東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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量子の決死圏

アントマン&ワスプ』感想(ネタバレあり)

 「だがスコットが現れた。というより、うちに忍び込ませたというべきだが」


 アベンジャーズ分裂を生んだ<シビル・ウォー>においてキャプテン・アメリカに協力した事で、ソコビア協定違反として逮捕・収監されたアントマン/スコットは、司法取引により保護観察の身となり、厳しい自宅軟禁の状態に置かれていた。とばっちりを受ける形となったスーツ開発責任者のピム博士はある目的の為に地下へ潜って逃亡者となり……軟禁処分があと数日で終わるというある日、入浴中のスコットは、先代アントマンのパートナー、30年前に量子の世界へ消えた筈の人物の記憶と接触する――。
 ヒーローアクションとクライムコメディを融合してまとまりの良い秀作だった『アントマン』第2弾ですが、前作が独立性が強かったのと比べると、まずは『シビル・ウォー』後の状況説明から始まり(そこの見せ方には工夫があって面白い)、『シビル・ウォー』『インフィニティ・ウォー』を挟んだ《アベンジャーズ》大動乱期と密接に繋がった作品。
 それもあってか、大作シリーズの中の一本、として余裕と説明の必要の双方が窺えるややスロー気味なスタートとなり、巨大化能力に関しても既に『シビル・ウォー』で行っているのを前提。ふんだんに盛り込まれた笑いの要素、瞬間的な拡大・縮小を繰り返しながらの多彩なアクション、そして、そのテクノロジーで何が出来るのか、というアイデアをこれでもかと詰め込んだ遊び心溢れるギミックの数々は面白かった、のですが、個人的にはもう一つ、ツボに入らず。
 以下、本編内容に触れながらの感想になりますので、ご留意下さい。
 (※前作感想:『アントマン』感想(ラストまでネタバレあり) - ものかきの倉庫
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 で、まあ何がもう一つだったかというと、〔30年越しの悲願を叶えようとするピム家サイドvs余命数週間の地獄から何とか逃れようとするゴースト〕という対決の構図で、最後までこれにノる事が出来ませんでした。
 基本的に、お互いにそれどころではないので話をする余地が無い、という状況で話が展開するのですが、それにしてもピム家サイドが、100%被害者であるゴーストに対してドライに過ぎますし、ゴーストはゴーストで切羽詰まって実力行使の強盗をしてくるにしても、ヒーローサイドにはもう少し、それを受け止める度量が欲しかったかなと。
 例えば、博士が「ジャネットを救出してきたら必ず一緒に治療法を考える」と申し出た上で、「そんな時間も余裕もない」とゴーストに拒否されて「なら仕方ない」と決裂するのであればもう少し受け入れやすかったかなと思うのですが、交渉が可能だった状況で博士がしたのが、相手の事情を把握した上で、心臓病の発作のフリをして奇襲攻撃だったので、ピム博士的には面白かったのですが、ヒーロー物としては、若干以上に引いてしまったというのが正直。
 そこで本来ならば、中和剤であったり感情のフックを作るのがスコットの役割なのではと思うのですが、今作の大きな問題点が、スコットがゴーストをどう思っているのかが、ほぼ一切語られない事。
 事情は可哀想だと思うけど今は博士とホープへの協力優先と割り切っているのか、正直どうでもいい、と思っているのかが語られないまま、100%躊躇なくピム家サイドの為に行動していて、そこに、博士への恩義・ホープへの未練・二人への罪悪感、があるのはわかるのですが、スコット自身がどういう想いでそれを「選択」したのか、という要素が非常に弱い為、“ヒーローとしてのスコット”を最後まで応援する事が出来なかったのが、見ていて苦しかったところ。
 30年越しの悲願とはいえ、そしてそれは、30年前に人々を守ったヒーローを取り戻そうとする為とはいえ、徹頭徹尾、ピム父娘は「妻/母を取り戻す」という“自分たちの目的”の為だけに行動していて、それと「何とか生き続けたい」というゴーストの願いが衝突した時、その間でスコットは“ヒーローとして”何をするのか?が、この内容ならば、私にとって見たいものだったのですが、その要素が物語の中に存在していない、というのが残念でした。
 あくまでピム家サイドの行動を物語のメインストリームとして扱うのならば、ゴーストの設定をどうしてこんなに重くしたのか(そして“人間”としての最後の一線は越えようとしない性格にしたのか)疑問ですし、ここ数作のMCU作品がヴィランの背景描写を重視する流れがあるにしても、あまりにも気持ち良く見られない構図にしすぎたのでは、と思います。
 で、さすがにこれだけ重くて辛い設定だと、なんだかんだ助かるのだろうな、と視聴者に思わせて、実際にジャネットが戻ってきたらスーパー量子パワーで治療してしまうというのも拍子抜けで、そこにもう少し、ヒーローの意志が事態を好転させるといった作劇が欲しかったなと。
 とにかく終始、スコットの感情と選択、の描写が弱い為、“父と娘”という要素も劇中に3組プラスアルファ存在するにも関わらず前作ほど効果的にはならず、宙ぶらりん。身も蓋もない事をいえば、「博士達には大変申し訳なく思っているし、出来ればホープとよりを戻したい」なのでしょうが、それを上回る何か、が物語の中に登場しないのも、劇的さを欠いています。前作における、何より意志の弱い駄目男が“ヒーローになる瞬間”の切り取りが素晴らしかっただけに、私がヒーロー作品で見たいもの、が今作に入っていなかったのは、残念。
 言ってしまえば、『アントマン&ワスプ』というよりも『ワスプ&アントマン』という映画であり、そう考えると冒頭がピム父娘の語らいから始まる、というのが示唆的ではあるのですが。
 ところで、30年前にジャネットが量子の世界に消える際の状況設定がキャプテン・アメリカと(映像的にも)近いのは意図的かと思うのですが、そうすると、帰ってきた世界と未だ真の意味で繋がっていないように思えるキャップに対して、帰ってきた世界で家族に出迎えられているジャネットの姿、というのは随分と残酷な対比で、これは一種の『エンド・ゲーム』への布石でありましょうか。
 直球の布石であるラストシーンは、そう来るのか、と面白かったですが、良くも悪くも映画としては、『インフィニティ・ウォー』と『エンド・ゲーム』の間の、箸休め的一本、になってしまったかなと。ゴーストとは別に、状況を引っかき回す悪役の小悪党ぶりなどからも、毎度カツ丼だと胃が疲れるから、今日は豆腐サラダにしようという狙いは理解できますが、その割にはアクション・コメディとして割り切れていない作りが、どうにも全体的なちぐはぐさになってしまったように感じます。
 まあ、アクション面がナチュラルに凄い事やりすぎていて、なんだかもう、贅沢に慣れすぎててしまっているのだろうか、という気もしてきますが(笑)
 相変わらずの3バカを筆頭に、元妻の夫がやたらいい人になっていたり、FBIの担当者が微妙に感化されていたり、など細かい部分もキャラ描写は面白く、緊張した展開でも次々と挟み込んでくる笑いの要素などは最後まで十二分に楽しめただけに、個人的には“惜しい”一本でした。
 アントニオーーー!