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イマジナリー・マグナム

快盗戦隊ルパンレンジャーvs警察戦隊パトレンジャー』感想・第34話

◆#34「伝説の銃」◆ (監督:加藤弘之 脚本:香村純子)
 ザ・布石回。
 年末の山場、そして4クール目の暗がりへ向けて幾つものボールを投げつけ、それがどう跳ね返ってくるのか(或いは跳ね返ってこないのか)、跳ね返ってきたとしたら一体どこに突き刺さるのか、はたまたそれを打ち返すのか、が見えてこないとなんとも言えない要素多めのエピソードでありました。
 30話過ぎ辺りの新アイテムだったり新ロボだったり強化展開は、作品によっては敵幹部退場劇などの大きな転機と組み合わせるなどしつつ、シリーズ平均でいうとあまりアベレージが高くない認識なのですが、今作では表向きは大きな変化を起こさず布石を打つのに集中した作りにした事で、足回りが重くなったという印象。
 その分、ルパンマグナム周りの演出はど派手でしたし、マグナムにはもう一つの要素があるようなので、ここから怒濤の展開に連結していくのかもですが。
 「これから仲良くしようぜ~、俺の可愛い子ちゃーん」
 各地で銃を強奪して回るガンマニアの犬ギャングが、世界のおもしろピストル展を襲撃し、ハイここで、異形忍・紅トカゲ(『世界忍者戦ジライヤ』)を思い出した人、先生怒らないから手を挙げて下さい!
 世界忍者でも屈指の実力者ながら変質的な日本刀コレクターであり、主人公の愛刀である磁光真空剣を欲しがった挙げ句に最終的には日本刀に対するフェチズムから主人公と深いシンパシーを得るに至り友情を結んでしまう、という説明している本人が何を書いているか困惑してくる紅トカゲなのですが、そんな変態忍者達が敵味方入り乱れて跳梁跋扈する『世界忍者戦ジライヤ』は割と快作です。
 収穫を手に引き上げようとする犬ギャングの前にパトレンジャーが立ちはだかって銃撃戦となり、2号の跳弾攻撃から反撃に移るパトレンジャーだが、犬ギャングは土を操るコレクションでそれを防御。
 「壁どーん、なんちゃって」
 『ニンニンジャー』のゲスト怪人の時もアドリブで「壁どん」台詞入れたそうですが、稲田さんの中で、長いブームなのか(笑)
 犬ギャングは更に、空気中の酸素を操る能力で火薬式の銃の威力を強化しており、使い方次第では物凄く強力な能力持ちのような気がしますが、ガンマニアなので銃撃戦に役立てる発想しか出てこない模様。
 その頃、グッティに助けを求められたルパンレンジャーはその案内でアルセーヌ秘密の隠れ家に侵入し、大快盗アルセーヌ・ルパンは、日本にも来ていたのです。そこにはアルセーヌ大のお気に入りのコレクション、ルパンマグナムが隠されており、ようやくその在処を見つけたノエルが単身潜入するも、罠にはまって危機に陥っていたのだった。
 「グッティ、罠あるとか教えてね」
 「まっかせろ~。おいらは2回目だからな! ……おっとぉ! このへん気をつけろよー。足下が崩れるぜ~」
 からの、巨大な岩が転がってくるというのは、定番の岩トラップを繰り出す流れとして面白かったです。
 「えーー、さっきとちがーう!? うわ、うわぁぁぁぁぁぁぁ……」
 転がる岩に巻き込まれ、グッドストライカー、リタイア。
 残された3人は罠をかいくぐりながら目的地へ到達し、箱に収められたルパンマグナム、そして気絶して地面に横たわるノエルを発見。ところが、魁利が道すがら見つけていたフランス語のメッセージBrise tes fers――足枷を外せ――を口にした途端、最後の罠が発動し、3人は、取り戻したい大切な人から「これ以上、自分の為に無理をしなくていい」と告げられる幻覚に飲み込まれる。
 「初美花には初美花の夢があるでしょ? それ捨てちゃうの?」
 「やめて、捨てたんじゃない。今は詩穗ちんの方が大事なだけ」
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 「わかってるでしょ? 私の為に透真が命を賭けても、私は嬉しくないって」
 「…………わかってる。……でも、彩の為にやってるんじゃない。――俺の為にやってるんだ」
 三人三様で、取り戻したい存在との関係、その為に失っているものが改めて描かれるのですが、透真が婚約者が抱くであろう心情を「わかってる」上で、自覚的に「俺の為にやってる」のが遺された者の感情として大変きつい一方、夢を「捨てたんじゃない」初美花と共に、それは真の意味で“足枷を外す”鍵となるのかもしれません。
 そして幻影が、ベクトルはあれど3人の記憶から構成されているとするならば、そこに押し込められた本音の一端を見る事は出来るでしょうし、取り戻したい存在が、自分たちが身を捨ててでも取り戻そうとする事を望まない存在だからこそ取り戻したい存在である、というのが、今作が繰り返し描く二律背反の一つといえます。
 最後の罠を抜け出す方法は、発動のキーワードでもある「足枷を外せ」……すなわち、取り戻したい大事な人を自ら撃つ事。
 「無理だよ……いくら幻でも……」
 「他の何を撃てても……おまえだけは……」
 透真と初美花は罠を抜け出せずに崩れ落ち、グッティにはたかれて目を覚ましたノエルは、そんな二人を哀しげに見つめる。
 「Brise tes fers……取り戻したい大事なものが、時に自分にブレーキをかける。君たちも、撃てなかったんだね」
 そして……
 「魁利……俺はおまえが無事ならそれで十分だ。俺のために昏い道を選ぶな。明るい道を、胸張って歩いてくれ」
 真っ直ぐに自分を見つめる兄の姿に、魁利の胸に去来するのは、あの熱血お巡りの言葉。
 ――どんな言い訳をしようとも、快盗という手段を選んだ時点で、貴様等は間違っている!
 兄から視線を外した魁利は、幻の体育館に転がっていたバスケットボールを拾い、リングへと向き直る。
 「……兄貴もそういうタイプだよな。……でもごめん。俺そういう眩しいの向いてない。……気付いちゃった。今まで兄貴の真似してやってきたどんな事より、俺…………めちゃくちゃ快盗向いてるわ」
 リングに嫌われゴールを外れて転々と転がるボール……魁利はそれを拾って何度でもゴールを目指すのではなく、なりたい自分になろうとする事から背を向け、快盗という道を選ぶ。
 「魁利……」
 「だから! 兄貴にどんな顔されても、俺は俺のやり方で、兄貴を取り戻す」
 魁利が辿り着かなくてはならない真のゴールは、「勝利を取り戻す」事よりも「(取り戻した)勝利に真っ直ぐに顔向けできるようになる」事ではないか、というのは度々触れてきましたが、とうとう魁利が己自身に見切りを付け、「取り戻す」為なら「顔向けできなくても構わない」という道を選んで引き金を引き、ここに二人の温泉旅行がバッチリ効いているのが実に凶悪。
 知らぬ事とはいえ、圭一郎、思い切り青少年を追い詰めたぞ!
 本人には全く責は無いのですが、物語の構造からすると、これはいずれ圭一郎が付けないといけない落とし前になるのかも。
 「俺の勝ちだな、アルセーヌ」
 「快盗の覚悟を見せてもらった。私の愛用のコレクションは君に預けるとしよう」
 幻影を打ち破って目を開いた魁利は、アルセーヌのビデオメッセージに認められてルパンマグナムを手に入れ、“目的の為に日陰の道を行く選択を、「覚悟」として肯定する”というのはピカレスクロマンとしては有りですし、実際(真意はともかく)アルセーヌビデオによる肯定はプラス寄りの描写になってはいるのですが、今作の最終的なスタンスは未だ靄の中。
 まあ戦隊としては、「私」の為に「昏い道」を選んだ者をヒーローとして肯定する可能性は低いと思いますが(いわゆるダークヒーロー物を否定するわけではなく)、その一方で、魁利が「兄貴の真似」から抜け出して自分自身を見つけなければいけない事が示唆されており、それをどういうバランスで着地させるのか、魁利の辿る道の行方が楽しみです。
 マグナムを手に入れると隠れ家が自動的に崩壊し、隠されたビデオメッセージといい、なおこのメッセージが終了すると自動的に隠れ家ごと消滅するといい、急上昇するアルセーヌの胡散臭さ(笑) ……まあ元々、大快盗ですが。
 無事に脱出した4人&グッティは、「最高に俺好みのかわいこちゃん」の匂いを嗅ぎつけ、マグナムを求めてやってきた犬ギャングと出会い、快盗チェンジ。弓矢を装備したブルー、消火器を装備したイエロー、いつも通りのルパンXがそれぞれ構成員の相手を務め、レッドは犬とアクロバットな銃撃戦を繰り広げる。
 「どうだ! 銃に愛された俺の実力は!」
 「隠れて何言ってんの。それに……俺もけっこう好かれたみたいよ。なあ、ルパンマグナム」
 レッドは手に入れたばかりのマグナム(そういえば赤い)に囁きかけ……何か、上がってはいけないゲージが急上昇した!
 これが、フェチズムとフェチズムが共鳴して生まれる、悪魔のシンパシー!
 ルパンレッドが愛を込めた紅い弾丸の一撃は、コレクションによって作り出された土の壁をあっさりと貫通。レッドはマグナムで防壁を無効化し、そこにチェンジャーで連射を叩き込む、という戦術により犬ギャングが駆使するカバーアクションを突破し、飛び込んできた青が華麗な側転からコレクションを回収。
 犬を追いかけてきた警察戦隊がマグナムの威力に愕然とする中、ど派手な可愛い子ちゃんストライクにより犬ギャングは爆殺され、ゴーシュにより巨大化。コレクションの能力を活かしたスピーディなカバーアクションと奇怪な変形銃の組み合わせにより、なかなか面白いガンファイトを見せてくれた地獄の番犬でしたが、マジカル骨爆弾に引っかかってダメージを負ったところを、ルパンカイザーの左手の上から放たれたマグナム全力発射によって敢えなく消滅。……もう少し時間があれば、銃に対する情熱を通して魁利とわかり合えたかもしれないのに、惜しい最期を迎えました。
 巨大化した敵すら一撃で葬り去る、という強烈なデビュー戦を飾ったルパンマグナムは、チェンジャーと合体した際に下と横を持って撃つ、というのが決まっていて、組み合わせ武器としてはなかなかの格好良さ。そこはかとなくレスキューポリス名物オーバーキル兵器も思い出す系統ですが、はたしてこれは、魁利を魔道に引き込む道しるべになってしまうのか……。
 少なくとも、コグレの承諾を得てマグナムを預かると銃身をニヤニヤと見つめ、さっそく自分でマグナム人格を演じて初美花には指一本触れさせないという、新しい領域は開いてしまいましたが。
 「おまえでも最後の罠には……負けるんだな」
 仲間が新たなジャンルに目覚めてしまった事から気持ち目を逸らしつつ、そっとノエルに紅茶を出す透真。
 「僕にだって…………弱いところはあるさ」
 あの罠を打ち破れなかった、という事実で人間味の描かれたノエル(気絶したフリとかでなければ良いのですが、5%ぐらい心配)は、あの罠を打ち破った魁利に対して複雑な視線を向け、そういえば、ノエルもグッティしか友達が居ないので、15%ぐらいは同病相憐れんでいるようにも見えるのであった。
 ……で、でもね魁利くん?! グッティは本当に喋るんだからね?! 僕の妄想でもなければ腹話術でもないんだよ?!
 つまり友達は大事にしよう。あと、出来ればもう少し増やしたい。
 そう心に誓う、高尾ノエル26歳の晩夏であった。
 一方……マグナムを中心にしたドタバタ騒ぎを背にジュレを出たコグレは、その瞳を怪しく輝かせる。
 「まさか、ルパンマグナムを手に入れるとは。夜野魁利、予想以上の、逸材でしたね。ふふふふ、ふふふふ、ふふ……」
 こらえきれない、といった感じの笑みをこぼしながら去って行くコグレ、でつづく。
 コグレの不穏な言行は、見せてから伏線回収されるまでが長い、という傾向がありますが、そろそろ終盤へ向けて物語を動かしていく時期だとは思うので、いい加減、コグレの狙いも見えてきてほしい所です。
 最も不穏なのは「予想以上の、逸材」という部分で、となれば当然、魁利を始めとする3人は「予想して選ばれた素材」となりますが、元よりコグレが通りすがりのザミーゴ被害者に場当たり的にVSチェンジャーを預けた可能性は低かったといえ、果たして、どこから、誰の、計画によるものなのか……? カードが開かれる時が、楽しみです。
 次回――そんなコグレがギャグ時空?! そして、魁利の友情パワーがルパンマグナムの更なる力を呼び覚ます!
 「俺には 磁光真空剣 ルパンマグナム、おまえというかけがえのない友がいる」
 と言うか言わないか、日陰の道を選び取り、たった一つの望みに賭けて、友達はルパンマグナムになってしまった夜野魁利の明日はどっちだ?!