『電撃戦隊チェンジマン』感想・第37話
◆第37話「消えたドラゴン!」◆ (監督:山田稔 脚本:藤井邦夫)
鬼軍曹の殺意と戦士団との絆により、自分たちを信じ抜きアースフォースの全てを引き出したチェンジマンの生み出した、殺人魔球大リーグバズーカ2号により、精鋭三銃士とスーパーパワーを破られたアハメスは、巨大頭脳でチェンジマンの戦闘記録を分析し、あらゆる魔球に対応する宇宙獣士バルルカを召喚。
定番のデータ型怪人ですが、特撮ヒーローの悪役以前にもルーツは存在しているだろうとした上で、本邦特撮ヒーロー作品におけるはしりは何になるのでしょうか……ぱっと思いつくのは『ウルトラセブン』のガッツ星人ですが、今回のバルルカの見た目は、どこからどう見てもメトロン星人。
守備隊の基地を攻撃しチェンジマンを誘き寄せた頭脳獣士は、チェンジソード(射撃)をかわし、グリフォンアタックとドラゴンアタックを無効化するという実力を見せつけ、そこに飛来するアハメス。
「チェンジマン! 三銃士の恨みを晴らしてやる! ここが貴様達の墓場だ!」
マジカルビームが炸裂し、形勢不利と見たチェンジマンは、三十六計逃げるに如かず。だがアハメス怒りの猛攻を受け、仲間達の撤退を支援していたドラゴンに突き刺さるマジカルビーム。大爆発が収まった時、そこに残っていたのはチェンジスーツの燃え滓……?!
仲間達を支援して、という形でリーダとしての存在感を強めつつ、チェンジドラゴン戦死?! という強烈な映像で、チェンジマンは前々回の前回の今回でまたも空前の危機に陥り、アハメスはEDで身につけていた赤い陣羽織を着てバズーにこれを報告。
電撃基地では負傷姿も痛々しい4人が打ちひしがれ、必死の捜索も虚しく剣飛竜はMIA(作戦行動中行方不明)に。
「どこに行く?」
「じっとしていられません! 捜しに!」
「待て! それは許さん」
飛び出そうとした疾風は長官の制止を受け、考えたくない現実に涙をこぼす。
「……長官……ひょっとしたら……剣は……」
「そうだ。倒された可能性もある。……だから残されたお前達までやられるわけにはいかんのだ」
長官はじめメンバーの判断のシビアさが実に軍人戦隊であるチェンジマンらしいところで、疾風達4人は剣の生存を信じつつも、現有戦力での徹底抗戦を改めて誓う。
涙を飲み込み飛竜不在でも戦い抜く決意を語る疾風、飛竜は絶対に生きていると熱く信じる勇馬、と男性陣にもだいぶコントラストがついてきて、特に中盤以降、飛竜と疾風の戦友の絆が強まっているのですが、赤黒のツートップ化というのは曽田戦隊では2年前の『科学戦隊ダイナマン』のキャラ配置を思い出すところ(『ダイナマン』は、赤黒の戦闘力がより抜けていましたが)。一方で、メンバー間の横の繋がりが薄めだった『ダイナマン』と比べると、女性コンビの強化や、飛竜と疾風の関係性の変化などに、戦隊作劇の変遷も見て取れます。
正直、麻衣は単独だとキャラ薄めなのですが、さやかとのコントラストにより存在感が出せていますし(裏を返せば、個別の掘り下げが多少弱くても他者との関係性でキャラクターは成立できる)、前年からの女性メンバー2人体勢が上手い形で活用され、激情家揃いのメンバーの中で、さやかだけは感情を抑え込んで涙を見せない、というのも細かく良い色分け(反重力ベルト回で飛竜×さやかの絡みがあったので、そうしていても冷たく見えないのもポイント)。
「……そうだな。剣は必ず帰ってくる。それまで俺達が戦うんだ」
一方その頃、墜落ダメージには強いが爆破ダメージには弱かった飛竜は、血まみれの手で何とか瓦礫の下から這い出していた。
「勝てない……ドラゴンであり、剣飛竜である限り、バルルカに全てを読まれ、倒す事はできないのか」
蘇生を喜ぶよりも早く雪辱に燃える飛竜は、飛んできたフクロウの姿を目にして電流走る。
「昼間はぼんやり眠り……夜になると……は?! そうだ。夜になると獰猛な鳥に代わるフクロウ。……変わるんだ! ドラゴンである事を捨てて変わるんだ!」
まずは基地に連絡しよう、とか、とりあえず傷の手当てをしよう、より前に、殺意の滾る飛竜の姿が、なんだか大変面白い事に(笑)
「……俺は今までの全てを捨てる」
一夜明け、ゴズマは改めて地球全土に宣戦布告を行い、総攻撃を開始。
「剣の居ないお前達に出来るのは、そこまでよ!」
「黙れぇ! 俺達は地球を守る戦士だ! たとえ一人になっても貴様達と戦うぞ!」
「ふん! ほざけぇ!」
「無駄な事だ。ははは」
「剣の分まで戦うぞ。――レッツ・チェンジ!」
疾風の指揮で変身する4人だが、頭脳獣士の演算能力を打ち破る事が出来ず、またも大ピンチ。……それはそれとして、チェンジソード(射撃)を瞬間移動で避けるバルルカの、横に立っているブーバを不意に撃ったら当たりそうな気がしてなりません(笑)
「貴様達がチェンジマンである限り、その考えと技は、俺の頭脳で全て分析してあるんだ」
倒れた4人にトドメが迫ったその時、不意に高所から転がり落ちてくるヒドラ兵。一同の視線が集まった倉庫の上に立っていたのは、正義のシンボル・コンドールマン!
……じゃなかった、白い仮面で顔を覆い黒いマントと帽子で全身を包んだ謎の怪人であった! 怪人はチャクラムを投げつけると姿を消し、ここでアイキャッチからBパートに入ると黒マントの怪人に翻弄される獣士の主観に切り替わり、獣士がビームを放って怪人を倒したかと思うと、マントの下は身代わりのヒドラ兵! という展開が三連発。
「何者だ?! 誰がヒドラ兵を利用してるんだ」
獣士がマントをめくる度に、激しい不協和音が鳴り響くショック描写が重ねられ、頭脳派の宇宙獣士が神出鬼没の怪人に心理的に追い詰められていくという、大変面白演出(笑)
視聴者には怪人の正体はわかっているわけですが、飛竜がこの為にヒドラ兵を狩り集めていた(飛竜にとって都合の良い事に、ゴズマの大攻勢によりヒドラ兵はそこら中に居た筈)のかと思うと、三途の川を渡りかけた恨みの深さに鳥肌が立ちます。
つまり……これぞ、悪魔的奸智!
地獄の闇からやってきた、闇の怪人の悪魔の謀略に翻弄され、前後を黒マントに挟まれた頭脳獣士は困惑しながらも双方を射殺するが、やはりこれも、その正体はヒドラ兵。もはや相手にしていられない、と頭上に姿を見せた悪魔的怪人を無視して去ろうとする獣士だが、その時、今度こそヒドラ兵ではなかった怪人の放った新魔球・ファントムチャクラムが獣士の後頭部に突き刺さる!
「おのれ~! 何者の攻撃か読めん?!」
混乱が頂点に達した獣士はとうとう巨大頭脳がオーバーヒートを起こして藻掻き苦しむが、そこへ襲いかかろうとする怪人にカバーリングには定評のあるブーバが躍りかかって仮面が切り裂かれ、外連味たっぷりにマントを脱ぎ捨て帽子を外して現れた怪人の素顔は――復活した剣飛竜!
「ブーバ! 貴様達が地球を狙っている以上、俺はやられるわけにはいかないんだ! みんな! バルルカの脳細胞は完全に破壊した。俺達の攻撃は読めない! 見ろ!」
なんか、我々よりエグい戦術を使っている民間人?が居るんだが……と状況を遠巻きに見守っていた疾風たち4人が歓喜の合流を果たし、ID野球を打ち破るどころか、もはや人格さえズタズタに引き裂かれ、記憶に異常をきたして暴れ回る獣士を前に、レッツチェンジ。
5人の揃い踏みから久方ぶりにスッキリした形での主題歌バトルも美しくはまり、いやこれは、名作回。
データ派の怪人にデータに無い技で逆転するというのは定番の攻略法ですが、アハメスの脅威を示すピンチ表現としての生死不明を活用し、勝利の為にヒーローである事さえ捨てるという離れ業により、謎の助っ人プロットを茶番にならない必然性を持ってミックス。ヒドラ兵の死体を積み上げる心理戦で敵を徹底的に追い詰め、データを無効化する為に精神を崩壊させる(そこまでやる為に、一度死ぬ事に必然性が生まれ、実際、帽子を脱ぎ捨てる際の仕草などにはズバッと快傑しそうな別人格へのなりきりぶりも窺えます)という結末への連結は、お見事。
また、獣士主観の心理的圧迫感とその背後に横たわる薄暗さ・ドラゴンを失い追い詰められるチェンジマン、という二つの状況を赤ジャケットの剣飛竜復活により同時に吹き飛ばす事で、揃い踏みから主題歌というクライマックスバトルにおける「ここからはヒーローのターン!」というのが二重の意味を持つに至り、常以上のカタルシスを生み出すというのも鮮やかにはまり、ここに来て脚本演出ともに会心の出来。
敵味方も認識できずにビームを撃ちまくる獣士にブーバはやむなく撤退し、ドラゴンは錯乱状態の頭脳獣士にドラゴンアタックを叩き込むと、大リーグバズーカ2号で爆殺。
新バズーカの破壊力の上昇は、前回に続きミニチュアの陶器人形のような獣士を、木っ葉微塵に粉砕する事で表現(ウルトラ怪獣の爆殺演出のエコノミー版とでもいいましょうか)。
巨大化した頭脳獣士にビーム攻撃を受けるチェンジロボだったが、空襲からスーパーサンダーボルトで成敗。
難敵を打ち破り、無事に飛竜も生還したチェンジマン……だが、疾風達4人は歓喜にむせぶ、事はなく、それぞれ不満げにそっぽを向き、そんな4人の間を歩き回りながら懸命に作戦を説明する飛竜(笑)
「おい! 聞いてくれよ! バルルカを倒す為にチェンジマン以外の人間になり」
黒「あー腰いてぇな」
「違う戦法で戦い」
白「ふぅ」
「やつの頭脳を破壊するしかなかった」
桃「はぁ~あ」
「だから、やられたと思い込ませて接近したんだ」
最初は明るい笑顔だった飛竜が、皆の反応に段々と眉が落ちていきつつ、少しずつ離れた場所に立ったり座ったり寝転んだりしている4人に、誰か俺の話を聞いてくれ、と次々アピールする姿が台詞のテンポも良く、大変面白い事に。
青「…………それにしたって一言いってくれりゃいいのになぁ」
「いやぁ。……みんなの顔を見ると別人にはなりきれない」
桃「あっち行って」
勇馬が態度を軟化?! と喜ぶと再び言い訳を始め照れ笑いで麻衣の肩に手を置いてみるが、払われるのが素晴らしかったです(笑)
「仲間に甘える気持ちが、さき」
白「ふん」
「先に立つだろ? な?」
黒「なるほど。いつもの剣とは違う、非情な男に成り切る為だっつうのか?」
「……ああ」
黒「格好つけるんでないよ、ホントに! え!」
困り顔の飛竜のコミカルな芝居も良く、飛竜の頬をつまむ疾風。
白「さっすがドラゴン……と言いたい所だけど、ねぇ~麻衣」
桃「ほーんと。本っ気で悲しんだこっちの身にもなってよね、うん」
白桃「「このー!」」
最後は笑顔の4人に一斉に手足を掴まれ、土手の斜面に向けて投げ落とされる高所転落のプロフェッショナルであった、でオチ。
正直予告からは、死んだと思ったが実は……パターンにあまり期待していなかったのですが、上述したように「生死不明だから出来た作戦」である部分を徹底して追求した事が演出も合わせて劇的な面白さを生み、あっさり喜んで大団円としないラストのやり取りも気持ち良く、大変面白かったです。
また今回、「アハメスの攻撃によりドラゴン生死不明」という史上空前規模の危機をチェンジマンに与え、そこからの逆転劇を描く事により、言ってみれば女王アハメスのスーパーパワー編の構造そのものを定型エピソード1話の中に凝縮。そこから『チェンジマン』の“お約束”である主題歌バトルにいつも通りに持ち込む事により、今回ばかりでなく、苦戦に苦戦を重ねてきたこの数話分のカタルシスを戦隊フォーマットに則りまとめて爆発させているのが非常に良く出来ており、勝利の後に仲間達の関係性を再確認するラストまで含めて、冴え渡る構成でした(前回は長官や戦士団、電撃戦隊全体の結束の高まりに比重が置かれたので、その部分も補われている)。
敢えて難を言えば、大口叩くもスーパーパワーを破られたアハメスに対して特にバズー様からお仕置きがなく、アハメス側の切迫感が見えなかった点ですが、尺の都合でカットされたのかもしれず、またそこまで手を伸ばすと藤井先生の悪い詰め込みすぎパターンに陥った気もするので、総合的には致し方なかった部分でしょうか。
もはや、バズー様はアハメスの隠れファン、という事でいいのではないか(ギルークを遠征軍司令に任命したのも、反乱分子の芽を摘む為ではない意味で、アハメスとの接触を期待していたのでは…)。
次回――野球。……これだ! この回が映像だけ知っていて、凄く見たかったんです! どう転ぶにせよ、楽しみ。