『ウルトラマンルーブ』感想・第13-14話
◆第13話「秘密はイヤです!」◆ (監督:伊藤良一 脚本:足木淳一郎)
お父さんが、アサヒに関する記憶と写真のズレに悩む一方、カツミ・イサミの兄弟は、ウルトラマンの正体を知ったアサヒにこれまでの戦いの経緯やウルトラマンの能力について説明する……という体裁の総集編。
同じクリスタルでも二人で使える技が違う事を主張するのですが、改めて本編でうまく描写しきれていないというか、キャラクターの特性としては共用できない方が明らかに差異を見せやすいのはわかっているけど、玩具の関係で致し方なし、という感じ。結果として、それぞれのフォームの印象が強くならない・兄弟ウルトラマンのキャラが混ざる・変身&チェンジ&大技の尺が筋を圧迫する、の三拍子揃った悪循環を引き起こしている印象。
やいのやいのとはしゃぐ兄弟の姿を見つめる謎めいた黒衣の女がその手に握るとは、光と闇の2枚のクリスタル。
「古き友は言った。願いが正しければ、時至れば必ず成就する。――徳川家康」
一方、写真への疑問から子供達のおもいでばこの中身を確認していた父は、“アサヒの過去の存在を示す思い出の品”が何も無い事に気付いてしまう。
帰ってきた子供達はしかし、過去の記憶を共有しており、一度は
(やっぱりみんなの思い出にも、アサヒ居るよな……当たり前か)
と自分を納得させようとする父だが、怪獣出現に兄弟が店を出て行った後、膨らみ続ける疑念を抑えきれずに問いかけてしまう。
「なあアサヒ……君は、誰?」
「…………え?」
ちらほらと怪しげな布石が置かれていたアサヒの存在に、大きな謎として焦点が当たり始めた所で前半戦が終わり、物語は後半戦へつづく。
◆第14話「お前は誰だ」◆ (監督:市野龍一 脚本:森江美咲)
「美剣サキ」から付けたあだ名が「ツルちゃん」は、喧嘩売られているという認識でいいのでは。
「古き友は言った。人生は舞台である。人は皆役者。――ウィリアム・シェイクスピア。……お前は誰だ? 何の役を演じている」
父の言葉にショックを受けて鯛焼きのやけ食いをしていたアサヒに絡む学生服コスプレの黒衣の少女だったが、しばしの睨み合いの末に「……違いますよー! 私が女優さんなわけないじゃないですかー」と笑い飛ばされると追求しきれず、あれよあれよとアサヒのペースに飲み込まれ、自信たっぷりな暗躍キャラかと思いきや、意外と押しに脆い子供のような一面を覗かせる。
「故郷は…………遙か、遠く」
その場の成り行きで偽名を名乗ると、生まれ故郷については遠くに視線を伸ばし、アップになると目の充血が目立ってちょっと気になるのですが、カラコン(?)が合っていないのか、非人間性を出す為のなるべくまばたきをせずに瞳を大きく見開く演技が目に辛いのか。
口に放り込まれた飴玉のお礼に、光と闇のクリスタルを置いてサキが姿を消した頃、負傷から回復した愛染は過去の記憶に想いを馳せていた。
「オーブさんかっこいーー! 僕も、おっきくなったら、オーブさんみたいなウルトラマンになるんだ!」
これまで触れられていなかった愛染マコトのウルトラマンオーブへのこだわりは、少年時代(? そもそも今も本体は少年という可能性もありますが、性格描写的にさすがに無いか)にオーブの戦いを目にしていた、という純粋な子供の憧れであった事が示されるのですが、これといって劇的な段取りなく後半の開幕に回想シーンでさらっと明かすなら、1クール目の時点で明かしておいて「ウルトラマンオーブ」の存在を、物語の中に引き込んでおいた方が良かったような。
第10話の感想で書きましたが、
状況が長く続いてしまった為、どうにも非常に今更感。
愛染は何故オーブを選んだのか、という理由が一切描かれないので、オーブダーク自体がメタ的な《ウルトラ》のシンボルにしか見えない(言ってしまえば商業的事情にしか感じられない)
思うわけです。
商業的事情を物語化する、という機能も含めて、そこに背景としての情念が描かれないと、ウルトラマンである事、が物語の中に収まらないわけで、愛染-オーブの間にある線は、最初に明示しておく(無ければ作る)べきではなかったかな、と。
「お前は誰だ!」
「俺は夕陽の風来坊! とうっ! ウルトラマンさん! ティガさん! 光の力、お借りします!」
サブタイトルを取り込むという遊びを仕込みつつオーブになりきって一人芝居を始め、純粋な子供の憧れを歪んだ形で実現しようとする幼児性の塊、として描かれる愛染は、作中の存在として自己中心的な外道であるのですが、今作が愛染を通して描くメタ的な悪意にはどうも首をひねります。
「いい年してごっこ遊びを辞められない人間はろくな大人ではない」というのは一面の真実ではあるかもしれませんが、それを児童層を中心とした視聴者に露悪的に見せつけてどうしたいのか、というのがまずありますし、例えば愛染に立ち向かうのが小学生ぐらいの主人公達なら、大人になりきれない大人未満と、それを乗り越えていく子供という寓意的対決も成り立ちましょうが、湊兄弟も20前後の青年なので、肝心の主人公達まで悪意的な戯画化の輪に含まれかねないと思うわけなのですが。
「私は、弱いウルトラマンは嫌いだ。何度負けても立ち上がる強さを持つ者こそ、ウルトラマンにふさわしい。そうだろう?」
看護士ルックに着替えた謎の少女――美剣サキ――が突如として姿を現し、威圧されつつも同意して虚勢を張ろうとする愛染だが、自前のジャイロが故障中。
「駄目だ駄目だ、私のジャイロは壊れてしまったのだーーー」
泣き崩れる愛染に対して、美剣は強化狼怪獣を召喚した、禍々しいジャイロを取り出してみせる。
「使ってみるか? ――本物を」
「三つ目の、ジャイロ? ……君は、何者なんだ?」
「使うのか? 使わないのか?!」
その頃、アサヒは自分の存在を証明しようとおもいでばこを探って証拠探し中……と前回から逆に繋がるのはなかなかエグく、見つけた写真アルバムの中に、自分の姿が無い事に気付くアサヒ。
「……あれ?」
自覚的に不穏なのかと思っていたアサヒは、少なくともアサヒとしては自分が湊家の長女である事を疑っていなかった事が判明し、アサヒを巡るミステリー部分の見せ方は面白いので、戸惑う父や行方不明の母、未だ真実からは遠い二人の兄との繋がりの中で「家族」の姿がどう描かれていくのかは、期待。
一方、サキが置いていき、アサヒが持ち帰ったクリスタルを大学で調べて本物である事を確認したイサミは、通常の6倍のエネルギーに有頂天。
「未知の力を持つクリスタル……ゾクゾクすっだろ?! 早速使ってみようぜ」
「賛成できない」
「え?」
「誰かもわかんないやつが置いてったもんだろ? 怪しすぎる」
「……はぁ? 大丈夫だって~」
そういう軽いノリで敵のアイテム使ったのがきっかけで、お亡くなりになった仮○ライダーとかも居る事を考えれば至極真っ当にカツミが反対し、慎重派で周辺事情に気を遣う兄・カツミと、正義感と好奇心の強さが時に向こう見ずな勢い任せになる弟・イサミの対比から喧嘩の火種を投げ込んでくるのですが、が…………正論を述べる当のカツミが第10話において、悪役から強奪したばかりのオーブリングをカジュアルに使用した前科持ちの上、前回の総集編ナレーションにおいて「というかこれなんなんだろうな? 俺たちのジャイロにも対応してるし。あんまり深く考えずに使ってはいたけど」と明言してしまっている、巨大タンカー同士の正面衝突で大量の原油流出レベルの大事故。
「おまえがそう言って、大丈夫だった試しはない」
油に火を放つカツミの物言いから売り言葉に買い言葉で人目もはばからぬ兄弟喧嘩が勃発し、思わず、普段は表に出さないようにしている長男としての憤懣を口にしてしまうカツミ。直後に、言ってはいけない事だったと気付いた様子で口をつぐむのはカツミらしくて良かったのですが、そういった自制心を持ったカツミが口を滑らせてしまうに至るには、どうにも段取り不足なのも残念。
現状、“家族”の問題はアサヒの方にスポットが当たっているわけですが、それならば父とアサヒのぎくしゃくが家族全体に波及して湊家の雰囲気をおかしくし、そんな見えない苛立ちの中でカツミの秘める箱の蓋が開いてしまう、というぐらいの、説得力のある流れが欲しかったところです。
野球の道を諦めて家業を継ぐ事を選んだ兄から、好きな研究をやっている弟への「俺がお前の為にどれだけ我慢して!」という発言は、現在の湊家の在り方を揺るがしかねない大変根の深い暴発だと思うのですが、その重さが今ひとつ劇的になり切らない直近の原因の一つが、愛染社長の一人芝居に尺を割いているから、というのは作品としての選択とはいえ、スッキリしない気持ちの増す部分。
兄弟がクリスタルの使用に関して揉める一方、愛染は受け渡された巨大な力に安易に手を出して格言ジャイロを起動し、サキは新たな怪獣クリスタルをその中央に填め込む。
「激熱だぞ、これは」
「はじめてのーー、ほんもののーー、カタルシース! いってきまーーーす!!」
愛染は背中に巨大なキャノン砲を背負ったグルジオキングに召喚融合し、喧嘩を中断した兄弟は険悪な雰囲気のままウルトラマンに変身。開幕の兄弟タッチを拒否したブルは先制攻撃を仕掛けて一人でできるもんと宣言し、「勝手にしろ」と本当にそれを見ているだけのロッソなのですが……えーと君たち
じゃなかったの?
「この手でこの街を守らなきゃなんねぇ。俺たちが育った、この街を」
「いつの日か必ず帰ってくる母さんの為に。戻ってくる場所を守らなきゃいけない」
戦闘を中心にコミカル成分強め・兄弟としてのメンタルに左右されやすい不安定なヒーロー、というのはいずれも今作のコンセプトではありますが、人間大で山奥で戦っているわけでなく、市街地のど真ん中で数10m級の存在として戦っているにも関わらず、喧嘩中だから協力しないで苦戦を黙って見ている、というのは幾らなんでも危機感が薄すぎであり、百歩譲って今作ならではの軽さとしてそれを飲み込んだとしても、1クール目の山場として集約した“戦う意志と理由”を、たった2話で廃品回収に出してしまうのは、あまりに酷すぎでは。
どうも今作、ストーリーの連続性が非常に強いにも関わらず、シリーズの構成が巧く行っていない気がしてなりません。
一応、兄弟が個別で戦いを挑んでいる間は周囲の破壊描写が無いので、演出的にはその事に配慮しているようではあるのですが。
グルジオ様名物の平手打ちを食らい、「駄目だ、歯が立たねぇよ」と泣き言を口にするブルに代わり火の玉魔球を投げつけるロッソだが、それも紙風船のように握り潰されてしまい、かさに掛かる愛染は背中のグルジオキャノンを発射。その威力を見て一時休戦した兄弟はハイブリッド光線を放つも相殺され、再び火を噴いたキャノンを前に咄嗟にオーブ守護霊光線を放つが、使用2回目にして押し負ける、THE・残念。
グルジオ内部の愛染が、憧れのオーブさんのスタンドを消し飛ばした事になんの感慨も見せないのは今作らしい雑さなのか、格言ジャイロの力に取り込まれているのかは何とも言えず。
迫り来る3発目のキャノンを前に、やむなく光と闇のクリスタルに手を伸ばす兄弟だったが、クリスタルに拒否されてキャノン砲の爆炎の中に沈む完封負け。
「やはり、その程度だったか。……ハイ・ダーリン」
「ハーイ」
「これからは私が、お前の主人だ」
「承知いたしましたー」
その戦いを見つめていたサキにダーリンはあっさりと鞍替えし、それを知らない愛染キングは咆哮をあげながら街を破壊する……果たして、ルーブ兄弟は今度こそ骨も残さず消し飛んでしまったのか?! で、つづく。