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リリー・マルレーンになれなくて

ウルトラマンガイア』感想・第23話

◆第23話「我夢追放!」◆ (監督:北浦嗣巳 脚本:吉田伸 特技監督:北浦嗣巳)
 秘密施設の入り口付近に、ハムスターのお墓を作られてしまったジオベース職員の心境が知りたい。
 「高山くんは、なぜ地底から怪獣が次々と現れるのか、考えた事ある?」
 「え?」
 「今度の研究でずっとそれを考えてた。地球の生物達が、人類の自分勝手さに怒ってるんじゃないかって。きっと、人間一人一人の意識が変わらない限り、その怒りは鎮められない」
 アグルの聖地からレスキューされた後、ジオベースに協力していた稲森博士は、藤宮が甲殻怪獣に取り付け、我夢が回収した怪獣制御装置――パーセルを、怪獣の闘争本能を鎮めるプログラムを内蔵して改良。その受け取りに向かっていた我夢と藤宮は、秩父山中に出現した怪獣に早速パーセルを打ち込み、怪獣の沈静化に成功する。
 怪獣の回収・分析をジオベースに任せて我夢と梶尾がエリアルベースに帰還した頃、「藤宮博也を探している」と稲森に接触した玲子は、(つまりショートカットが好みなの……?)と考え込んでいた。
 「惹かれてるのね、彼に。……彼に会うことがあるなら伝えて。私の最後の研究成果を、よく見て欲しいって」
 謎めいた言葉を告げた稲森は怪獣の拘束作業の進む秩父山中に姿を見せると、遠隔操作でパーセルにコマンドを打ち込んで沈静プログラムを上書きし、突如覚醒した怪獣は地面を掘って地中へと姿を消す……。
 「許してね……」
 思い詰めた表情の稲森は、パーセルに関係するデータを全て持ち去って行方をくらまし、一方エリアルベースでは、ジオベースのデータ盗難事件などを調査していたリザードが、藤宮博也という存在に辿り着いていた。
 「出してくれ」
 モニターに大写しになる藤宮の筋トレ映像に女性陣どん引きだったどうしようかと思いましたが、普通のプロフィール写真でホッとしました。
 「私は、この男が、青い巨人となんらかのコンタクトが取れる存在だと睨んでいる」
 「意外な事に、調査を進めていく内に、君の不審な動きが浮かんできた。君が密かに藤宮に会っていたという情報もある!」
 稲森・樋口同様に久々の登場となったリザード瀬沼が我夢を問い詰め、こ、効率的な筋トレの方法について語り合っていただけで、やましい事はありません!
 「……本当なのか我夢?」
 「何故黙っていたんだね!」
 前回、各国要人との交渉では矢面に立ち、緊急時には現場で衰えの無い指揮を見せ、甥っ子に対しては宇宙ロマンを語る良い伯父さん、という様々な面を見せた参謀が、今回は上に立つ人間としての厳しさを見せる、というのは良い緩急とバランスになりました。前回が参謀エピソードでなかったら、久々に出てきた参謀が(視聴者的には)割と突然に我夢に敵意をぶつける、という構図が目立ってしまうところだったので、良いタイミングに。
 藤宮が青いウルトラマンその人であり、人類の存在そのものに疑問を持つ環境テロの思想犯にして実行犯である事に触れられない我夢の口は自然と重くなり、個人的には科学的見地の重要性を理解して欲しかったのであり決してウェイトトレーニングを軽んじるわけではないのですがやはりあの負荷と休息のバランスをシミュレートして適切な栄養補給が……とハッキリしない弁明を口にした結果、コマンダーの命令により、XIGのライセンスを一時剥奪されてしまう。
 「おまえはXIGのメンバーとして、我々の信頼を失った。この艦から今すぐ降りろ」
 「これは既に決定事項だ!」
 かくして、世界的な天才にも関わらず立派な無職となった失意の我夢は街をさまようが、エリアルベースでは我夢を心配する堤が梶尾を呼び寄せていた。
 「我夢を監視しろ」
 「それで藤宮の居場所を、ですか」
 「そんな事はリザードが勝手にやる。おまえの役目は……」
 「あいつが何かしでかしてからではなく、しでかす前に止める事、ですね」
 「……そうだ」
 いつもと違い、落ち着かない様子でうろうろ歩くチーフは、そういう名目でいいかと納得し、その様子をニヤニヤと眺める梶尾さんが楽しそう。
 参謀・瀬沼・コマンダーのやり取りは、どう見ても我夢を藤宮を吊り上げる餌にする為の打ち合わせ通りなのですが、堤は良くも悪くも人情家なのと(それが悪い方向に転がるとチーム・クロウの大惨事になるわけで)、腹芸が出来ないので、事前に相談されていなかった模様。
 まあなんだかんだ軍隊なので、梶尾さんの動向も上層部に筒抜けではありましょうが、堤チーフはそれなりに節穴なので、色々な納得感はあります(笑)
 (藤宮くん……あなたがしようとしていた事がようやくわかったわ。でも……ほんの少しだけ待ってほしいの。いつか人間だって、自分の愚かさに気付く筈。人間の意識を変えるきっかけ、その可能性を、私に試させて)
 藤宮のトレーニングルームもといアジトを訪れた我夢は梶尾と合流。怪獣の反応へと向かう途中、稲森がジオベースにおいて何度も地球環境改善プランを提出するも、今はそれどころではないと却下され、パーセルの研究に配属されていたという経緯を知る。
 「稲森博士の目的はなんなんだ?」
 「多分、怪獣の怒りを見せつける事で、人間の意識は変わる。博士は、そう信じているんです」
 パーセルの信号をキャッチした我夢は、避難誘導を梶尾に任せると稲森の元へ急ぎ、稲森が怪獣に街を襲わせる事で、人間の意識に痛烈なショックを与えようという、過激なテロ活動を実行しようとしている事を確認。
 「時間が無いの! 人間がゆるやかに、意識を変える時間なんて、もう残されていないわ。残酷な事実を、目の前に突きつけるしか、方法はないの!」
 「それは違う! きっと人は変われる筈です! どうして人間の可能性から目を背けるんです?」
 玲子さんとの会話などを通して、稲森の行動の背景に横たわるものは示唆されているのですが、メビウスの環はテロの連鎖を呼び、むしろ稲森博士の方がストレートに『逆シャア』するという、まさかの事態に発展。
 「…………巡り会ってしまったからよ。地球の運命を背負った人……青い巨人に」
 「……知っていたんですか? 藤宮が、青い巨人だって」
 稲森は無言をもってそれを肯定し、我夢はその真意に気付く。
 「まさか、博士は自分の手を汚せば、人間の意識が変われば藤宮が思い直すと?」
 「今の人類と同じように……彼も、簡単には、変われないのよ」
 「博士……」
 そこにチームクロウが飛来して怪獣に攻撃を始め、怪獣に駆け寄った稲森は新たなコマンドを打ち込むと、怪獣が口から吐き出した火球が、我夢を直撃(笑)
 「……誰にも邪魔はさせない」
 笑うところではないのですが、主人公に怪獣の直接攻撃をぶちこむという、藤宮へのメッセージとして一線を越えようとする稲森博士の意志の見せ方が、凄絶なインパクト。
 怪獣を街に直進させようとする稲森だが、怪獣はその生存(闘争?)本能ゆえか周囲を飛び交うクロウファイターにこだわり、やがてその本能と稲森の命令が激しい齟齬を来すと、くしくも藤宮の失敗と同様の結果を招き、怪獣は自らパーセルを破壊してしまう。
 「そんな……!? 所詮、人には操れないというの?」
 怒れる怪獣の口から放たれた火球は、駆け寄る我夢(物凄く普通に無事でしたが、筋トレの成果です)の目の前で稲森を飲み込み、倒れ伏す稲森。
 「……博士! 博士! ……博士ーーっ! …………ガイアーーー!!」
 迫り来る怪獣に向けて、我夢はエスプレンダーを構えて絶叫し、割と今作では珍しいタイプの感情を乗せたヒロイックな変身。
 ガイア降臨着地を、カメラを横に大きく早く動かしながらで前後の2カットに分けて撮ると、主観映像でパンチとキックを浴びせ、次はぐっと引いた絵で大ジャンプ、とガイアの激情をこれまでと違う映像で表現する、というのは本編監督と特撮監督兼任ならでは、といった感じの劇的な見せ方となりました。
 怪獣をジャイアントスイングで放り投げたガイアが稲森博士の方を振り返ると、そこには瀕死の稲森を抱き起こす藤宮の姿が。
 「なぜ……こんな事を……」
 「……もっと……見たかった。…………あなたの笑顔を」
 藤宮の腕の中で微かに笑った稲森は、藤宮に磁気ディスクを渡そうとするが力尽き、藤宮は天も裂けよと慟哭する。
 怒りのガイアは、立ち上がると岩を砕いて筋肉をアピールしてきた怪獣に向けて突撃。迫り来る連続火球を拳骨で粉砕すると飛び蹴りを浴びせるが、そのまま格好良く仕留めきれずに反撃を受けるのが、なんというかガイア。
 マッハ頭突きで吹き飛ばされ、更に地熱発電にあぶられるガイアはカラータイマー点滅の危機に陥るが、それを助けたのはチーム・クロウの援護射撃。怪獣の手が離れた隙に連続バック転で距離を取ったガイアはうにょんバスターを放ち、それを交差するように回避したクロウファイターが、ガイアの横を飛び去ってから、どうと倒れた怪獣が大爆発、とストーリー展開の重さを考慮してか、味付けに一工夫したフィニッシュ。
 合わせてチーム・クロウは、我夢を中心としたドラマにも、稲森博士の悲劇にも一切関わらず、いつも通りのノリで戦闘のスパイスに徹するという作りなのですが、クロウリーダーが数年前に、愛しのJPさんを挟んで環境テロリストバチバチやり合っていた女優さんだと思うと、その無視っぷりに思わずメタな面白さを感じてしまったり(笑)
 再び振り返ったガイアは地上の藤宮と束の間見つめ合い、苦しげに表情を歪めた藤宮は、稲森を地面に横たえて去って行く。お姫様だっこで退場こそしませんでしたが、遺体を丁寧に整えていったところに、藤宮の捨てきれない人の情を見ます。
 「……藤宮はデータを持っていかなかったのか」
 「無駄だとわかったんです。怪獣を操る事で地球は救えないって。だから藤宮は」
 「博士は奴の為に死んだんだ! なのにまだおまえは奴を説得するつもりなのか?!」
 無言の我夢は、梶尾にすら背を向けて歩み去って行き、その胸には稲森の遺した言葉が反響する……
 ――「今の人類と同じように、彼も、簡単には、変われないのよ」
 果たして我夢が選ぶのは、稲森の願いを受け継ぎ藤宮を変える事なのか? それとも、ガイアとしてアグルと決着を付ける事なのか? そして、止まれない理由に拍車がかかってしまった藤宮は、何を思うのか……激動の展開で、つづく!
 初登場回から幸薄そうな気配はありましたが、再登場した稲森博士が死亡。人知を越えた存在――ここでは怪獣――を制御しようとして、その思い上がりのしっぺ返しを受ける、というのは定番のプロットですが、アグル誕生回で漂わせていた藤宮への好意から、藤宮を止めようとする稲森の行動と繋げる事で、違う厚みを持たせた物語となりました。
 振り向いて貰える事もなく、共に歩む事も既に出来ない男の為に、自分の手を汚す事を選んだ稲森博士ですが、結果的には、“藤宮がやろうとしている事の具体的な光景”を藤宮自身に突きつける事になり、もしかしたらそれもまた、潜在的に博士にとって期するところであったのかもしれません。
 短いワンシーンながら、稲森博士と玲子さんの邂逅もお互いの感情を引き立てて効果的となり、次回――
 「見ろよ我夢。これが、稲森だ」
 「……藤宮……君はまさか……博士とリリー(※ハムスター)の遺伝子にG細胞を融合させたというのか?!」
 ……じゃなかった、世界各地で次々と怪獣を呼び覚ますアグル! そして我夢は、(畜生、世界のどこかに、きっと僕だけのマネージャーが居る筈なんだ……畜生……!)とあらぬ方向に量子飛躍していたらどうしよう!
 というわけで、加速する藤宮と我夢の対決が大変楽しみです。