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グリッドマン 走り出せば ヒーローになれるよ

電光超人グリッドマン』感想・第13話

◆第13話「スポーツなんか大嫌い」◆ (監督:北村義樹 脚本:平野美枝)
 路上にかがんでスポーツクラブのプールを覗きながらやに下がる直人と一平……あと2歩ぐらい後退すると、主に『555』組の男達が集う、一度落ちたら二度と這い上がれないさいてー墓場にまっしぐらな立場な事は、よくよく自覚してほしい。
 お主も悪よのう、と薄汚れた男の友情を確かめ合う直人と一平だが、筋肉質な水泳コーチがゆかにベタベタと馴れ馴れしくしているのを目撃すると嫉妬の炎を燃やし、クラブを出る2人を尾行。いっけん爽やかなスポーツマン風のコーチはコーチ(若く見ても大学生)で、「巡り会う運命だったんだ」とゆか(中学生)をナンパし、どっちもこっちも犯罪者予備軍ばかりだ!
 真性の変質者なのか、ゆかが病院の娘と知って近づいているのか(恐らく後者)、どちらにしても大変クズいコーチですが、変な色のジャンパー・わざとらしい金色のネックレス・酔っ払った詩人のような喋りと視線、とビジュアルといい台詞回しといい、これでもかと好感度を下げに行くキャラ造形から迸る、こういう男に引っかかってはいけません、というメッセージが番組史上最高に強い(笑)
 ゆかとコーチのやり取りが気になって仕方ない尾行班だが、反対側から武史がやってきて足を止めるという、恋の逆恨みがシンクロして白が黒にひっくり返りそうな悪魔のサンドイッチ。
 「ゆかちゃんの友達?」
 「学校は、同じだけど」
 当然の反応ではあるのですが、武史ーーー(涙)
 「同じ学校かぁ。君、貧弱な体してるなぁ。スポーツで鍛えた方がいいぞ」
 マッスル価値観で武史を露骨に見下すコーチはスポーツクラブの無料招待券を武史のポケットにねじこみ、うんこいつは、ちょっと酷い目に遭ってもいいんじゃないかな(笑)
 「鍛えれば、僕のようになるのも夢じゃないんだぞ。ひ弱な男は、女の子に嫌われちゃうぞ」


 匿名「地球をまも……えー……大学で量子力学の研究をしている20歳です。どんなに一生懸命仕事をしても、職場の同僚女性から「子供」「子供」とからかわれます。どうすれば、彼女の見る目を変える事ができるでしょうか? 真剣に悩んでいます」
 ○宮「筋トレですね。筋肉は全てを解決します」
 「ほっといてくれ!」
 武史はその場を走り去りながら無料招待券を地面にぶちまけ、物陰から出てきてそれを拾った直人は、さいてー墓場の崖っぷちから雄々しく立ち上がり、男として生まれ変わる事を決意。
 「決めた。俺はやるぞ!」
 筋肉への嫉妬を原動力に直人&一平はスポーツクラブで筋トレを始め……先程、5年後の時空のお便りコーナーと混信がありましたが、今回、私脳内でだけ展開している我夢vs藤宮(『ウルトラマンガイア』)の筋肉を巡るバトルとあちこち絶妙に重なってしまい、単品で見ているのより2割増しぐらいで面白くなってしまいました(笑)
 直人&一平が「ヘイッ! フゥ! マッスルボーイ! マッスルボーイ!」に励んでいる頃、武史は自宅で、無関係なボディビルダーの写真にダーツを投げつけ穴だらけにしていた(酷い)
 「どうした? 機嫌が悪いようだな、武史」
 基本的に実利のある悪魔の懐柔策ではあるのですが、先日の空き巣撃退の一件以来、カーンデジファー様が武史の保護者めいて見えて仕方ありません(笑) このままだと、何とかして授業参観に来そう。
 「あの筋肉男……僕を貧弱な体だって嗤った。井上ゆかの前で、僕を馬鹿にしたんだ」
 「ふふふふふふふ……何をやる気だ? 感じるぞ、おまえの怒りを」
 「鍛えた体がなんだってんだ。スポーツが得意だからって……威張る奴なんか許せない」
 おまえの「ふぉ?!」を作業用BGV仕様にしてYoutubeにUPしまくってやるぜ藤宮ーーー、じゃなかった、逆恨みの炎から危うくシンクロ寸前だった武史と直人ですが、ここで直人が自ら体を鍛えようとするのに対し、武史はあくまで周囲を巻き込む嫌がらせで溜飲を下げようとする、というのが鮮やかな対比。
 雑な部分はありつつも、今作、こういった構造の見せ方は実に巧く、直人も主人公らしいところを見せてくれました。
 日頃の運動不足の解消の為、偶然にも3家の父親達が揃っていたスポーツクラブに武史は電気怪獣(凝った造形で格好いい)を送り込み、健康管理プログラムを改竄。暴走し、必要以上の負荷がかかるようになったマシンから離れる事もできず、父トリオは強制的に限度を超えた運動を課される事に。
 システムを止めるように促されたコーチは、今作名物になりつつある謎感電に阻まれると我が身可愛さに逃げ出すという醜態をさらし、やり口はともかく今回に関しては武史の悪意が下衆男に相応の制裁を加えているのですが、今作はあまりそこにカタルシスを与えてはいけない構造ではあり(父トリオが死にそうですし)、その一方であまりに感じ悪いコーチの造形を考えると、物語のアクセントとして敢えて一度、タブー寄りの作劇を試したのかな、とも想像されます。
 そしてくしくも、謎感電にめげずに人命の為にセキュリティ解除に挑戦し続けた怪盗マティは、同じクズでもまだ誠意と根性があったのだな、と回またぎでちょっとしたフォロー(?)。
 「ふふふはははははは……」
 マントを脱ぐと実は貧弱なのか、スポーツクラブの混乱を喜び番組史上最長の高笑いを響かせるカーンデジファー様。
 「体なんか鍛えなくても、僕には頭があるんだ」
 藤堂武史=平行世界の高山我夢の一人であり、カーンデジファー様もまたウルトラマンのネガ存在なのではないか、という疑惑が私の中で急浮上しています(笑)
 スポーツクラブではGコールが鳴り響き、直人はジャンクからアクセス・フラッシュ。先制の飛び蹴りを決めるグリッドマンだがエネルギー吸収攻撃を受けてピンチに陥り、ゆかは一平が冒頭からデザインしていた新ギミックを突貫プログラム。父トリオとグリッドマン、双方の死がリアルに迫る中(そういえば、Cワールドでグリッドマンが消滅した場合、合体している直人がどうなるのか説明も確認もされていないような……)、ギリギリでプログラムが完成し、ゴッドゼノンを構成する三つのオプションメカが、主題歌をバックにグリッドマンと超人合体!
 グリッドマンが宙返りからゴッドタンクの上にびしっと着地、という変な格好良さを持ったアクションを皮切りに、〔タンクが脚部に合体(ドリルが怪獣を攻撃して妨害) → ドリルが両腕に合体(ジェットが怪獣を攻撃して妨害) → ジェットが顔面から胴体に合体〕と、3つのメカが援護攻撃と合体を順々に行っていくというこだわりの合体シークエンスで、
 「名付けてサンダーグリッドマン!」
 が誕生する。
 全身をオプションメカの装甲で覆ったサンダーグリッドマンウルトラマンから戦隊ロボにというか、グリッドマン本体がほぼ隠れてどこにも面影が無い、という大胆なデザインなのですが、パワードスーツ的なものだと思えば、今作らしい方向性といえるでしょうか。1クール目の締めにして、明確に《ウルトラ》シリーズとの差別化が打ち出された強化展開、という面では好印象。
 打撃戦は迫力があり、敵怪獣も格好良かっただけに、トドメのショルダードリルアタックが映像的に凄くざっくりだったのは残念でしたが(^^;
 グリッドマンが怪獣を撃破してスポーツクラブのシステムは修復され、父トリオも九死に一生を得るが、原因不明とはいえ多額の賠償問題に発展しそう(たぶん街の名士でもある井上父は徹底的にやりそうだし、直人父は人は好さそうだけどれっきとしたマスコミ関係者だったり……)で、どう足掻いてもクラブの評判は落ちそうであり、今回に関しては武史&魔王様の「スポーツの楽しみを苦しみに変えてマッチョ撲滅計画」は部分的に成功を収めてしまった気がします。
 後日――
 「プール覗くのが趣味なんだって? 直人」
 「え?」
 「一平が白状したもんね。言っとくけど、私の憧れの君はね、見かけ倒しの筋肉モリモリ男なんかじゃないわよ! あんな意気地無し、幻滅しちゃった!」
 その剣幕に顔を見合わせる直人と一平に、ニヤリと笑ってみせるゆか。
 「……ふふーん、私の憧れの君はね、グリッドマンに決まってるでしょ!」
 「なーんだよ~…………待てよ。グリッドマンてことは……」
 やっぱり筋肉なのでは(笑)
 そして、ちょっと強引な俺様(声は二枚目)。
 …………は?! こうやって属性を並べてみると、ハイパーエージェントさんは、実は、ミステリアスな王子様ポジなのでは。
 「え? ええ?」
 「なーにドギマギしてんだ直人!」
 「してねぇよ~」
 グリッドマン=俺?! とちょっとドキドキしてしまう直人を煽る一平は、ゆかにケーキを貰えれば嬉しいし、ゆかが知らないイケメンとイチャイチャしていたらムッとするけど、それが明確な恋愛感情というわけでなくあくまで友情の延長線上なので、3人で楽しいのが一番(だから直人とゆかがくっつく分には無問題)、というのは、もしかしたらこのまま高校生ぐらいになると物凄く悩むのかもしれないけれど、今はまだそんな場所に立っている、というのが切り抜かれていて、思春期の入り口、子供と大人の端境期の存在として、印象深いスタンス。
 父親に対する心配のストレートな表現などからも、3人組の中では一平が一番、「子供」寄りなのでしょうが、そういった少年期の瑞々しさの描き方は、今作の長所の一つです。
 また、多分に実家の太さに支えられている面はありますが、全国トップクラスの秀才・天才的プログラマー・ケーキ作れる・ピアノ弾ける・スポーツも出来る、とドンドン完璧超人に近づいていくゆかは、あまりのハイスペックぶりが、一周回って面白くなってきました(笑)
 今作がある種の少年探偵団ものの構造を有していると考えると、直人・一平と対等に接するゆかのベースにあるのは、小学生主人公グループにおける“お転婆”キャラなのでしょうが、それに年相応の知性やスキルを与えた上でヒロイン的役割も担わせたら“マドンナ”属性も加わった究極生命体に近づいてしまい、これで“委員長”属性持ちだったらまさに完全存在だったのですが、あまりの眩しさに、接する武史が浄化されてしまうかもしれない……。
 「い、井上ゆか、な、何故、僕のクラスと出席番号を把握した上にハンカチを貸したりしてくれる……?! や、やめろ、僕をそんな目で見るな、ぐ、ぐぁぁぁぁぁぁぁ……! ………………ヤア、僕ノ名前ハ、藤堂武史。コンナ僕ニ優シクシテクレテアリガトウ(焦点を失ったつぶらな瞳)」
 その二人と比べると、直人は戦闘中に人格が消滅してしまう点がやはりネックなのですが、完成された正統派主人公にしすぎない為に与えた年相応の未熟な部分が、今のところ概ね最っ低ポイントに変換されてしまっている為、今後の更なる肉付けと株価上昇を期待したいです。
 ナレーション「スポーツ。それは肉体を鍛えるものだ。しかしそこには、健全な精神も必要なのだ。頑張れ、直人、ゆか、一平! グリッドマンの活躍は、君たちにかかっているのだから」
 最後はナレーションさんが綺麗にまとめ、「健全な精神」というのは今作の「正義」を支える大きな柱なのですが、ゆかを巡る嫉妬に関する直人&一平と武史の行動の違いがそれを象徴し、しかし体を鍛えてさえいれば健全な精神が自然に伴うわけではない、と一方的な価値観を押しつけないのが本編内容とナレーションの言い回しで示されているのが絶妙で、『グリッドマン』らしさが巧くまとまったエピソードでした。
 次回――武史、今度は目覚まし時計をグリグリと踏みつける。