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君の面影、星の海

電撃戦隊チェンジマン』感想・第52話

◆第52話「ブーバ地球に死す」◆ (監督:長石多可男 脚本:曽田博久)
 「ゲーターに寝返られるとはなんたる大失態!」
 やはりゲーター、超有能な操縦士だったの?! と思ったら続く台詞からそういうわけでもないようですが、ネオジャンゲラン誕生の時をワクワクしながら徹夜で待っていたバズー様は、大激怒。
 「裏切り者が出るなどという事は大星団ゴズマ始まって以来の由々しき出来事」
 鉄の結束を掲げる大星団ゴズマの恐怖政治に空いた蟻の一穴を重く見たバズーは、ギルークへとお仕置きビームを浴びせる。
 「星王バズー様! スーパーギルークの失態は、この女王アハメスが埋め合わせをいたします」
 「なに?」
 「大星団ゴズマへの、最大の忠誠は――命を捧げて示すもの」
 失地挽回のチャンスとばかりに顔を見せたアハメスがバズーを見上げる姿を俯瞰で捉えつつ、直後に、横で膝をつくギルークへ冷笑を向けながら見下ろす視線に続け、その表情が大変素敵かつ、実にアハメス様。
 カット割りと視線の動きで、アハメスの抱く精神的・心理的な上限関係を鮮やかに強調しているのですが、もはやアハメス様の精神構造が「バズーに膝を屈して服従を誓いながら、それ以外の他者を見下ろす事に優越感を覚える」ところに押し込められている事が明示されており、この後のアハメスの行動とも繋がっていて、なんとも悲劇的。
 一方、上司二人が会議に出席中の遠征軍母船では、シーマが考えに沈んでいた。
 (ゲーターが裏切るなんて……あの意気地無しのゲーターが。赤ちゃんを抱きたい一心とはいえ、よくぞ思い切った事を)
 「おまえも裏切るか? 脱走するなら、今だぞ」
 背後から挑発したブーバは振り向きざまのシーマの一撃を軽々とかわし、飄々と指を鳴らす格好いいモード。
 前半、長石監督の参戦にともなうような形でコメディリリーフ要素を付加されていたブーバが、この最終盤、長石監督回で実にドラマチックに描かれるのが不思議なローテの巡り合わせですが、ブーバを演じる岡本美登さんが次作『フラッシュマン』で演じた悪役の初登場シーンが物凄く格好良く演出されていたりもするので(未だに忘れられないレベル)、長石監督が演技を気に入っていたなどもあったのかもしれません。
 「そうムキになるなよ。それとも、ムキになるところを見ると……案外、図星だったかな?」
 再び衝突寸前、謎の銀フードをともなってアハメスが帰還し、チェンジマンに挑戦状を叩きつけた一味は、ヒドラ兵も交えて地上で集団バトルに。謎の銀フード、そしてナナが戦いを物陰から見つめる中アハメス様のマジカルタイフーンが炸裂し、戦況を見守っていた銀フードが立ち上がってフードを脱ぎ捨てると、その下から現れたのは両生類系の宇宙獣士ダリル。
 ダリルとシーマがチェンジマンを挟み込むとマグネットパワーが発動し、咄嗟に直線上から逃れたドラゴンが飛び蹴りを浴びせてダリルを引きはがすと、シーマはその場に倒れて気絶。アハメス一味は撤収し、辛くも窮地を脱出したチェンジマンは、基地で伊吹長官からダリルの放ったエネルギーの正体を教えられる。
 それは、シーマの持つアマンガエネルギーと正反対の性質を持ち、両者が近づく事で破滅的な事態を引き起こす、反・アマンガエネルギー。
 (※独自の研究です)
 そしてそれこそ、シーマの故郷・アマンガ星を壊滅に追いやった力でもあった!
 「反アマンガエネルギーを出して、たくさんのアマンガ星人と、アマンガ星の文明を、消してしまったんだ!」
 遠征軍母船では怒りのシーマがダリルに切りかかろうとしてブーバに止められ、伊吹長官の独自研究が裏付けられてしまいましたが、宇宙獣士ダリル(の同族)は、アマンガ星で次々と自爆を繰り返しながらアマンガ星人とその文明を消滅させていった事になり、壮絶な破滅の光景であると同時に、“道具”としての宇宙獣士の心の失われようもまた、凄惨。
 「そう。素晴らしいエネルギーではないか。シーマとダリル、おまえたちの持つ相反するエネルギーを出し合って、今度こそチェンジマンを倒すのだ!」
 「私に死ねとおっしゃるんですか?!」
 「それがどうした? ゴズマの為ならば、命を投げ出して戦うのが、我らの使命であろう?」
 艶然とシーマを見下ろすアハメス様、その背後に無言で立つブーバ、返す言葉もなく顔を背けるシーマ、の三者三様を一つのフレームに収めてぐいぐいとアップで表情の芝居を積み重ねていくのは、「ブーバの表情が出せるのが目の周りだけ」という事情があるのかと思われますが、ブーバだけを大写しにするのではなく、通して各キャラの表情を印象的に映しながら、「視線」に意味を持たせる演出でエピソードを統一する事で、クライマックスの集約となるブーバの表情(目)に向けて、自然な流れを作っていくというのが、さすがの長石監督。
 (これだけ、ゴズマに尽くし、ゴズマの為に戦ってきたのに、なんと、アマンガ星を滅ぼした宇宙獣士ダリルと一緒に死ねとおおせられる。では私は、何の為に戦ってきたのだ)
 シーマのトラウマを抉るアハメス様の作戦は完全に悪手なのですが(立場が悪くなった焦りもあってか、もはや見下ろしている相手の心が完全に見えなくなっているともいえるし、それは普遍的な、強者にとっての「蟻の一穴」でもありましょうか)、ここでアハメスが、Sギルークのスーパーパワーのような直接的な獣士化ではないものの、シーマに対して実質的に「宇宙獣士になれ」と要求している、のが実に巧妙な切り口。
 この最終盤、それぞれ事情を持ったゴズマ遠征軍に対し、今作は物語として「救うべき者」と「救えない者」の間に線を引いていっているのですが、これによりアハメス様は完全に「救えない者」の側に回った、という事なのかなと思います。
 「しょせん俺達は使い捨てだったのよ」
 道具として死ぬ事を求められ悲嘆にくれるシーマをブーバは物陰から見つめ、過去にあっさり派閥を鞍替えしているように、世渡りと割り切っていそうなブーバが何故シーマを気に懸けるのかは、クライマックスで明らかになる事に(少なくとも私はスッキリ腑に落ちました)。
 (アマンガ星を復活するという、私の夢は、私の願いはもうかなえられないんだ……)
 進退窮まるシーマだが、その心の叫びを、テレパシーとしてナナがキャッチ。
 何故か、伊吹長官もキャッチ。
 (帰りたい……私の星アマンガ星。もう、戦いは嫌)
 電撃基地に厄介になっていたゲーター一家もキャッチし、シーマの心奥から迸る強い本音として、どうやら地球人以外?にテレパシーとして届いているようですが…………い、伊吹長官?
 何やら伊吹長官の「謎のテクノロジー」「謎の宇宙伝説知識」「謎のアースフォース信仰」に説明がつけられそうな気配が漂ってきましたが、これがもし伊吹長官だけがキャッチしていたら、あ、この人こうやって、宇宙からの電波、もとい伝説をキャッチしていたのか(※独自の研究です)となるところだったので、ナナちゃんとゲーター一家が居て本当に良かった。
 「みんな! シーマを助けるんだ!」
 長官の号令一下チェンジマンが出撃した頃、テレパシーを感じ取ったナナはシーマの元に辿り着き、共にゴズマからの逃亡を呼びかけるが、そこに突き刺さるアハメス様のマジカルビーム。
 「シーマ! 何を血迷っている。ダリルと共に命を捧げるのだ」
 二人は手に手を取って逃走し、ここに結成される、剣飛竜被害者の会!(あれ?)
 「ゴズマから逃げられると思っているのか?」
 その背に向けられる、落ちるところまで落ちてしまったアハメス様の台詞が、もの悲しい。
 「遂にシーマも裏切ったか。裏切っても行くところのある奴はよい。ふふふ……宇宙海賊ブーバに、帰るところはない」
 物陰のブーバもまたその背に向け呟き、望郷電波作戦がブーバには無効であった、というのが効いて、ブーバの立ち位置の説得力を強めて巧い。
 ナナをかばいながら追撃のヒドラ兵を切って捨てるシーマ(ゴズマとの手切れをしめすイニシエーション的戦闘)であったがアハメス様が追いつき、今回、上述したように「視線」が重要な意味を持って演出されているのですが、ジャンゲランを失うも自ら山腹に登り、徹底的に高所から他者を見下ろす位置に立っているのがアハメス様らしくて素晴らしい。
 絶体絶命のその時、駆けつけたチェンジマンが集団ブレスレーザー。
 「アハメス! 命を命とも思わぬ、虫けらを扱うようなやり方! 許せんぞ!」
 「飛んで火に入る夏の虫とはおまえ達の事よ。宇宙獣士ダリル、今だ!」
 高い、アハメス様の位置が高くて、地面からのズームインが、長い!
 「みんな消えてしまえ!」
 アハメス様は最高にいい笑顔を浮かべ、ダリルとシーマの反応による イデ 対消滅エネルギー発動の寸前――戦場に飛び込んできたブーバが空中回転からシーマに剣を振り下ろす!
 「ブルバドス・活人剣!」
 叫んだ技の名前で既にネタが割れてはいるのですが……乱入のタイミングといい、回転斬りのアクションといい、推察できる真意といい、格好良すぎるぞブーバ!!
 飛竜は倒れたシーマを抱き起こしてその死を確認し、荒野に響くナナの慟哭。
 「シーマなど必要ない! 宇宙海賊ブーバに任せてもらおう!」
 作戦を台無しにされたアハメスの糾弾を正面から受け止めたブーバは力強い眼差しでチェンジマンに向き直り、言ってみれば着ぐるみの怪人寄りのデザインであったブーバの、表に出た目元に連続でカメラを寄せ、その心情を剥き出しにする事で、怪人から人間へ、ゴズマ遠征軍副官から宇宙海賊へ、二つの意味で生身のブーバが出現する、というのが感情の高潮と重なって盛り上がり、岡本さんも、物凄く気合いの乗った芝居で魅せてくれます。
 「ブーバ、アハメス、許さん! レッツ・チェンジ!」
 対するチェンジマンの変身が、泣き役をナナちゃんに振る事により、内に溜めた怒りを爆発させる、という形になっているのもまた巧妙。
 チェンジマンは絶叫と共に突撃し、道中色々ありましたが、最後に、あくまでも好敵手として、ブーバとドラゴンがたっぷり一騎打ちしてくれたのは嬉しかったです。
 「勝負!!」
 「でやぁぁぁぁ!!」
 互いに手傷を負いながら両者は夕陽をバックに壮絶に切り結び、同時に飛び上がった瞬間、あ、これ、「ドラゴンソード!(投擲)」でざっくり間合いの外から殺っちゃうパターン……? と冷や汗が出ましたが、さすがのドラゴンも今回ばかりは飛び道具は自制し、互いの魂と魂を乗せたぶつかり合いの末、僅かに早くドラゴンの一撃がブーバを捉える!
 もんどり打って斜面を転がり落ちるブーバだが、消耗したチェンジマンにはダリルとアハメスの攻撃が迫り、思わず駆け寄ったナナは、アハメス様のマジカルタイフーンを防ぐリゲルシールドを発動すると、リゲル星人としての姿に変身。
 このくだりはやや唐突でしたが、ゴズマとの戦いが佳境に入っていく中、ナナもまた、“大切な人達を守る為に戦いから目を背けない”事を選び、その象徴としての変身、と取れるでしょうか。
 そして、ナナの決死の行動によりアハメスとダリルの攻撃が止まったその時、ブーバの斬撃により心臓の止まっていた筈のシーマが突如立ち上がり(ここは本当にいきなりで、ナナの変身とシーマの復活、という二つの要素を入れる都合でやや強引になってしまった感が勿体なかった)、衣装と声がチェンジすると、ブーバへと駆け寄る。
 「ブーバ、あなたは私を助けてくれたのね」
 そう、ブルバドス・活人剣とは対象を死に至らしめるのではなく、仮死状態に陥らせる秘剣だったのだ。
 「いや……おまえは死んだんだ。そして生まれ変わったんだ。綺麗だぜ……やっぱりおまえは、お姫様だ」
 ……ああそうか、シーマはどこか、ジールに似ていた、のか。
 ブーバ、基本的に下衆な小悪党の一方、正しく“人間くさい”ので、下心もあれば侠気もあって、心に余裕がある時にシーマを気に懸ける事そのものは今回の話の流れに違和感を覚えない程度には納得できつつ、それにしても少し気に懸けすぎではというのはあったのですが、甦ったシーマの衣装配色が黒メインから赤メインに逆転し、倒れたブーバがシーマの頬に指を伸ばしたこの瞬間、全ての線が一本に繋がって、ストンと腑に落ちました。
 実際にどこまで計算していたのかはわかりませんが、ジールのデザインやキャスティングは、ここからの逆算だったのかな、と。
 「アマンガ星の、いいお姫様になるんだぜ」
 立ち上がったブーバはアハメスを目指して一歩ずつ詰め寄っていくが、裂帛の気合いと共に剣を振り上げたところで力尽き、カッと目を見開いて倒れると、大爆死。
 だがその隙に体勢を立て直したチェンジマンは電撃ビクトリービームからのバズーカでダリルを撃破し、巨大戦はもうホント、消化試合という事で、成敗。
 失地挽回の為の渾身の作戦の筈がかえって遠征軍の内部崩壊を加速させてしまったアハメス様は引き下がり、墓標のように荒野に突き刺さったブーバの剣に歩み寄り、シーマは涙を流す。
 「さよなら…………ブーバ」
 記憶喪失回もでしたが、あまりにも飯田道郎さんボイスの印象が強すぎて、女声だともはや違和感があるのは……キャラ作りが巧すぎた反動というかなんというか。
 「ナナちゃん、チェンジマン、ありがとう。ゴズマが居る限り、勇気を出して、戦います」
 「宇宙は変わるのさ……美しく、平和な宇宙になるんだ。早くそういう宇宙になっていれば…………ブーバだって、宇宙海賊にならなかったろうに!」
 ナナとチェンジマンもブーバの剣に花を捧げ、前回、チェンジマンとしての道を示したのはともかく、ブーバは前身から宇宙海賊だし(ゴズマ以前の回想シーンでもだいぶ悪い感じだった)……というところをきちっと拾ってくれたのが今作の抜かりの無さ。そしてそれが、そんな悪を生んでしまう世界の否定、というチェンジマンの道をしっかり補強してもいます。
 同時にそのブーバが最後の最後に、死と再生をもたらす事により「副官シーマ」の罪を引き受ける事を選んで散っていったからこそ、チェンジマンにとって、花を捧げるだけの男になる、というのも、お見事。


チェンジマンの好敵手、宇宙海賊ブーバ、地球に死す。

年齢――不明。

生年月日――不明。

生まれた星も――不明


 最後に、滅茶苦茶沁みるナレーションがトドメを入れて、会心の出来で、つづく。
 アースフォースに選ばれて戦うチェンジマンをはじめ、今作の主要キャラはそれぞれ故郷の星と紐付けされ、ある意味で執着しているというのが大きな特徴ですが、その中で異色といえるブーバの位置づけが強調される事で、決して正義に目覚めたわけではないなりに、やりたい事をやって己の海賊魂に殉じるという形で、宇宙海賊ブーバとして最期に自分自身を取り戻した事が劇的な一押しで示されるのがキャラクターの着地として美しく、そこに漂う一抹の寂寞も含めて大変良いラストでした。
 次回――決戦アハメス! そして伊吹長官がレッツチェンジ?!