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痛快・メザードが斬る!

ウルトラマンガイア』感想・第37話

◆第37話「悪夢の第四楽章」◆ (監督:原田昌樹 脚本:長谷川圭一 特技監督:原田昌樹)
 「破滅する、世界……」
 ガードのコンピュータにハッキング中の藤宮はコンクリート打ちっ放しの薄暗いアジトの中で低く呟き、それを見つめる漆黒のドレス姿の稲森博士、という怖いカットでスタート。
 世界各地のガードは地底貫通ミサイルによる怪獣への先制攻撃を我先にと行っており、未知なる脅威を口実にした各国の武装強化には歯止めが失われつつあった……と、第24-26話と繋げる形で、人類の持つ攻撃性を怪獣と絡めながら活写。
 地底に眠る怪獣への積極的な攻撃、に対する市民の反応をレポートしていた田端チームだが、倫文は雑誌に特集されていた、動機不明の集団犯罪(暴動事件)の急増を気に懸ける。
 「これも破滅招来体の影響ですかね?」
 「確かに街を破壊する怪獣は恐ろしい。でもな、本当に怖いのは、人の心が壊れてしまう、ていう事かもしれないな」
 人類と怪獣の戦い、のみならず、それが社会に与えていく影響から、その成員たる人々の心の問題まで、天と地の二つの視点を交えながらマクロスケールからミクロスケールまでを丁寧に繋げていき、今作の強みを活かしながら、破滅の脅威にさらされた世界のありよう、に厚みを持たせていくのがまず鮮やか。
 そんな中、KCB本社ビルの上空に黒雲をともなうワームホールが突如出現。それに重ねて描かれる根源破滅教団の行進、というネタの使い方が凄く好きで、藤宮の帰還に端を発する第4クール目へのターニングポイントという事でか、これまでの『ガイア』世界の積み重ねを怒濤の勢いで連動させていき、長谷川×原田コンビが予告で上がりまくったハードルを見事に越えてくる、テンションの上がる出来。
 KCB内部では電波異常が発生し、空に広がる時空の歪みを見つめる藤宮。ワームホールの内部には邪悪な相貌が浮かび上がり、停電による混乱に続いて一斉に電話が鳴り出したKCBでは、それを取った人達が次々と虚ろな表情で無言になっていく――日常に密着したものが破滅への脅威にすり替わる電話の恐怖再びで、強迫的な電話のベルが鳴り続ける中、その危険性を感じ取って電話を取らない玲子さんと田端(に止められる倫文)だけが正気で取り残される事に、というメザード編の蓄積が脅威の到来としてテンポ良く畳みかけてくる流れも素晴らしい。
 異変を察知しKCBに向かう藤宮だが、「地球の意思を見失った、裏切り者め」と破滅教団に行く手を阻まれ、取り囲まれてしまう。同じ頃、メザードのパルスパターンを確認して現場に近づいていた我夢もまた、メザードの支配下に落ちてしまった瀬沼に銃を向けられ……何かと憎まれ役ポジションの瀬沼さんですが、とうとう、主人公に銃を向ける役に(笑)
 チーム田端はゾンビパニック再来から逃げ惑い、これだけだと以前の回そのままになってしまうところですが、電波干渉で状況を把握できずに焦れるエリアルベースのブリッジ視点を挟み込む事で事態の規模を大きくすると共に緊迫感を高め、今作の武器である複数視点の使い方と、それによる物語の広げ方も巧妙。
 カナダ回では実質ゲスト企画回めいていた事もあってか今ひとつの出来だった長谷川さんですが、やはりテクニックがあります。今回は特に、怪獣と文明、地球と人間、メザードの作戦規模の大小、といった対比となる要素を複数絡めながら、自然とそれらの物事がマクロとミクロで関係しあっているのが見えてくるようになる、という作りが巧い。
 最近すっかり体当たり要員の田端と倫文は体を張って玲子を逃がし(説得力はどうも微妙ですが、玲子さん、局の売れっ子アナ設定ですしね……)局内の一室に逃げ込む玲子だが、
 「許せない……」
 「え?」
 「藤宮くんの目を曇らせるだなんて、酷い女」
 逃げ込んだ部屋のモニターに浮かぶ稲森博士(ひー)
 「…………まさか」
 「私が、彼の悩みを断ち切らなくちゃ」
 あっさりと電話に屈していた田端と倫文らにより玲子は掴まってしまい……一方、内なる筋肉との対話を怠っていたのか、破滅教団に筋力で敗北したらしい藤宮は、瀟洒なバーのような一室で目を覚ます。流れる優美なピアノを奏でていたのはドレス姿の稲森博士で、藤宮にしてみるとトゲ付きの鈍器で次々と後頭部を殴打される鬼のような展開。
 「何度……その姿を利用したら気が済む!」
 「私をホログラムだとでも思っているの?」
 「なに……?」
 「私……帰ってきたのよ? ……藤宮くん。ほら」
 立ち上がった稲森は藤宮の頬に手を伸ばし、その実体を感じながらも、横に立つ稲森には決して視線を向けず、正面を見据えたまま目を見開く藤宮が好演。
 「また地球について一緒に考えましょ? 昔みたいに」
 脚本の吉田伸さんの謀略(らしい)により、藤宮に想いを寄せて何くれとなく手助けする年上の女、として登場した稲森博士ですが、演出上は仄めかすに留めながらも、(主に女優さんの力かなと思いますが)匂わされてきた情念が存在していた事で場面の奥行きが増し、吉田脚本で積み重ねてきた部分もしっかり活かした話運び。
 (なお個人的には、稲森博士は「振り向いてもらいたい」人であって、実際には藤宮が「振り向かない」からこそ成立していた関係、だからこそ、どうにもならない渇望があれだけの暴走をさせてしまったのではないか、と解釈しています)
 藤宮が年上の女性に迫られている頃、我らが高宮我夢は年上の男性に銃で脅されていた。
 だから! 僕のマネージャーは! どこのパラレルワールドに居るんだガイアーーー!!
 瀬沼「たった数百年で、二百種以上。人類が絶滅させた動物たちの数だ!」
 稲森「人間はそのエゴで、他の生物を殺し続けている。それどころか互いに憎み合い、恐ろしい殺戮兵器で、この地球自体すら破壊しかねない。まさにガン細胞そのものよ」
 瀬沼「もし地球上で絶滅してもいい種があるとすれば――それは人間だけだ!
 稲森「せっかく地球が与えてくれた力。それを正しく使えず無くしてしまうだなんて。……もう一度取り戻すのよ。あなた自身の手で」
 ここで少し、説教モードが長広舌で入るのですが、二つのシーンを交互に見せて台詞を分ける事により、淡々と語りが続いてしまうのを避ける一工夫。まあ、感化されてもおかしくなさそうな稲森博士と違い、完全に操られている瀬沼さんの言い回しがどうしても浮き気味になった上に、操っていると思われるメザードが、青春の主張みたいになってしまいましたが。
 巧くやれば、逆洗脳出来るのではないか、メザード。
 その頃、チーム・ライトニングは以前の対応策により波動クラゲをあぶり出し、破壊に成功。だが既にKCB内部に本体を移していたサイコメザードの精神干渉波は増大を続けていく……。
 「コマンダー……これはいったい」
 「敵は、干渉電波を広範囲に拡散させるつもりだと思われます」
 メザードがKCBを占拠した目的、それは看板女子アナへの転職、ではなく、放送局の電波をジャックして、より広範囲の精神汚染を実行する事にあった!
 「人間同士を戦わせ、自滅へと追い込む。それが敵の本当の狙いだ」
 繰り返されてきたメザードの実験は最終局面を迎えようとしている――人類全体に迫り来る危機を食い止めるべく、こんな事もあろうかと鍛え続けてきた筋肉で反転して瀬沼の不意を突いた我夢は、消火器アタックで窮地を脱出。
 なにぶんハーキュリーズに鍛えられている上に、トレーニングへの意欲が高く、色々な意味で度胸はある我夢、割と逸材なのかも。
 一方、筋肉への信仰心が薄れつつある藤宮は、稲森の囁きを耳に立ち尽くしており、「迫り来る破滅から手段を選ばず地球を救う」事に邁進してきた男がその芯を失ってしまい、鍛える理由を無くしてしまった者の寂寥感が突き刺さります。
 「俺がもう一度……アグルの力を」
 「そう。きっと出来る筈よ」
 既に立証されているように、アグルの力=筋肉であり、内なる筋肉への信仰を取り戻させようとする稲森は、二人の前に捕まえた玲子を連れてこさせる。
 「迷いを捨てて。そうじゃないときっとまた藤宮くんは忘れてしまうわ」
 藤宮に寄り添う稲森は、黒光りする拳銃を横から差し出す。
 「地球を救うという大切な使命を。……邪魔な存在は全て消すのよ」
 その様子を物陰から窺う我夢は稲森がクラゲの擬態だと気付くが、拳銃を受け取った藤宮はその銃口を玲子……ではなく、稲森へと向ける。
 「おまえは、稲森博士じゃない! 消えろぉ!!」
 「あなたに私が撃てるかしら? 撃てば二度と私は、あなたの前に現れないのよ? それでもいいの?」
 「俺は……(俺はやはり、ベリーショートが好きなのか?)」
 「藤宮くんには私が必要な筈よ? あなたの理想、あなたの孤独、その全てを理解できるのは、私しか居ないんだもの。(ベリーショート派の筈の)藤宮くんをこんなにも、堕落させて……」
 「その人が苦しんだのは人間だからじゃない?! 藤宮くんも私たちと同じ人間だから!」
 「――その女を撃ちなさい。そして ベリーショート派に戻るのよ もう一度戦うのよ。地球を救うため、愚かな人間達をこの地上より消し去るのよ!」
 (※サイコメザードの精神汚染により一部ノイズが入っておりますが、気にしないで下さい)
 ベリーか、ボブか、迷える藤宮はプルプルしながら拳銃を玲子へと向け、それを受け入れるように目をつぶる玲子。物陰から我夢が飛び出したその時、藤宮が撃ったのは――稲森博士。
 「なん、じゃくなやつ……いつも肝心な時に……」
 ぐさっ!
 藤宮のMPがごっそり削られた!
 場面も場面なので笑わせる意図は全くないと思うのですが、藤宮(アグル)の戦績が戦績だけに、妙に面白い台詞に(笑)
 「…………俺には、何も救えはしなかった。何一つ」
 稲森に擬態していた波動クラゲは自ら増殖を宣言し、それを追う我夢は、メザードの潜り込んだ電波の世界へと突入していく。
 「僕を導いてくれ、地球の光よ……ガイアーーー!!」
 ここで、ガイアに変身したらなんかケーブルに入り込めました、ではなく、先に「出来るのかわからないが頼む」と地球にお願いしておく事で、電波世界に突入できた事の説得力が増しつつ、変身そのものも劇的になり、今回の地味に好きな台詞。
 地球の為に人類は滅ぼすべきだと囁きかけるメザードに対し、地球はまだ人類を見捨ててはいない、という我夢の信念で反証する、というアンサーとしても機能していて、今作におけるウルトラマンの意味づけに繋がっているのも、お見事。
 電波の世界をくぐり抜け、コンピュータワールドもとい、不気味な紫色の靄が立ちこめる次元の裂け目へと乗り込んだガイアは怪獣の姿を見せた女王クラゲと対峙するが、女王クラゲは地底貫通ミサイルの藻屑となった地底怪獣達の怨念を集める事で、偽アグルを作り出す!
 以前に少し触れた、地底怪獣とウルトラマンは同質の存在(力の現れ方の違い)なのかもしれない、という推測がはからずもメザードの手で現実化してしまったのですが、あくまで破滅招来体の介入という事で判断は保留するとしても、久々のvsアグルが映像的に盛り上がるというだけでなく、人類に対する地球の裁き=アグルの力ではないか、という初期藤宮の思い込んでいたアグルが、怨念の結集という形でここに現出するというのが、「地球の光に導かれたガイア」のカウンターとして、よく出来ています。
 「今は生きる事だけを考えろ! 俺はもうこれ以上、誰も失いたくない」
 玲子の手を引いて逃げていた藤宮だがゾンビ軍団に囲まれ、色々と鬱憤のたまっている瀬沼さん(操られているだけです)の左ストレートが顔面に炸裂し、ガード地上部隊に銃を突きつけられる。
 「争え! 滅べ! これが地球の意思! 人間の運命だ!」
 ガイアは奇妙な空間で偽アグルと蹴りを打ち合うが、地球の意思を騙る女王クラゲの放電攻撃を背後から受け、挟み撃ちで大ピンチに。
 だいたい1話にまとめてしまうけど、これはさすがに前後編になるのか?! と思われたその時、梶尾機が撃ち込んだ特殊弾がクラゲ超空間を破壊し、消滅する偽アグル。ガイアは腹部の獣面からダラダラ涎を流して苦しむ映像が大変気持ち悪いクインメザードを大逆転で木っ葉微塵に吹き飛ばし、間一髪、操られていた人々は精神汚染から解放されるのであった……。
 ガイアの危機をXIGが助ける、というのはこれまで何度もありましたし今作のテーマにも則っているのですが、メザード編集大成ともいえる(最終クールにまた出てきそうな気は凄くしますが)激動の展開に、戦闘も盛り上がっていただけに、前振りゼロの特殊弾から、駆け込み乗車のごとくあまりにざっくりクイーンを吹き飛ばしてしまったのは、残念だったところ。
 メザードが人類を研究してきた一方、それは人類がメザードを研究する機会を与えてもいた(だからさっくり通常クラゲは撃墜できた)、という流れは納得できるので、ジオベースが切り札を生み出すにあたり樋口さんの登場カットでもあれば違ったのですが、これはキャスティングの事情などもあって手が回りきらなかったか。
 最初から最後まで大変楽しめたエピソードだけに、ちょっとした瑕疵が、惜しいポイントとして目立ってしまいました。
 「藤宮くん……あなたは、ちゃんと救ってくれたわ」
 「俺のせいで……稲森京子は死んだ」
 「でも……」
 「…………その事実は、決して変わりはしない」
 ある意味で再び、稲森京子を殺す事になってしまった藤宮は失意を抱えたまま孤独に立ち去っていき……
 「いつまで過去に囚われてるつもり?!」
 その背に向けた玲子の叫びも、届かないのであった(……たぶん)。
 …………以前、あくまで玲子にほだされる事なく格好つけて背を向け立ち去ったのかとばかり思っていたら、次の回で玲子に助けられて車に乗せられていた例があるので、次回、玲子宅に居候しておかゆとか作って貰っていない事を祈りたい。
 そこからEDに入り、廊下に鈴なりに倒れていたTV局の人々が次々と目を覚まして田端さんと電話のやり取りをコミカルに描き、このまま原田監督お得意の手法でコメディタッチで終わるのかな、と思ったら……
 雑踏に消えようとしていた藤宮がすれ違った母娘の一人が、偶然にもかつて藤宮が衝動的にビルの崩壊から助けた少女であり、藤宮に気付いて駆け寄ってきた少女からその時のお礼を言われる、というのが、物凄く良いシーンでした。
 これは参った。
 帰還早々、フェニックス(フェニックス……!)する筈が毎度ながらの詰めの甘さで失敗し、殴られたり言い寄られたり殴られたり心身ともに散々な目に遭っていた藤宮に、言葉ではなく、これ以上無い事実として、(この件自体が若干のマッチポンプではあるとはいえ)かつて救った者の笑顔を見せる――藤宮博也が“人間”として捨てきれなかったものを見せる――というのが、EDでの不意打ち効果も含め、素晴らしかったです。
 笑顔の少女に思わず微笑しながら手を振り返しそうになって慌てて引っ込めた藤宮は今度こそ歩み去って行き……その横を通り過ぎるらくだ便……とは特に何もありませんでした!
 「いつまでも、過去を気にしてちゃ駄目よ」
 諭すような玲子の呟きで、つづく。
 大満足の一篇でしたが、もし私が玲子さんに思い入れがあれば、更にもっと面白かったかもなぁ……というのが、つくづく惜しまれます(笑) 容姿も、性格も、台詞の説得力も、正直一つもピンと来ておらず、未だにどうしても玲子さんというキャラクターの説得力を脳内補強できずに見ているのですが、逆に言うと、玲子さんへの思い入れ補正を全く持っていないのにこれだけ面白いのが凄い、と考えた方がいいのか(笑)
 次回――迸る筋肉vs筋肉! そして、私は信じていました原田監督ーーー!! 予告の時点で情報量多すぎてお腹が破裂しそうですが、黒服の人は……もしかして風水師? 曖昧な状態が続いていた地底怪獣とウルトラマンの関係に触れつつ怪獣被害者問題まで盛り込んでその流れで梶尾さんの心のマグマが目覚めるの?! なんかもう、予告からの妄想だけで楽しみな事が多すぎて少し落ち着いてハードル下げた方がいい気がしてきましたが、果たして、梶尾さん大好き同盟(命名:もりみやさん)の、運命や如何に?!