちが居る! 宇宙の仲間も居るじゃないか!」
ここで、「兵器」にしか触れなかったらどうしようかと思ったのですが、「人」と「繋がり」に触れてくれてホッとしました(笑) 今作は基本的にそういう所はほとんど外さないのですが、なにぶん伊吹長官なので、ドキドキしましたよ!
最終盤も最終盤での判明という事で、伊吹長官の明かされた正体に関してはなし崩しで受け入れる形で進み、「博士の正体」から「戦隊の再構築」に繋げ、更にそれが「正義と悪との対比」として機能した『科学戦隊ダイナマン』が大好きな人間としては多少の物足りなさを感じましたが、短期間に同じ事を繰り返すわけにもいかない、という事情もあったでしょうか。
『ダイナマン』は名作(定期)。
前回までの流れを受け、対ゴズマの異星人同盟結成がミクロスケールとはいえ象徴的に描かれ(これがまた、かつてのギルーク-アハメス連合の裏返しになっているのがエグい)、伊吹長官の正体判明から追い詰められたアハメス様の退場までがぐいぐいと盛り込まれましたが、最後の最後まで、素晴らしかったですアハメス様。
繰り返し書いてきましたが、とにかく「高みから他者を見下ろし蔑み笑う」というキャラクターでありながら、笑い方に品があるのが非常に大きく、気品ある元女王としての説得力が絶品。艶のある視線や美しさの中に時折抜けたところも見せる表情も印象的で、会心のキャスティングでありました。最期の姿が、「笑う」に集約された散りざまも、お見事。
そのアハメスを更に高みから見下ろす星王バズー、一度は手を組み一度は地獄に蹴り落とされ、そして復活後は徹底的に嫌がらせを行うギルーク、ともそれぞれ引き立て合い、名悪役でした。
次回――決戦・空中要塞! そして……!