『快盗戦隊ルパンレンジャーvs警察戦隊パトレンジャー』感想・第22話
◆#22「人生に恋はつきもの」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:香村純子)
「結局アムールってなんなんです……!」
(※答は35年前を参照の事)
人生の深奥でもがく陽川咲也はさておき、物語は前回ラストのやり取りからスタート。
「やはりでしたか。君が素直に、私に従う筈はないと思っていました」
「大した我が儘じゃありません」
ノエルはコグレに、回収したダンベルを渡す代わりにコレクションを一つ貸してほしい、と持ちかける。
「悪い話じゃないと思いますけど」
「黙って国際警察に入るような人を、信用しろと?」
両者は棘付きのボールで牽制球を投げつけ合い、お互いに腹の底を見せない応酬の端々で、口角を持ち上げただけの笑みを浮かべるのが、揃って絶妙に気持ち悪い。
「それはお互い様でしょう」
「……何が欲しいんです」
なにやら痛いところを突かれたのか、初めてぶっきらぼうになったコグレはノエルの申し出を認め、如何にもビークルになりそうな、潜水艦?のコレクションを渡す。ルパンレンジャーが「空」で、パトレンジャーが「陸」なら、追加戦士は「海」かと思っていたら電車だったのですが、ここで追加ビークルとして海系メカが登場?
……まあビークルサイズだと明確でない部分もあるので、予測に基づいた願望を取り除くと飛行船にも見えてきましたが、どちらもザ・スチームパンク!という感じなので、アリです。
で、今頃気付いたのですが、VSビークル(が巨大化して逃亡手段になる)って、主人公達が高いところに追い詰められた時に空から気球がやってきたり、テムズ川(セーヌ川やドナウ川でも可)をずももももと割って潜水艦が浮上したり、というシチュエーションのギミック化であったのだな、と。
「安心して下さいコグレさん。僕たちの「願い」は、同じです」
「だと、いいのですが」
注目の二人のやり取りは非常に嫌なフレーズでまとめられて終わり、どう見ても波乱含みな腹黒い二人の主導権争いに、快盗戦隊を象徴するキーワードを絡めてくるというのが、大変いやらしくて素晴らしい。
一方ギャングラーでは、デメキンギャングが持ち込んだボスへの手土産をゴーシュが横からさらい、本日もボスがゴーシュの肩を持つ事で、デストラさんの胃薬の量が増えていた。
そしてビストロを、“警察戦隊の関係者”として訪れるノエル。
「ボンジュール。高尾ノエルです。初めまして」
しれっと初対面を装うノエルに初美花は思わず首を傾げ、透真は鉄面皮でフォローを入れ……
「えっとー……俺とは初対面じゃないっすよね、圭ちゃん?」
「やはり覚えていたか」
一般市民・夜野魁利、として既にノエルを目にしている魁利はそこを用心深くすくい上げ、辺り一面地雷だらけで、一つ一つの台詞が全て心理戦になっていて、視聴者が辛い!!(笑)
ただ快盗諸君、本当にほぼ初対面ならまず、その制服に驚こうな!
「へぇー、快盗の正体が、実は国際警察だったなんてね」
わざとらしい魁利の呟きをノエルはニヤニヤと面白がり、
「まさか堂々と、警察と一緒にジュレに来るとはな」
厨房から様子を窺う透真の殺意ゲージは順調に蓄積されていた(笑)
ノエルは更に、魁利と透真の名前はすぐに出すも、紅茶を運んできた初美花の名前はすぐに出さないなど小芝居を入れ、透真が下剤のビンに手を伸ばしそうです!
「今日も可愛いな……」
そんな初美花を見送り、ぼそっと呟く咲也の言葉に、物凄く機敏に反応するノエル。
「咲也くん。君、もしかして、初美花ちゃんに……」
「イエス! フォーリン・ラブです」
「あ~~~……っ! なんて素敵なんだー! うんうん、人生に、恋はつきものだよね。うんうんうん、あ、あ、僕も、応援するよ」
両手を広げ、顔をくしゃくしゃにし、何故か本人よりも興奮しているノエルは咲也に椅子を寄せて激しく共感を示し、ここで場の空気が一気に切り替わるのですが、誰にも本音を伺わせない難儀なキャラから一転、前傾姿勢で早口になる姿が、大変楽しそう(笑)
「ホントですか?!」
「僕を誰だと思ってるんだい? アムールの国から来た男だよーー」
勿論、咲也の色恋沙汰に食いつく、というのもノエルにとっては“作った部分”であるかもしれないわけですが、大仰な仕草と気取った口調がギャグとしても大変面白くはまり、本当でも嘘でも、ノエルに対する好感度が一気に上がりました(笑)
咲也の恋愛の行く末は正直どうでもいいのですが、こで裏か表かを全く見せないまま、ノエルを面白くする事に繋げてきたのはお見事。
「ありがとうございます!」
「て、まかして!」
「二人」
アムールの名の下に急速に絆ゲージを高める咲也とノエルだが、対面から投げかけられた氷点下の声に揃って一時停止。
「顔と動きがうるさい」
つかささんには不評だった顔と動きですが、個人的には大変面白かったです(笑) 面倒な生き物が増えた、という表情で黙々と紅茶を口にする圭一郎&つかさとの温度差も絶妙で、この一撃で、ノエルが警察戦隊の中に収まってみせたのは、重ねてお見事。
咲也は謝り、ノエルはなだめ、コイバナに突入しながらフェードアウトしてOPに繋がるのですが、戦隊でハッキリとカットを切らない演出は珍しい印象で、二人のやり取りが脚本を超えて盛り上がってしまったのか、騒がしい二人につかささんのR15なお仕置きが炸裂したのか、真実は国際警察の監視カメラだけが知っているのです。
圭一郎達3人が店を出た後、一人居残っていたノエルは、咲也から掏り取ったスマホをわざとらしく拾ったように見せると、初美花に咲也の後を追いかけさせる。
「どういうつもりだ」
怒りの形相で麺棒を突きつける透真、法が許すなら殴り殺しそうな勢い。
「ふふふふ、キューピッドになろうと思って」
一体全体どこまで本気なのか、ノエルは咲也の恋路にお節介を焼き、スマホを届けにきた初美花に対して、チャンスとばかりしぶとくモーションをかける咲也。
「あの……もっと色々、話がしたいなって」
以前は強引に電話番号を押しつけた咲也ですが、返事を濁す初美花の態度を見て
「また、気が向いた時でいいから。じゃあね!」
と笑顔で撤収し、咲也は引く事を覚えた!
先輩2人にとっても行きつけの店なのでお仕置きを恐れたというのもありそうですが、少なくとも客と店員として接触できる今の関係を壊すのを恐れるようになった、という心情も窺え、確かに初美花への本気度は上昇している模様。
一方の初美花が咲也の背を見送る視線も、これまでの拒絶一辺倒から少し変化しており、クレーン&ドリル回の活躍と少年への気遣い、という咲也の一面を目にした影響もありそうですが、初美花自身にとって大切なのは親友を取り戻す事であり、例えば恋愛の事など今は全く考える事が出来ないけれども、しかし、“今の自分”に対して本気で向き合ってくる人が居た時、自分はそれに対してどうすればいいのだろう、という惑いが入ってきたようにも見えます。
戦隊にしろライダーにしろ、1年間という長丁場を活かして、物語の中における“時間の積み重ね”を大事に描く事が多いですが、願いの為に快盗として戦えば戦うほど、ジュレの店員という“偽りの自分”で過ごす時間も増え、必然、嘘の人間関係が積み上がってしまう、という仕掛けが改めて浮上。これはまた、過去作品において小林靖子×宇都宮Pというタッグで特に見られたテーマ性ですが、香村さんの筆がどう料理していくのかも、楽しみです。
店に戻ろうとする初美花だが、通りすがりのカップルの悲鳴が響き渡り(これが前段で、咲也がデートに誘う前振りになっているのが視線と心情の誘導も含めて地味に上手い)、人間を金魚に変えて、手の中の金魚鉢に閉じ込めてしまうデメキンギャングが登場。イエローに変身しようとする初美花だが、同じく悲鳴を聞きつけた咲也に気を取られた隙に、金魚にされて金魚鉢の中に閉じ込められてしまう。
鉢の中では人間の姿に戻るも(ゴーシュはこれを見て大喜び)、既に複数の人が捕まっていた為に初美花は変身できず、パトレン2号も金魚鉢を人質に使ういやらしい怪人に翻弄された末、水流攻撃を受けて完敗、逃亡を許してしまう。
「申し訳ない。僕が余計な事をしたせいだ」
「おまえの反省に構っている場合じゃない」
「俺らもギャングラー探すぞ」
咲也からの謝罪で初美花が囚われの身となった事を知った魁利と透真は飛び出していき、取り残されたノエルはぐっと拳を握りしめて唇を震わせ、ここで初めて、ノエルの「本気」が一つ明確に。
怒りのポイントがどこかはまだわからないのですが、まるっきり本音の読めないままのキャラクター、というのはやはり辛いので、一端を見せるタイミングとしては非常に良かったです。
警察戦隊では被害状況から金魚の行動を分析、候補地点を3人で手分けして待ち伏せする事に。
「絶対に……絶対に助け出す」
強い決意でVSチェンジャーを握りしめる咲也に協力を申し出たノエルは、スマホの件を種明かし。
「軽率な事をしてしまった。ごめんね」
「関係ないですよ。僕が守れなかった……それだけです」
「咲也くん……」
「こんなんだから、全然、振り向いてもらえないんですよね。でも、必ず助け出します。初美花ちゃんも、捕まった人達も」
「……君は……いい人だね」
悪い人であるノエルに感心するように言われ、咲也のいい人路線は確定か……! まあ、ノエルの加わった警察戦隊においては貴重な潤滑油ですし、この事実を、認めるしかないのか……!
「それ、フられる時に、よく言われるやつです」
苦笑から笑顔を向け合った2人は絆ゲージが急速に上昇し、デメキン相手に並んで変身。手はず通り、自ら金魚のポイに乗って金魚鉢の中に突入する2号だったが、VSチェンジャーの通常攻撃では火力不足。
(快盗チェンジして一緒に撃てば、壁を壊すことが出来るかもしれない。でも……)
それを見つめる初美花は、正体を曝すべきか、曝さざるべきか、快盗のジレンマに陥り、意外やこの点に主眼が置かれたのは、今回が初めてのような気がします(「変身できない」状況、自体はちょくちょくありましたが)。。
ビークルに手を伸ばす初美花だが、赤と青に怪人の相手を任せた金が続けて突入してきて、初美花がその背を見つめる中、緑は金との協力連射により金魚鉢を破壊して、ようやく脱出に成功。
……同じ緑色でいうと、これが大五さん(『五星戦隊ダイレンジャー』)なら、
「俺が守る。俺が命に懸けて、必ずおまえを守ってみせる」
と愛を告白しながら生身連続パンチで内部から壁を砕いてみせる所ですが、咲也には、愛の力と、主人公補正が足りない!
緑が初美花含めて一般市民を退避させている間に赤青はコレクションを回収。さらっとグッティを取り出した金からのパスを受けて赤が分身し、パノラマカメラでアクロバットな戦闘。快盗チェンジした銀はやたらと派手な一斉攻撃に参加して金魚を撃破し、ここで陣形が、
〔青-赤-赤-赤-銀〕ではなく、〔赤-青-赤-銀-赤〕という厚かましさが、凄くルパンX。
シュビドゥバ巨大化したギャングに対し、赤と青に電車ビークルを発射させた銀は、Xトレインを両ビークルと連結させてX合体をお披露目。烈車のど真ん中にもう一両の烈車が突き刺さり、文字通りのXとなって誕生した新たな巨大ロボ、その名はXエンペラースラッシュ!
てっきり新たにレンタルしたコレクションが巨大ロボの胴体部分になるのかと思ったのですが、初期装備だけで単体ロボが誕生し、ビークルを「連結」という形で取り込んだ上で、烈車と烈車をXするとそのまま両手両足になる、というギミックが大胆で印象的。……最初から使わなかったのが、ファイアーとサンダーを発射してくれる同志が居ないと合体できないという理由なら、システム的には欠陥品の香りも漂いますが(笑)
トランスフォーマー顔な快盗モード、Xエンペラー銀は近接スタイルで、胴体前面に斜めに出っ張りが取り付いている、という大変動きにくそうな見た目ながら、回し蹴りを決めたりステップを踏んでポーズを取ったり案外とよく動き、特に決めポーズの時に4方向に火花が飛び散るのが格好いい。
だからXなのさぁ……!
スラッシュは右手のソードでデメキンのポイを破壊し、手土産が気に入ったデメキンの危機におねだりするゴーシュに応えたボスの命により、胃薬がまた増えるデストラさん、嫌々ゴーレムを追加。
「まったく……! ボスはあの女に甘い」
今回、かなり露骨にゴーシュが媚びを振りまき、それを鷹揚に受け入れる親分、不満を漏らすデストラさん、という構図が強調されているのですが、後半戦に向けてギャングラーの方向性が固まりつつあるのかどうか、とにかくデストラさんには、終盤、大きな花火を打ち上げてほしいです。
そういえば、小林靖子と香村純子を重ね、小林さんにおける『ギンガマン』(王道)→『タイムレンジャー』(変化球)を、香村さんにおける『ジュウオウジャー』(王道)→今作(変化球)になぞらえる見方をすると、ドン・ドルネロ=ドラグニオ、ギエン=デストラ、リラ=ゴーシュ、という幹部陣の立ち位置が割としっくり収まってしまうのですが(もちろん細部はだいぶ違いますが)、今回のボスの骨抜きぶりを見ると、ひょっとするとひょっとする可能性も出てきた感はあり、ここにイレギュラーな要素であるザミーゴさんがどう絡んでくるのかも楽しみなところです。
「こんなの僕の敵じゃない」
ゴーレムが加わって2対1となっても余裕綽々の銀は、Xは、本当に、ひっくり返ってもXでしょ、を発動し、側転したエンペラー銀は上下入れ替えにより警察モードのXエンペラーガンナーへとチェンジ。射撃スタイルのガンナーは胴体前部にガトリングガンが突き出しており、立ちポーズがそのまま腰だめに機関銃を構えたコマンドー仕様という、凄まじい殺意の高さに胸が震えます。
エンペラー金はゴーレムをあっさりと蜂の巣にすると再びひっくり返って銀となり(毎度の事ながらいちいち着替えるシステムを導入した高尾ノエルのこだわりにトリックスターとしての矜持を見ます)、エンペラースラッシュで金魚を斬殺、華麗なデビュー戦を飾るのであった。
「助けてくれて、ありがとうございました」
「そもそも、守れなかった僕が悪いんだし。結局、ノエルさん居なきゃ、助けられなかったから」
「それでも、来てくれてありがとう」
「……どういたしまして」
どことなく気恥ずかしそうな初美花に咲也は笑顔を返し、ダッシュで駆けつけたノエルの前で初夏だけど春の空気が仄かに漂ううっすらした予感めいたものがさりげなくライクからラブ、ラブ・イズ・フォーエーバー、幸せな未来への道が濃霧の向こうにちらりとよぎったようなよぎらなかったような気がしたが
「咲也さんって……いい人ですね」
初美花は満面の笑みで必殺の一撃を放った!
「…………へ?」
何もかも気のせいだった!
「あっ……」
気のせいだった!
初美花は元気に走り去っていき、その背を愕然と見送る咲也、哀れな生き物を見る目で咲也を見るノエル、目の前で展開していたやり取りが心底どうでもいい圭一郎とつかさ。
「…………ノエルさん。……今の、いい人って、やっぱり……」
「え……や……今のはほら……その……」
「ノエルさん、アムールの国ではどういう意味なんですか?! ノエルさぁん!」
「まだ、チャンスはあると思うよ。はは、チャンスはある!」
ノエルは笑って誤魔化しながらランナーズスタイルで逃走し、それを追いかける咲也、必死にノエルを追う咲也に突き飛ばされる形になり声を荒げる圭一郎、のドタバタでオチ。
ノエルの肘直角ダッシュが大変面白かったですが、今回ノエルと咲也のやり取りにほぼ関わっておらず台詞も少ない圭一郎とつかさが、しかし背後で呆れながら立っているだけで面白い、というのは今作のよく出来たところ。
そして伝家の宝刀で切り裂かれた咲也→初美花ですが、これまでの「可能性ゼロ。むしろキモい」から、「可能性は重力子の発見レベル。とりあえず同じ霊長類である事は認める」ぐらいまで発展した感はあり、人類の科学の発展が待たれます。
今回の描写を見るに初美花の方は、恋愛感情うんぬんというより、大切な友を取り戻す為に“今”を捨てている自分自身とどう向き合うのか、という問題に直面しつつある感がありますが、果たして咲也は、初美花に“未来”を見せる事ができるのか?!
変身前の初美花が怪人の特殊空間に閉じ込められる、というプロットは、変身後の赤と青が怪人の胃袋に収められたエピソードを意図的に裏返したものかと思われますが、構成を逆にする事で、自分たちの願いを果たす為には正体をみだりに明かせない快盗のジレンマを突いてきたのは、面白い狙い。
正体厳守系ヒーローの葛藤というのは古典的要素ですが、ここで“秘密の理由”は極めて私利に基づいており、願いの為に場合によっては目の前の人達を見捨てなければいけない、という快盗戦隊の本質を改めて眼前に突きつけられたのが初美花、というのは後々に効いてきそうです。
実際、(自分の命もかかっているとはいえ)不利益を承知で変身寸前まで行く初美花ですが、その初美花のストッパーとなり、その初美花を心配していたのが、近所の「パン屋の齋籐さん」という、“偽りの今”で生まれた人間関係というのは、凶悪。
2号とXの登場により初美花は最後まで変身せず、ついでに圭一郎とつかさも変身せず、ルパン赤青・パトレン2号・ルパン金銀のみが変身する、という変則的な構成でしたが、ルパン金銀を目立たせつつXエンペラーに尺を割く関係で、スッキリして良かったと思います。
Xロボは、一度見たら忘れようのない突き抜けた合体ギミックと、見た目の割に動けるところが好印象。ノエルのキャラ的には、裏表で別の顔を持つロボットというのも最低感が増して見たかった気はしますが、ひっくり返りギミック自体は好きですし、ひっくり返る事で戦闘スタイルがチェンジする、というのは好アイデア。かなり好きなロボットになりました。
次回――溜まりに溜まった透真のストレスが、必殺料理となって炸裂する?!
黄金の金庫が輝く新たなる強敵登場、というより夏休み出オチ編の予感も漂いますが、とりあえず見るからにネロ男爵が混ざっていて気になります(笑)