東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
旧ダイアリー保管用→ 〔ものかきの倉庫〕
特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)
HP→〔ものかきの荒野〕   Twitter→〔Twitter/gms02〕

黄金週間の読書メモ

病み上がりに読書の波が来た

◇『猫柳十一弦の後悔』(北山猛邦


 大東亜帝国大学の探偵助手学部に通う貧乏学生・君橋と月々の2人は、ふざけ半分で第三志望に書いた、知名度ゼロの猫柳ゼミに振り分けられてしまう。ゼミを担当する名探偵――猫柳十一弦は、功績不明でどう見ても頼りなく、これではとても真っ当な探偵助手になれないのでは……と嘆く2人だが、名門ゼミとの合同研修で向かった孤島で、なんと本物の殺人事件が!
 短編はアンソロジー収録作品を読んだ覚えがあるのですが、長編では初・北山猛邦
 勝手ながら、ゴテゴテした本格本格ミステリの書き手、といったイメージがあって触れていなかったのですが、外界から孤立した島で発生した不可解な殺人、という如何にもな筋立てに、軽妙なタッチと活き活きとしたキャラクターが挑み、面白かったです。
 内容としてはシチュエーションからしてメタミステリ的な要素を含んでいますし、それに絡んで後期クイーン的問題への意識も見えるのですが、探偵と探偵助手見習い(語り手)を分ける事により、それをスムーズに物語の中に取り込む事に成功し、とある仕掛けが絶妙に機能する事でテーマに拘泥しすぎる事なく物語構造の中に取り込んでみせたのはお見事。
 キャラクターの関係性も好みで、当たりの一作でした。

◇『探偵は教室にいない』(川澄浩平)


 差出人不明のラブレターを貰った中学生の少女・海砂真史は、悩んだ挙げ句に交流の途絶えていた幼なじみに相談を持ちかける。9年ぶりに出会った少年・鳥飼歩は文句を言いながらも、明晰な頭脳でラブレターの謎に挑むのだが……。
 中学2年生の少年少女をメインに据えた、“日常の謎”系青春ミステリ。出来としてはぼちぼちでしたが、総じて読後感は良かったです。
 作者の文体のテンポ、といえばテンポですが、物凄く長いならまだしも会話文の「」内で改行するのがあまり好きではないので、それが連発されるのと、文章そのものにページ稼ぎめいた傾向があるのは、マイナス。色々詰めていくと200ページ以下に収まりそうなので、鮎川哲也賞受賞作として出版する際の改稿において、一冊の本にする為に水増しを求められたのではないかと、余計な事を勘ぐってしまいました。
 “物語”の内容を損ねるものではないですが、“読書”という体験には適度なボリューム感も必要だと思うので、読み物としての満足感はやや薄くなってしまい、そこは不満点。

◇『碆霊の如き祀るもの』(三津田信三


 後輩にあたる編集者から、その故郷にまつわる4つの怪談を教えられた放浪の作家にして民俗学者・刀城言耶は、依頼を受けてその地に向かう事に。だがそこで待ち受けていたのは、閉じ込められていたわけでもないのに、竹林の中で飢え死にしたと思われる奇妙な死体から始まる、謎めいた殺人事件であった……。
 狭い岬と険しい崖に挟まれ貧しく辛い過去を持つ村に伝わる怪談、それを今も伝える祭に関わる民俗学的な謎と、その地で起きた怪談に見立てたとしか思えない殺人事件――二つの謎が幾重にも絡み合い、言耶がそれに挑む事になる、というシリーズ第7長編。
 このシリーズは『水魑の如き沈むもの』(傑作なので大変お薦め)が非常に面白かったので楽しみにしていたのですが、少々、期待外れの出来。
 殺人事件そのものはミステリとして魅力的だったものの、民俗学的な種明かしの方があまり面白くなく、それが重なり合う事で全ての解明に至るクライマックスが、どうもパンチ不足に。また、謎解きは極めてロジカルに取り組まれる一方、オカルトを許容する世界観が背後に横たわっているのがシリーズの面白みなのですが、それも今作に関してはあまり巧く機能せず、シリーズの長所が上滑りして発揮されなかった、という印象。

◇『推定未来』(間宮夏生)


 捜査一課犯罪未然防止対策係――通称「ミゼン」。所轄の刑事である君島は、憧れの捜査一課は捜査一課でも、犯罪予報によりこれから起こりうる犯罪の確率を導きだし、実際に事件が起きる前にそれを解決しようとする、眉唾な鼻つまみ部署に転属する事になってしまう。“人の不幸を呼ぶ女”と囁かれる美人係長・如月美姫が、君島をスカウトした理由はいったい何なのか? 首をひねりながらも君島は、ミゼン流の捜査活動に加わっていく事に。
 あらすじからP・K・ディック的なSF要素の入った捜査ものかと思ったら、あれよあれよと話が全然違う方向に。割と序盤でピンと来る要素が仕掛けの一部かと思っていたらそれが本筋で、後半になるほど盛り上がれなくなってしまいました。
 ヒロインの描写には力が入っている一方で主人公がどうにも薄味で、読んでいて応援したくなるわけでもないのも苦しく、重い過去を背負わせるなら背負わせるで、もっとそこを腰を据えて掘り下げて欲しかったかなと……そこの掘り下げが弱い(重ければ良いというわけではないのですが、重い設定に対して、小説としての覚悟が足りなく読める)ので、そこから派生する主人公の心の動きや動機付けの全てが弱くなってしまったのが、残念。