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鏡よ鏡

恐竜戦隊ジュウレンジャー』感想・第32話

◆第32話「ゲキよ涙を斬れ」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:荒川稔久
 冒頭からラストの揃い踏み(監督クレジット)シーンまで、OP映像が全体的に守護獣押しにマイナーチェンジされ、本編での出番はまだ2回(しかも、突然の襲撃と、合体の素材)のみなのに、紹介カットがやたら格好良く、ラストではセンターに陣取るブラキオンが、えらく良い扱い(笑)
 まあメタ的には、この3クール中盤の主力商材という事なのでしょうが、前回、大きな一山を超えた直後のマイナーチェンジは綺麗にはまって盛り上がり、大変良いタイミングでした(アイキャッチも同時に変更)。
 究極暗黒神……じゃなかった、究極大獣神の力により復活した大サタンを退けたジュウレンジャーであったが、ブライの余命が残り12時間程度しかない事に苦悩するゲキは悪夢に苛まれ、ゴーレム兵が緑のろうそくを吹き消していく映像が、大変えげつない。
 「あはははははは……ゲキ、おまえにはどうする事もできない。運命を呪うんだね」
 トドメにバンドーラ様が現れるのが、まさに悪夢の象徴としてふさわしく、冷や汗を垂らしながら跳ね起きるゲキ。
 (夢……だが、夢じゃない)
 どうやら兄を救う手段を求めて何か調べ物をしていたらしいゲキだが、バンドーラの攻勢は手を緩める事を知らず、美しい女性を次々と取りこんで成長していく巨大植物・ドーラナルシスが出現。
 ブライが独房を出ないように、と焦るゲキは軽率な突撃からかえってピンチを広げてしまい、知恵の戦士の視線が怖い!
 基本的に大柄で強面の人相ながら、メンバーの中では知性派ポジションという事もあり、これまでは意識的に柔らかい表情の多かったゴウシですが、今回は兄を想うゲキの暴走に不安を抱く役回りから、表情が容赦なくきつめ(笑)
 「それにしてもゲキの奴、ずいぶん兄さん想いだこと。うふふ……いい弱みを握らせてもらったわ!」
 バンドーラ様が実にいやらしい笑みを浮かべる中、女性消失事件の中心地点を探り出したジュウレンジャーは、植物研究所の庭園にドーラナルシスの本体(巨大な球根)を発見。
 「俺にやらせてくれ」
 自ら不始末のケジメをつけようと進み出るゲキだったが、そこに響くのは魔女バンドーラの悪魔の誘惑。
 「そのドーラナルシスは、全て者に命を与える魔力があるのよ。ふふふ……もちろんおまえの愛する兄、ブライにだって」
 花の命を甦らせる実演付きで、バンドーラ様はいやらしくゲキを揺さぶり、前回ラストでようやくスクラムこそ組んだものの、基本、ゲキ以外のメンバーとブライとの友好度が低いので、周囲からの「バンドーラの言う事なんて嘘っぱちに決まってるんだからさっさとケジメつけろ」がけだし正論である以上に、関係性の弱さに見えてしまうのは、物足りないところ。
 シリーズとしてこれまでにないポジションのキャラであると共に、当時の尺を考えると、とにかくゲキとの関係性を集中&強調する、のはやむを得ないところはあったのでしょうが。
 「ためらうなゲキ。斬るんだ」
 「…………ゲキがやれないなら、俺がやってやるぅ!!」
 槍を突き出すダンだが、ゲキは咄嗟にそれを受け止めてしまい、その間に巨大な花が開くと内部から人間に似た顔が現れ、ドーラナルシスが球根から人型へと生長。
 「私は美しくある為に生まれてきた。もっともっとエネルギーを吸い、大宇宙で最も美しい存在となるのだ」
 花部分のパールホワイトと、葉部分のグリーンのコントラストが非常に目立ち、なんというか、潔くてインパクトのあるデザイン(笑)
 「今のおまえにとっては、戦いも仲間も忘れ、ただ血を分けた兄との安らぎを求める事こそ幸せなのだ! この俺が、おまえを兄と同じ闇の底に叩き落としてくれる!」
 「……違う、違う! 俺の、俺の幸せはそんなもんじゃない! 俺の幸せは……バンドーラを倒し、自分のこの手で、兄さんを救う事だ!」
 この後、悩める若頭に、全身鎧のヒットマンに扮した若頭補佐が命がけで活を入れ、荒川稔久の筆により、大義と私情の衝突からの止揚が組み込まれるのですが、なにぶんここまでのジュウレンジャーが徹底して公の正義に基づく使命感を行動理念としてきたヒーローであった上に、前回の究極大獣神復活において、正義・愛・勇気・希望+知恵と力という、マジックワードそのものを象徴とした勇者像を確立した直後だったのもタイミングが悪く、私情に揺れるゲキの姿は、どうにも強引に。
 ゴウシアーマーとの戦いで吹っ切れたゲキは己の進むべき道をその剣で切り開くが、ナルシスはゴウシから奪ったエネルギーで巨大化し……つまり、ゴウシは美しい!
 直後、巨大ナルシスの目が赤く光るとゲキとゴウシが大爆発に飲み込まれるが、地響きと共に地底から青黄桃の操縦する大獣神が市街地に出現する姿が3方向から描かれると、その手の上にはゴウシを抱えたゲキの姿が! は、シリーズでもあまり記憶に無いタイプの演出で、印象的な見せ方。
 「バンドーラ! 許さん!!」
 戦う正義を取り戻したゲキが変身してコックピットに乗り込むも大獣神はナルシスの触手攻撃に苦しむが、その衝撃で目を覚ましたゴウシが、ナルシスは鏡に弱いと知恵袋スキルを発動し、召喚されるゴッドホーン……無事だった。
 触手の拘束をゴッドホーンで断ち切った大獣神はナルシスの攻撃をひらりとかわし、その際、ビルの窓ガラスに映った自身の姿にうっとり見とれて動きの止まるナルシスの背後で剣を振り上げる大獣神の図、は大変邪悪で、仁義なき背後攻撃でフィニッシュ。
 最期は呆気なかったナルシスですが、生命エネルギーを奪われた女性たちは無事に戻りました、という、『ジュウレンジャー』ならだいたい入るシーンが無く、劇中でも屈指の直接被害を出したドーラモンスターであったかもしれません……。
 (兄さん、俺は信じている……兄さんを救う方法が、必ずあると)
 ゲキは夕陽を見つめて誓い、やや強引さは出たものの、ブライの寿命問題の共有をスプリングボードとして、ゲキに新たな目標設定を与えるのは、終盤へ向けたフックとして上手く設置され、面白く転がってほしい要素です。

『恐竜任侠伝』第9話「大いなる盃」

恐竜戦隊ジュウレンジャー』感想・第31話

◆第31話「復活!究極の神」◆ (監督:小笠原猛 脚本:杉村升
 「おのれぇ……なんとしてもサタンフランケを倒し、大サタンを追い払うんだ!」
 サブタイトル直後から、柱に塗り込められた子供たちの「助けて」大合唱なのが大変えげつなく、その声に応えようとする大獣神だが、サタンフランケのサタンブレストビームにあえなく倒れてしまう。
 そこへ駆けつけた緑が笛をぴーひゃらし、大獣神とドラゴンシーザーはタッグでサタンフランケへと戦いを挑むが、炸裂するサタンドロップキック、からの、サタンハンマーナックル!
 「さあ! サタンフランケ、大獣神とドラゴンシーザーに、トドメを刺すのだ」
 サタン溶解液を浴びた二大ロボは大地に倒れ、コックピットから強制排出されたジュウレンジャーと緑が放り込まれたのは、精神と時の独房。
 そこで6人は、クロトと出会い……
 「やめろ!それを言うな!」
 「……ヤマト族のプリンス・ブライ! なぜ彼がドラゴンレンジャーに変身できたのか。なぜ同居を拒むのか。なぜ助っ人に来てはそそくさと帰ってしまうのかぁ! その答はただ一つ。へはぁー……ブライ! 彼が、冷凍睡眠中の事故で本当は一度死んでおり、追加で与えられた残りの寿命が、あと15時間だからぁ!! わはははは、わーははははははは!!」
 開口一番、ゲンムコーポレーション社長・黎斗、じゃなかった、命の精霊・クロトからゲキたちにブライの寿命問題が暴露され、公式配信のタイミングが酷いシンクロを起こしました。
 ブライはコールドスリープ中の事故で一度死んだのだが、大獣神会長の依頼を受けたクロトによって仮初めの命を与えられていた事が明らかになり、〔弟が本家の跡取りとして養子に → 何を思ったのか父が叛乱を起こすも失敗 → 反逆者の一族として追われる身(多分)に → 膨れあがった復讐心に翻弄される青春時代を過ごす → 復讐を誓ってコールドスリープコールドスリープ中に事故死 → 神的存在により生命の尊厳を奪われる〕で、あまりにも不幸。
 正解の選択肢は、ゲキたちがコールドスリープに入った後、機会を見て冷凍睡眠カプセルを崖から落とす、だったのではないか。
 大獣神がブライの命を繋ぎ止めたのは、遠い未来、バンドーラに続き、大サタンが復活する事を予期していたからであり、クロトは6人に、かつて大サタンと戦った究極の大獣神の存在を告げる。
 「兄さん……」
 「悲しまないでくれゲキ。俺の命はあとわずかでも、俺は最後までジュウレンジャーの一人として戦う」
 現在の大獣神は、かつての大サタンとの戦いでその力を失った姿であり、クロトの言葉に従った6人は、究極大獣神の力を取り戻すべく、北へと走る。
 道中、サタンガスを浴びて苦しむ子供たちの姿が描かれるのと、それを無視して進めない、と時間が無い中でペンションに運び込むのは実に『ジュウレンジャー』で、大獣神とドラゴンシーザーが真夏のアスファルトに落ちたアイスのようにどろどろに溶けるタイムリミットが迫る中、子供たちを助けようとするジュウレンジャーを襲撃する黄金夫婦。
 今回もしばらく生身アクションの後、ゲキを北へ、ボーイを医者を呼びに向かわせ、自然とブライが残りメンバーのセンターに入ってダイノバックラー!
 「負けるものか! 勇気だけは、人一倍あるんだ!」
 メイは高熱に苦しむ子供たちの看病を続け、青は伝説だった気がする武器を振り回し、黒はサンダースリンガーを用いた落石の計でラミィを潰走させ、緑は1億7千万年前、いつか一人で城攻めする事もあるかもしれない、と修練を積んできた丸太を掴んで振り回し、戦力不足の中で、それぞれが奮闘。
 ボーイはその脚力で医者を連れて戻り、ひたすら北へと走るも滝に行く手を阻まれたゲキが、クロトの言葉を思い出して果敢に滝壺に向けて飛び込むと、一同揃って滝の下にドンブラばりの強制招集が行われ、6人はそこに、定礎……もとい、碑文を発見。
 「6人の戦士が現れ、一人ずつ、自らの使命を叫び、メダルをはめこむ時、究極の大獣神が甦る」
 前年の戦隊だとここでゲームオーバーになりそうな最終試練が課され、碑文の意味に戸惑いが広がる中、いちはやく進み出たのは、メイ。
 「わかったわ! 私の使命は……プテラレンジャー・メイ! 愛の戦士!」
 子供たちを看病していた際に自身を突き動かした自然な想いをメイは口にし、ジュウレンジャーの明解なヒーロー性を示す&ままあるトラブルかと思われた子供関連イベントが、こう繋がってくるのは成る程でしたが、クリア条件が「自分で叫ぶ」なのが大変タチが悪く、この試練を考案した存在には人の心が無い!
 「タイガーレンジャー・ボーイ! 希望の戦士!」
 「マンモスレンジャー・ゴウシ! 知恵の戦士!」
 「トリケラレンジャー・ダン! 勇気の戦士!」
 「ドラゴンレンジャー・ブライ! 力の戦士!」
 ゴウシは自ら長所は知力、と口にする羽目になり、武闘派ヤクザ脳のブライ兄さんは完全に、暴力こそ崇高なるパワーな位置づけにされ、
 「そして俺は……みんなの力を一つにまとめる、ティラノレンジャー・ゲキ! 正義の戦士だ!」
 最初期に持ち込まれるもガタガタだった「リーダーとは何か」が改めてふんわりと拾われ、碑文に填め込まれる6つの恐竜メダル(この小道具の使い方は良かった!)。
 「愛……希望……知恵……勇気……力! そして正義。大獣神よ、6つの光で甦り、究極の大獣神となるんだ!!」
 碑文から放たれた虹色の光が大獣神とドラゴンシーザーに降り注ぐと、本来の力を取り戻した二大ロボは、サタン溶解液を消滅させ、雄々しく復活!
 今作ここまでどうしても、変身パワーの源(従来作でいえば、バードニックウェーブやアースフォースにあたるもの)が具体的な形と意志を持った超存在として、適宜、手も口も出してくる為に、戦士-力を与えるもの、のパワーバランスが悪い点が目立っていたのですが、ここで、“神もまた、人の心を必要としている”事が組み込まれて互助関係が成立。
 大獣神大獣神で、この時の為に、戦士たちを勇者に育成する必要があったのも、これまでの言行の背景として、綺麗に収まりました。
 …………まあブライに関しては、〔究極の力を取り戻す駒にする気満々で仮初めの命を与える → そんな事実はおくびにも出さずにしばらく泳がせる → パンドーラ一味と決裂したところを見計らい、裏から手を回して軟禁 → 下準備として獣奏剣を与えた上で力に溺れての暴走をしばらく放置 → ゲキへの試練に利用 → 最初から手下だったドラゴンシーザーを叩きのめす芝居から、感動の手打ちを演出 → 頃合いを見計らって真相を暴露〕と、檀黎斗も真っ青の暗躍で、一度死んでいるのをいい事に好き放題に扱っていますが、そもそも、気候変動による天変地異で冷凍カプセルが潰れたのは、本当に、“ただの偶然”だったのでしょうか……?
 人の心など最初から無い神の所業への疑念はひとまずさておき、ジュウレンジャーがコックピットに乗り込むと獣帝合体が発動し、半分に割れたドラゴンシーザーを雨合羽のように頭からすぽっと被った(今見ると、ひところからマスコット系ぬいぐるみの世界などで流行っている、別のキャラの皮を被った姿に見えます)、獣帝大獣神が誕生する!
 シルエット的には、キノコみたいでもあるのですが、古来、傘は広げる事でその下に“聖なる空間”を作り出す道具であり、また、かぶりものとしての「蓑」「笠」は外界から隔離された空間を作り出し、神霊がその身を隠して移動するのに用いる性質を持つ事から逆説的に、ドラゴンシーザーを「笠」として被る事により、異界として形成された内部空間に存在する大獣神の神霊としての性質が高まる形態なのかもしれません。
 つまりドラゴンシーザーを頭から被る事によって、移動する山(異界)と化した大獣神は、シーザーのZ印を巨大な光球として放つ必殺技でサタンフランケを消滅させ、バンドーラ様は思わず口をあんぐり。
 「……はぁ?」
 「バンドーラ、まだ終わりじゃないぞ!」
 更にキングブラキオンが召喚されると究極合体が発動し、フォートレス形態となったブラキオンの背中に獣帝大獣神が乗り込む、要塞ロボの新パターンとでもいった形(いつの間にか、どこかに飛んでいったシーザーの胸部も合体している気がする)で、究極大獣神が誕生する大盤振る舞い。
 まさに、地上に降臨した戦神の巨峰、究極大獣神は大サタンへと一斉砲撃を浴びせ、大サタンはたまらず退散。サタンの柱に囚われていた子供たちは無事に元に戻り、バンドーラは苦悶とともに撤収し、地球は最大の危機を乗り越えるのであった!
 そしてゲキとブライはがっちりを握手をかわし、ここに、愛・希望・知恵・勇気・力、そして正義を胸に宿した、究極のジュウレンジャーもまた誕生したのだった!
 後半戦開幕、強化展開に合わせて、ジュウレンジャーと守護獣たちの関係性は、ステップアップも含めて綺麗にまとまり、獣帝そして究極大獣神は、割と納得殿高い強化合体ロボとなりました。『ターボ』『ファイブ』と、要塞メカ(戦隊基地)との合体例はありました、今後も諸作に登場する移動要塞形式の全合体は、今作がはしりになるのでしょうか。
 あまり役に立たなかった獣戦車ダイノタンカーはつまり、究極大獣神の物凄く弱体化した形態だったのだな、と納得しつつ、次回――知恵の戦士こと若頭補佐ゴウシ、凶弾に倒れる?!

もはや夏の読書メモ

刺さったり刺さらなかったり

◆『何の印象もない女』原田宗典
 若い頃に読んだ『こんなものを買った』というエッセイが物凄く好きで、それ一作で私の中で不動の地位を得ている作家なのですが……最近ちょっとTwitterで話題に触れて、ふと小説作品を手に取ってみたら、これが結構面白かった短編(掌編)集。
 特に、ある男が商店街の福引きで当てたクーポンで、何もかもが中途半端な“中途半端な街”へと、ほぼ一泊二日の旅行に出かける、「中途半端な街」が傑作。他には「無意味の季節」が面白く、どうもこの作者の、ナンセンス寄りの笑いがツボに来る模様。

◆『人の短篇集』(〃)
 ありふれた人々の、人生のある一場面を切り取った掌編……といった感じで、こちらは全く、ピンと来ず。
 この作者の本を読むなら、個人的には、笑いに寄せたものを探すのがよさそう。

◆『神狩り』山田正紀
 情報工学の若き天才・島津圭助は、とある遺跡で発見された古代文字の調査中に、落盤事故に遭って九死に一生を得る。その事故がきっかけで大学での立場を失った島津は、独力で文字の解読を進める内に、それが人類とは違う論理レベルの存在が扱う言葉ではないか、という推測に辿り着くのだが――。
 著者の代表作にして、日本SFに名を残す傑作……と言われる作品ですが、どうもピンと来ず。
 なにぶんおよそ45年前の作品なので、作品の基本コンセプト――超越的な存在の実在と、それに立ち向かおうとする者達――が、普遍的を通り越して、様々なジャンルで使い倒されている為に当時あったであろう衝撃が感じられない、といった要因もありそうですが……タイトルは耳にする作品だけに、読む前にハードル上げ過ぎたところもあったかも。

◆『亜愛一郎の逃亡』泡坂妻夫
 <亜愛一郎>シリーズ3作目にして完結編。おお、と思うような作品はあまりありませんでしたが、「歯痛の思い出」「双頭の蛸」は、構成に一工夫があって面白かったです。後、今読むとそれほど驚きはないけれど、ある定番アイデアの先駆け的作品、みたいなものも入っていたのかもしれません(実際どうだったのかはわかりませんが)。
 シリーズとしては、二作目『転倒』の、「藁の猫」が傑作でした。1970~80年代初頭の発表作品と考えると、だいぶ読みやすかったですが、時々、妙に“昭和の下品さ”がしつこくなるのは、時代でありましょうか。