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間違いじゃない 君が信じてたこと

ウルトラマンガイア』感想・第29話

◆第29話「遠い町・ウクバール」◆ (監督:原田昌樹 脚本:太田愛 特技監督:原田昌樹)
 「ウクバールは、どっかにあるんだ。だって、俺の故郷なんだから」
 (――あの、永田という名の男は、この世に生まれてからずっと、長い長い夢を見ていたのだろうか。それとも……永田の言っていた事は、全て本当の事だったのだろうか。)
 荒れ果てた廃屋に佇むチーム・ハーキュリーズの吉田は、三日前、幼なじみの友人・庄司と飲み歩いていた日の事を思い出す。
 「実はよ……俺今日一日トラック乗ってたんだよ。……宇宙人と」
 「…………宇宙人と?」
 役者の卵である庄司が、新たに始めた宅配便のバイト先で出会った指導役・永田は、通称「ウクバール」と呼ばれ、自分は宇宙のどこかにあるウクバールから来たと思い込んでいる、変わり者の中年男性。
 「ウクバールという町ではね、いつも風が吹いてるんだ」
 丸一日、宅配の仕事中にウクバールについての話を聞かされてうんざりした庄司はつい、「ウクバールがあるのは永田の頭の中だけだ」と言い放ってしまい、それを反省。酒の愚痴混じりに、いっそ永田が地球人である事が証明されれば、ウクバールは幻想に過ぎないとわからせる事が出来るのでは、と“専門家”である吉田に相談を持ちかける。
 「地球人の、証明ですか……地球人てことは……」
 「そこ、さりげなくサボるな」
 「はは……辛い……」
 「物事の基本は、体力……!」
 その背後にある庄司自身の屈折した感情を慮ってかどうか、吉田は幼なじみの悩みをチームメイト&筋友(きんとも)の我夢に語り、ごく当たり前のように筋トレしながら頭を絞る4人、ひたすらてかてかする画面がもはや前回より異常高温。
 「いやぁ俺、物心ついた時から、なんとなく地球人だったし……」
 「俺も誰かから、おまえは地球人だーーーっって教わった事はないし」
 30kgのバーベルを持ち上げるのに紛れて、そもそも、存在の証明とは何か? という命題――その点において、人は誰しも、ウクバール人たりえる――がさらっと挟み込まれているのが好きなやり取り。
 乳酸がいい感じに脳細胞に回ってきた我夢は永田の生家を探す事を思いつき、どういうデータにアクセスしているのかだいぶ不安になりますが、筋トレがハッキングを加速させる事は、藤宮理論が証明済みです。
 吉田は、現在は空き家としてそのままだという永田家に向かい、確かにそこで、子供が成長していたという痕跡を確認。我夢から今の永田が住むアパートを中心に微かな磁場の歪みが観測されているという連絡を受けるとそちらへと足を伸ばし、職場を無断欠勤した永田を心配してアパートへ向かう途中だった庄司と合流。
 「ひょっとして……ウクバールはどこにも無いんじゃないか? ……25年近く、探しても……探しても……ウクバールの町が見つからないのは……あの町が、俺の頭の中にしかない町だからじゃないのか?」
 前夜、庄司の言葉にショックを受けてまんじりともせず自室で考えこんでいた永田だが、風も無いのに室内で風車が回ると共に鳴った電話を取ると、その向こうから、風車の回る音が聞こえてくる。
 「ウクバールだ。ウクバールの風の音だ」
 永田はそれを聞いている内にいつしか眠りに落ちていたところを、吉田と庄司に発見されて、目を覚ます。
 「夢を見た。ルクーが迎えに来てくれんだよ」
 「「ルクー?」」
 「俺、ウクバールに帰るんだ」
 喜ぶ永田の姿に、怪訝な表情を見合わせるしかない吉田と庄司。
 「ほら、ウクバールの風の音が聞こえる」
 永田が差し出した受話器の繋がる電話は……どこにも電話線が繋がっていない。
 「なんでわかんねぇんだよ……いいかおっちゃん! ルクーなんて居ない! ウクバールなんて町は、そんな町はどこにもねぇんだよ!」
 出会ったばかりの永田を心配しつつも、ウクバールの存在を反射的に否定せずにはいられない庄司は、“いい年(設定年齢は不明ですが、演じる寺島進さんは当時36歳)して芽の出ない役者の卵”であり、見果てぬ夢を見続ける永田の姿に思わず己の未来を重ねてしまう事で、応援する事も突き放す事もできないのかとは想像できるのですが、このエピソードの特徴は、そんな庄司の心境は、周辺情報から匂わされるだけで、全く掘り下げて語られない事。
 ウクバールの実在も、永田の正体も、それと関わってしまった庄司の心情すらも、一定以上に語られない事で、エピソード自体が丸ごと幻想と現実の境界線にたゆたう事となり――永田の生家が完全に存在しないのではなく、記憶の残滓を残した廃屋となっている――というのも、それをより印象深くします。
 つまり、信じられるのは自分の筋肉だけ。
 ……すみません、我慢できずに台無しな事を書きました。
 ハイ。
 戻ります。
 庄司が永田の“目を覚まさせよう”と躍起になる横で、恐る恐る受話器を耳に当てた吉田は、その向こう側に確かに風の音を聞き、それを庄司にも手渡す。庄司もまた風の音に目を見開いた時、風車を回す風が激しくなり……
 「ルクー!」
 アパートの窓硝子が砕け散ると、永田が幻視していた巨大な怪獣が、街に出現する。
 「ルクー……!」
 それを、自分を迎えに来たウクバールの守護者だと信じる永田は、避難する人々をかきわけながら怪獣の元に満面の笑みで走って行き、敢えて戦闘シーンを盛り立てるアップテンポではないBGMの中、ファイター部隊は怪獣に攻撃を仕掛け、続けてガイアが登場。
 ルクーに声を届かせようとする永田は鉄塔を登っていき、それがどこか不安定さを感じさせる斜めの映像で挟まれる、というのが雰囲気が出て良いシーン。
 街への進行を止めようとするも筋肉不足で振り払われたガイアが、背後から光線技を叩き込もうとしたその時、ルクーが永田の存在に気付き、そして、永田を探していた吉田と庄司は、夕焼けに染まり始めた空に、不思議な鐘の音が響き渡るのを耳にする。
 (ウクバールでは、夕方んなると大きなサイレンが鳴るんだ。そしたら、みんなうちに帰るんだ)
 「……まさか」
 ガイアも思わず光線技を中断する中、空を見つめた永田は、そこに黄昏の雲間に浮かぶ、塔と風車の町を発見する。
 「ウクバール……ウクバール!」
 サイレンが鳴り止んだ時、ルクーは陽炎のように姿を消し……
 (そしてあの日以来、永田は忽然と姿を消してしまった)
 冒頭に戻り、永田の生家を訪れていた吉田は、壁にかかった約30年前のカレンダーの絵が、永田の幻視していたウクバールそのものだと知る。
 (永田は、幼い頃に見たカレンダーの中の町を、自分の故郷だと思い込んでいた、ただの風変わりな男だったのかもしれない。でも……もしかしたら、ウクバールはどこかに本当にあって、永田はようやく、そこに戻ったのかもしれない)
 「あの男には、ウクバールが必要だったのかなぁ」
 「……え? ウクバール?」
 「遠い町さ」
 EDは、逆回しなどを使いながら歌に本編映像を合わせていき、狼男回と同様の手法から、原田監督自ら演出を手がけているのかなと思われるのですが、前半戦のイメージから我夢と藤宮の関係を想起させる
 「ふたり ひきさかれて」
 のところで、遠い故郷ウクバールを求めて空を見上げ続ける永田のカットを連発するのやめてくださぁぁぁい!(笑)
 しかし、
 「君と見つけよう」
 のところでカレンダーの絵がアップになるラストが非常に美しく収まり、もはや、このエピソードそのものがEDの歌詞から構成されていたのではないかとさえ思えてきてしまい、藤宮の事を忘れそうになるという、恐るべし、原田監督。
 そう、藤宮は、ウクバールへ消えたんだ……(ちょっと待て)。
 今作の基本となる、破滅招来体との戦い、という要素が完全に切り離された上に、初登場から3話目にしてアグトルニック不使用、ゲストを除くと、XIG側の登場キャラも我夢とハーキュリーズに絞られる、という思い切った変化球。
 刺さるか刺さらないかが人によって大きく別れそうなエピソードではあり、個人的にはツボに刺さってくる部分はあまり無かったのですが、1年間の作品ならではといった感のある、こういう実験的な変化球の存在そのものは、好きな要素です。
 ウクバールにしろルクーにしろ永田にしろ、徹底的に解釈は視聴者に委ねる姿勢も美しいですし、繰り返しになりますが、5-6話時点ではやや“早すぎた”感のあった原田監督の演出も、アクセントとして上手くはまりました。
 敢えて個人的に、今作の世界観に収める解釈をするならば、永田の幻想が真実かどうかはさておき、ワームホールと永田の強い思念が接続する事で、ルクーとウクバールは量子的に観測された、と言うことは出来そうですが、そう思うと、永田というのは実は“早すぎたアルケミースターズ”であったのかもしれません。
 我夢がガイアと、藤宮がアグルと、未来がアネモスと交感したように、それよりもだいぶ以前に、ウクバールと繋がったのが、永田であったのかな、と。
 ……もしかしたら永田と同年代の人々を調査すると、世界的にそういった体験者が複数居るのもかもしれず………………てあれ、見た目からはなんともいえませんが、もし、永田とコマンダーが同年代であった場合、コマンダーもまた、“篆書体を使う何か”と繋がっている可能性がある?!
 我ながら、幻想的なエピソードの余韻をブルドーザーで破壊しに行っていますが、ここから何かと思わせぶりなコマンダーの背景に繋がって、「30年前、地球には今とは別の形で破滅の危機が訪れかけていた。その時、地球が生み出し、しかし結局は使われず仕舞いに終わった者……まあ言ってみれば、“アルケミースターズのなり損ない”なのさ、俺は」とかなったら、個人的には大変ツボに来るのですが(笑)
 「我夢、今こそお前に見せよう。20年前、ガード設立に深く関わり、そして封印された力。俺達の誰もが制御する事ができなかった最強のウルトラマン――ガオウの力を!」
 「こ、これは……これは、なんて美しく鍛えられた三角筋なんだ!」
 「そうだ我夢。俺がおまえのXIG入隊を認め、それとなく筋トレの勧めを送り続けてきたのは、全てこの日の為だったのだ。今のお前なら、ガオウの筋肉と一体化できる筈だ!」
 「こ、コマンダー……!」
 そろそろ止めます。
 というわけで次回――本格的な宇宙怪獣襲来!
 で、迷宮のリリア回で妙に推されていた敦子の姉が再登場。割といきなり挿入されていた「夫は既に亡くなっている」辺りが拾われるのか?! 個人的には、梶尾さんとフラグが進行してくれてもOKです!!

※追記
 初見時、ラストのカレンダーがどうして「1966年」なのか、というのが少し引っかかっていたのですが(今作の時代設定を一応1999年と仮定した場合、少年期の永田が目にしたカレンダーだとすると、33年前では遅すぎる)、藤村さんのコメントを読んでいる内に、
 初代『ウルトラマン』の放映開始年である
 事に気付き、このエピソードの示すノスタルジーガイドラインとして、一定の納得。
 ウクバール人に帰宅を促すサイレンの音を、“夕方5時の鐘の音”と解釈するならば、そこにあるのは良くも悪くも、“あの日の幻想”なのかもしれません。それを物語として肯定も否定もせず、美しさよりもむしろ寂しさをともなって描いたのが、一風変わったエピソードでありました。