『星獣戦隊ギンガマン』感想・第44話
◆第四十四章「地球の魔獣」◆ (監督:田崎竜太 脚本:小林靖子)
魔獣ダイタニクスがギンガマンに倒されてから十日間……最大の戦力かつ宇宙を駆ける移動要塞を失ったにも関わらず余裕を見せるバルバンは、カード遊びに興じながら“最後の切り札”の出現を待ち、その間にゼイハブは黒騎士と樽爺の行方を追わせていた。
黒騎士ヒュウガは本日も樽コーチの指導の下、ひたすら斧を振って振って振りまくってスキルLV上昇に邁進し、樽爺はタウラスを人質に取るばかりではなく、肝心要の“ゼイハブの倒し方”についてはヒュウガに教えていなかった、とコンビ続行を余儀なくされる事情を補強。
一方、新年を迎えたギンガマンの食卓にはミルクとロールパンとサラダが並び、ギンガの森では特に正月料理というものが存在しないのかもしれませんが(そもそも暦が同一か不明)、相変わらず、季節感が薄かった。
そこへ青山父と鈴子先生が新年の挨拶に訪れ、父の着物姿と持ってきたおせち料理で挿入される季節イベント。
「あけましておめでとうございます。こんな時こそ、元気を出して行きましょう!」
そしてさりげなく、青山父をこういう事を言えるキャラにしているのが、巧い。
鈴子先生にデレデレのゴウキを微笑ましく見つめるメンバーだが、ボックが馬房をうろつく不審人物を発見して取り押さえると、それはかつての一方的恋敵・岸本で、新年早々、食卓が大変微妙な空気に。
「ゴウキくん、実はだ……弟子入りさせてもらう」
「ええっ?!」
ゴウキが鈴子先生をバス停まで見送った帰路、岸本が突拍子もない事を言い出て立て板に水と喋り出し、2年前のヒーローとローテ監督による息の合ったコミカルな芝居にゴウキはこんらんしている!
「あの日以来、俺はずっと考えてたんだ。ま、鈴子先生がお前を選んだのは仕方ない。先生の、自由だからな! しかし、俺は、男として、おまえに負けたままでいいのか? 教師は戦士を超えられないのか? そんな疑問を解決すべく、弟子入りを思いついたんだ」
教師は戦士を超えられないのか?というフレーズのリズム感の良さと頭の悪い感じと内に秘められた哲学的問いかけが、お気に入り(笑)
「でも、俺、まだまだですから」
「おまえがまだまだだったら、俺はどうなる?!」
困惑するゴウキに絡む岸本は、転んだ少女を助け起こし、大事に抱えていたぬいぐるみを拾って手渡してあげるゴウキに対抗して、巨大なぬいぐるみを買って押しつけると勝利宣言。
「俺はおまえの全てを見極め、その全ての上を行き、おまえに勝つと決意してきたのだ」
失恋の痛手で大変厄介な人にクラスチェンジしてしまった岸本は、半袖ゴウキが八百屋の店主に気に入られているのを見て自分も脱ぎ出すが、戦隊名物の半裸(語弊あり)に突入する前に街を巨大な地震が襲う……それこそが、バルバンの待っていたその時だった!
「これは、ただの地震じゃあないようだ」
モークは地中に邪悪な気配を感じ、出撃したリョウマ達はバットバス特殊部隊を率いるタンク魔人軍団と接触。軍団が巨大なドリルで穴を開けた地中に潜む邪悪な気配の正体、それは――
「地球で生まれた、地球魔獣だ!」
「地球魔獣?!」
「てめぇらが手を貸してくれたんだぜ、ギンガマン!」
ギンガマンがダイタニクスを倒したあの時、爆発したダイタニクスの破片が地球に染み込み、星の中心を汚染していた……
「魔獣ってのはな、そういう汚れた星から生まれるのよ」
クールごとに行動隊長の作戦目的の違いで変化をつけ、出来るだけ一本調子になる事を避けてきた今作、3クール目の締めにまさかのダイタニクス復活と撃破を持ってきて大きな驚きとしましたが、遂にそれを布石とした最終章の仕掛けが判明。それは敢えてダイタニクスをギンガマンに倒させる事により、地球を母胎にした新車に乗り換える事だったのだ!
ダイタニクスを倒したと思ったらより強い魔獣が、というのはインパクトにはやや欠けるのですが、ここで秀逸なのは、これまで規格外の存在という扱いだった「魔獣(ダイタニクス)」がアンチ星獣と位置づけられる事により、物語の中に収められた事。
これにより、星獣の力で星を守る戦士が、星から生まれた魔獣と戦う、という真のラスボスとの関係性に大きな説得力が生まれました。また、劇中の現象としてはダイタニクス汚染になっていますが、「汚れた星」という表現の中には、「環境破壊」「人心の荒廃」「戦争やテロ」といったそこに住む人間自らが星を傷つける行為をメタファーとして含んでいると思われ、魔獣の誕生と普遍的問題意識も綺麗に繋がっています。
そしてそれは、
「ここであの子を見捨てれば……どう戦おうと、それは、バルバンと同じだ!」
という今作の核心にあるテーマ性(総集編でもしっかり盛り込まれて嬉しかった台詞)とも繋がり、「心の中のバルバン(悪)」を常に意識しながら戦ってきたギンガマンが「地球の中の悪」と向き合う事になる……星から「星獣」を生むのも「魔獣」を生むのも、そこに生きる命次第というテーゼを示しているように見えるのは、終幕に向けて期待大。
一方、地震により地下道に逃げ込んだ人々が生き埋めになりそうになり、出口付近に落下してきた瓦礫を必死に支えるゴウキ(とちょっとだけ手を貸す風の岸本……支えにはなっていないですしギャグっぽい描写ですが、なんだかんだ人々に退避を促し、最後までその場に居残るあたり、やはり悪い人ではない)。人々が脱出する時間を稼いだゴウキは、少女が落としたぬいぐるみを拾おうとして危うく瓦礫の下敷きになりかけるが、なんとかぬいぐるみを確保して自身も脱出に成功する。
「おまえまさか、そんな物のために……」
「やっぱり俺……甘いですよね。こういうところ、直そうと思っていたのに。でも……あの子、凄く大切にしてたみたいだから。……これ、お願いします」
ぬいぐるみを岸本に託したゴウキは肩を負傷しながらも仲間の元に急ぎ、かつてヒュウガがリョウマに、そしてリョウマが勇太に教えた、戦士に必要な本当の強さと勇気――「誰かを守りたいっていう気持ちが本当の強さなんだ。怖くたって、それを乗り越えようとする気持ちが、勇気なんだ」――を、最終章を前にゴウキを通して改めて具体的に提示。
泣き虫で気の弱いところがあり優しすぎるゴウキが確かに持つ、己の中のバルバン(悪)に負けない強さ、それが瓦礫を支える肉体的強さのみならず、ぬいぐるみに気付き、それに手を伸ばせる心根(そしてそれは、誰だって持てるものである)として描かれています。
「……また負けか」
ゴウキの真の強さに気付いた岸本は、託されたぬいぐるみを少女に渡して2年前のヒーローらしいところをちょっぴり見せ、“岸本の目”を通して、ゴウキの真の強さをいち早く受け止めていた鈴子先生の見る目が肯定される、というのはややトリッキーな構成(ストレートにやると鈴子先生を持ち上げすぎになりかねないので、それを避ける意図もあったか)。
タンク魔人特殊部隊は、生まれたばかりの小さい魔獣に急成長エキスを打ち込もうと巨大注射器ミサイルを地下へ発射。バリアーで守られた装置を破壊できず、タンク魔人の砲撃に近づく事もできないギンガマンだが、そこへ駆けつけたギンガブルーが、高い所に陣取ってバズーカを連射する。
結果的に、正面部隊が敵を引きつけている間に伏兵の砲撃手が最善の場所へ辿り着いた囮戦術のように見えるのが、凄く銀河戦士です(笑)
心の中で(げげーっ、ギンガブルー?!)と横山光輝ごっこをするタンク魔人だが、肩を負傷しているブルーはバズーカの反動に耐えきれずに膝を付き、更には跳ね返ってきた砲弾を受けてあおのけに倒れそうになった時、それを後ろから支えたのは岸本。
「しっかりしろ」
「岸本さん!」
「俺の肩、貸してやっから」
4人がタンク魔人に組み付いている間に、背中合わせに岸本の肩を借りたブルーは、モークバズーカにアースを充填。
「諦めたよ。おまえには勝てん。優しすぎて、強すぎる」
「……俺が?」
「とぼけちゃって。それで鈴子先生をおとしたくせに。優しさあまって強さ100倍。おまえの武器なんだろ? なんで直す必要があるんだ!」
岸本の激励に、自分の甘さは戦士としての弱さなのではないか、と考えていたゴウキは考えを改めてアースを高め、ゴウキの見せた戦士の魂が岸本に伝播し、それがぐるりと回ってゴウキを支え励ます力になる、とヒーローと大衆のテーゼに着地。
リョウマ-勇太の関係を、大人の男二人でやっている、ともいえますが、リョウマ-勇太があくまでもリョウマが勇太を励まし導くという構造だったのに対し、ここでは岸本がゴウキを肯定する、というアレンジが加えられています。
これは2年前のヒーローゲストへのサービスもあったのかもですが、ゴウキにとっての鈴子先生が全肯定女神属性すぎる所はあったので、身内と鈴子先生以外のキャラクターがゴウキの強さを認めて自信を与える、というのは全体構成の中ではプラスに転がりました。
「……それよりこれ、熱いぞ?」
そしてしっかり、オチをつける岸本(笑)
赤熱していく竹輪に岸本があたふたしつつも、放たれた友情のハイパーゴリラバズーカの一撃が装置を破壊し、バルバンの成長エキス注入は失敗。驚いた魔獣は地中を別の場所へ移動して行方をくらませてしまい、5人揃ったギンガマンは残ったタンク魔人を相手にギンガの光を発動。連続ガントレット攻撃でよろめかせると一斉に突撃するも、タンク魔人の85mm砲を受けて煙に飲み込まれるが、その中から飛び出してきたのはライオンバイク! 粉塵を突き抜けて姿を見せたバイクはそのままの勢いで魔人を獅子の棺桶もとい装甲アタックで轢き殺し、今回の使い方は格好良かったです!
作戦変更で巨大化したタンク魔人の体当たりに苦戦したギンガイオーは増援を要請し、「鋼の装甲を誇る」ライノスの支援攻撃からざっくり獣王斬りで、巨大戦はいつもの調子に戻るのであった(笑)
今作の巨大戦、基本的にざっくりかつ遊び心も弱いのですが、エピソードのメインだったキャラが星獣召喚→星獣登場、のところまでは物語が乗っているのに、乗っていた物語のブースト効果がまるでなく苦戦→物語のまるで乗っていないギガ助っ人、というフォーマットになっている事で、余計に残念感が増しているのが辛い。
毎度の挿入歌は格好いいですし、ライノスもフェニックスもデザインは嫌いではないのですが。
ギンガマンはハイパーゴリラバズーカの反動ダメージで倒れていた岸本を無事に回収するが、守るべき星の地下に宿った、新たなる脅威の存在を感じずにはいられないのであった! で、つづく。
次回――ここでまさかのボック回?!