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そして西澤保彦に戻る(何度目か)

すっかり忘れていた読書メモ

◇『ミステリークロック』(貴志祐介
 防犯コンサルタントの榎本径と、弁護士の青砥純子のコンビが、趣向を凝らした様々な密室に挑むシリーズ、短編集第3弾。
 シリーズ過去作品が面白かったので期待していたのですが、いまひとつの出来。上で“趣向を凝らした”と書きましたが、今作においては収録作品のいずれも“趣向を凝らしすぎ”て、悪い意味でミステリの為のミステリになってしまった感。メインの2人も探偵役とワトソン役というポジション以上のキャラクターにならず、人物像の掘り下げが見えなかったのも残念。
 ややこしくなりすぎたトリックについて、劇中のミステリ談義においてメタ的な言い訳めいた事を書いているのも、個人的にはマイナス。
 あと劇中でやたらと「サイコパス」が連呼されるのは、表現上の問題でむしろその単語の方が使いやすかったなどの事情もあったのかもしれませんが、口にする登場人物を戯画的に安っぽくしてしまったように思えます。

◇『夜行』(森見登美彦
 10年前、祭の夜に消えた1人の女性……10年後、同じ祭の夜に集まったかつての仲間達は、それぞれの体験した不思議な旅を物語る――。
 連作エピソード形式の長編で、夢とうつつの境界線が曖昧な森見さんらしい世界観が展開するのですが、どうもこういった作品を咀嚼する素養が自分にはないな、と改めて……。

◇『昔話のコスモロジー』(小澤俊夫
 口承文学の研究者による、日本と世界の昔話の中から、異類婚姻譚をテーマとして比較検討した一冊。同じ「昔話」というカテゴリの中に見える地域性・民族性が浮き彫りになり、日本の昔話の特性もわかってきて、面白かったです。

◇『仔羊たちの巡礼』(西澤保彦
 匠千暁シリーズ長編第3作。1年前のクリスマスイブ、自殺現場にたまたま遭遇したタック達は、マンションから飛び降りた女性が所持していたとおぼしきプレゼントを間違えて持ち帰ってしまう。1年後、友人の結婚式で気もそぞろなボアン先輩から、ひょっこり出てきたそのプレゼントの処理を引き受けたタカチと共に、タックはそのプレゼントを受け取る筈だった相手を探す巡礼に出る事になる……。
 特に陰惨な描写が続くわけでも、猟奇殺人事件が連続するわけでもないのですが、読後しばらく本気で気持ち悪くなった、強烈な一作。そしてその強烈さが、ミステリとしての完璧な着地と美しく融合しており、逃げ場が無い、というのが見事な構成でした。
 面白かった……というより、突き刺さった、という作品。

◇『スコッチ・ゲーム』(西澤保彦
 匠千暁シリーズ長編第4作。高校を卒業し、大学進学を間近に控えたタカチが巻き込まれた殺人事件。最有力容疑者は、「正体不明の酔っ払いが川にスコッチを捨てるのを見た」という奇妙なアリバイを主張するが、事件の真相は……。
 タカチの過去を掘り下げながら、2年前に起きた惨劇の真相に迫っていく正攻法のミステリで、西澤さんのパズラー志向/嗜好と、物語性がバランス良く噛み合って、面白かったです。

 西澤保彦は基本的に好きな作家である一方、そのエログロ傾向や、人間のどすぐろい面を引きずり出す作風の為に、個人的には適度に間を置かないと読めない作家なのですが、結局、悩んだ時は戻ると面白い(笑) 友人に触発されて舞い戻り、匠千暁シリーズ長編第5作の『依存』も続けて読む予定で、楽しみ。