『ウルトラマンガイア』感想・第12話
◆第12話「野獣包囲網」◆ (監督:原田昌樹 脚本:川上英幸 特技監督:満留浩昌)
月の方から地球に謎の球体が飛来し、夜の街では市民が二足歩行する狼、という外見の怪人に襲われる。チームライトニングは歩兵として出撃し、我夢を加えた4人は哀しげに月に吠える狼男の捕獲を試みる……そう今こそ、日頃鍛えた筋肉の力を見せる時!
だがライトニングの銃撃はあっさりと回避されてしまい、アフリカ舞踏っぷいBGMで夜の街を走るライトニング&我夢、という変化球演出。
「こっちはサバイバル訓練も受けてるんでね。行動パターンを読ませてもらった! もう鬼ごっこは終わりだ」
格好つける梶尾リーダーは追い詰めた狼男目がけてトリガーを引くが、その弾丸は明後日の方向に飛んでいく。
「梶尾さん……ひょっとして射撃は下手?」
音楽までコミカルなものに代わって弾切れを起こした梶尾は狼男の逃亡を許し、銃を撃つ際の、“如何にも下手そう”な構えが秀逸。
夜の街にティンパニを鳴らしながら追走劇は続き、迎える夜明け……結局怪人を捕まえられないまま、走り疲れてへたり込む4人の前に姿を見せるチーフ。
「いくら空が専門とはいえ、基礎体力を一から鍛え直さないとな。――紹介しよう」
「特殊捜査チーム、リザードの田沼(?)です。後はお引き受けします」
全ては、堤チーフのパワハラと時間稼ぎだった!
挨拶されても立ち上がる事もできない我夢(一晩付き合えただけ、筋トレの成果が出ています)、敬礼を返す時に慣れない射撃姿勢の影響か肩が上がらない梶尾など、微妙な差異の見せ方などは面白いのですが、チーフの株はまた下がるのであった。
「運動不足。これから毎朝走った方がいいよ!」
エリアルベースに戻った我夢は、筋肉痛に苦しみながらも自身の専門分野で狼男を分析しているとジョジーに足を蹴られ、チームライトニングの面々が射撃訓練にいそしんでいる事を敦子に教えられて小馬鹿にすると耳をねじりあげられ、筋肉から逃れようとするあまり別の何かに目覚めそうになっていたが、それはそれで幸せそうであった。
ちなみに、前回のエピソードで公式から筋肉ネタが送り込まれてきたので悪ノリを少々反省し、しばらく筋肉控え目の感想にしようと思っていたのですが、むしろ公式が追いマッスルしてきたので、もう、そういう方向性で突き進めというメッセージだと受け止める事にしました。
「これだけ大規模な捜索が行われている……にも関わらず、未だ発見できない。どういう事だ」
ジオベースの情報部を中心に構成され、地上で起きた超常現象や怪事件を捜査するリザードの捜査網を逃れる狼男……夜行性の怪物の正体は、太陽光線を浴びるとガス化してしまう体質の宇宙生命体と判明。それは厳しい環境で生き延びる為の進化だったのか、人工的な改造の産物なのか……ウルフガス、と名付けられた怪人の存在に一抹の哀しさを感じる我夢だが、ガードは怪人の捕獲でなく抹殺を決断。
ところが、前夜に撃ち込んだ麻酔弾の影響により体質を変化させたウルフガスが、ガスタンク一基丸ごとの天然ガスと一体化し、巨大化してしまう!
見た目は狼の怪獣だが、実態は全身ガスの塊、というガス狼男第一号を爆発させては甚大な被害を及ぼしてしまう……狼怪獣をガス状に戻す弾丸を用いようとする我夢だが、「安全な場所なんてあるんですか? 今の地球に」とリザードを挑発したり、「木の葉を隠すなら森に」とウルフガスの正体に辿り着くヒントを残したり、思わせぶりに姿を見せていた藤宮が、第5話以来となる青いウルトラマンに変身。
感想書きとしては、そろそろウルトラネームを発表してくれないと書きにくくて困るのですが(なるべく、本編で登場していない固有名詞は用いないスタンス)、とりあえず、仮称・青トラマンにしておくぞ藤宮!!
青トラマンは、巨大化しても決して好戦的ではないウルフに喧嘩を仕掛け、これが俺の筋肉の力だ!と渾身の胴回し回転蹴りを浴びせると、前回の反省を踏まえ、俯せに倒れたウルフが気絶している事をじっくり確認。
垂れた尻尾を蹴り飛ばすチンピラムーヴの後、至近距離からビームでも叩き込んでやるかと構えを取った瞬間、マトイ兄ちゃん直伝の死んだフリ戦法だったウルフの蹴りを鳩尾に叩き込まれ、やると思ったよ藤宮ぁ!!(笑)
あくまでも“ヒーローではない”という扱いなのかもしれませんが、
初登場:チラリと顔見せでビーム瞬殺
2回目(本格登場):大技の余韻にひたっている内に不意を突かれる
3回目:チンピラムーヴまでして気絶を確認したのにやはり不意を突かれる
という、見た目ウルトラマンとは思えない扱いに、涙が拭いきれません。
このまま「ふぉ?!」が芸風になってしまうのか、よろめく青トラマンは顔を連続で引っ掻かれ、ショルダーアタックで吹き飛ばされ、怒りのビームも軽々とかわされ、素人ウルトラマンぶりを露呈。
それでもあくまで(俺は格好いい……俺は格好いい……俺は強くて格好いい……)と自己暗示にこだわり続ける青トラマンだが、そのスタイルは段々とスタイリッシュというよりチンピラに近づいていき(立ち姿そのものは格好良いのですが)、正拳突きを口で咥えて受け止められるも、漲る三角筋のパワーでむしろ動きを止めた! とそのまま地面に叩きつけ、弱った怪獣の腕を背後からねじり上げるという、悪辣ぶり。
今度こそトドメを刺そうとする青トラマンだが、EX機で駆けつけた我夢がガイアに変身するとガス爆発を防ぐ為にウルフをかばい、ぶつかりあって相殺する赤と青のうにょんバスター。
両サイドのウルトラマンから放たれた二つの必殺光線がぶつかり合うのをロングで撮った印象的な映像なのですが、私の中ではうにょんバスターことフォトンエッジは、“概念化された光の頭突き”なので、二人のウルトラマンが頭突きの流れで額をゴリゴリぶつけあって至近距離でメンチを切っている典型的不良マンガの脳内映像が同時に展開しています(おぃ)
ガイアと青トラマンが対峙している間に、ライトニングの3人が汚名返上の細胞気化弾をウルフに撃ち込み、ガス状に戻ったウルフは吸い込まれるようにガスタンクの中に。構えを解いたガイアはそのタンクを回収すると、宇宙空間へと放流するのであった……。
「ガスに戻して宇宙へ返す。それで奴を助けたつもりか! 我夢、君という奴がつくづくわからなくなるよ」
むしろ今、君という奴がつくづくわからないよ藤宮!!
「いつか僕のやり方をわかってもらう。必ず。そのつもりでいてくれ」
かくして、ハーキュリーズvsライトニング(堤)vs藤宮、我夢の筋肉の育成方法を巡る争いは、ますます激しくなるのであった……! いずれ、「高山くん。筋トレとは、科学です」と、ジオベースの樋口さんも参戦する予定です。
EDにはみ出した藤宮の念押しの後、月方面から地球に飛来する物体、という冒頭の映像が逆回しで用いられ(つまり、地球方面から月方面へと飛び去るガスタンクのイメージ)、月のアップから、夜空の月に照らされる幻想的な書き割りの街を走るリザードカー、という本編映像に繋がり、今回の見せ場であったウルトラマン対決の後は、
ネバー クライ 願いかなえたなくて
〔月に吠えるウルフガス〕
ラビン ユー 走り続けて行く
〔ウルフガスを追走する我夢たち〕
すべての答えはきっと
〔我夢の解析〕
この胸にあるから
〔ウルフガスの胸に突き刺さる巨大麻酔弾(笑)〕
と、ED歌詞に本編映像を合わせる、という遊び心溢れた編集が、ユーモアもあって面白かったです。
敢えて狙ったのか、予算上の制約による工夫だったのかはわかりませんが、月に向かって哀しげに吠えるウルフガス、の際のセットなりミニチュアなりがやや安っぽいのを逆手に取って、繰り返し挿入される月、書き割りの夜の街など、現実よりも虚構性を強調した映像により、全体に童話のような空気感を散りばめた演出は一風変わって印象的。
その一方で、体育座りから立ち直って久々登場の藤宮が何をしたかったのか本格的にわからず(ガス怪獣を利用して都市を焼き払うつもりだった?)どうせ出すならもう少し藤宮のキャラクター性が見えてくるエピソードに出来なかったのか、というのは残念。
序盤、割と駆け足気味で出した第二のウルトラマンを主人公と対立させる事で物語の方向性を打ち出し、こういうテーマが根底にあります、というのを明示した上でバラエティエピソードを展開しながら物語世界の足場を固めていくという構成自体は今のところ巧く行っていると思うのですが、商業的なハッタリ(?)を踏まえつつ構成の出汁として溶け込ませた第二のウルトラマンの存在が、出汁ガラにならない内に取り出して欲しいなぁ、とは思うところです。
……まあ、無理に出そうとするとそれはそれでバランスを崩しかねないのが難しい所ではありますが、それだけに、“出した”時はもう少し、藤宮/青トラマンに思い入れが生まれるような見せ場があっても良かったかな、と。今回のエピソード限りだと、いたいけな子犬を痛めつけるチンピラぶりが強調されただけなので。
次回――限界まで体脂肪率を下げた新生・藤宮の雪辱にご期待下さい!