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「策ならある。――力尽くだ」

『機界戦隊ゼンカイジャー』感想・第36話

◆第36カイ!「ビックリどっきり大ユーカイ!」◆ (監督:加藤弘之 脚本:香村純子)
 「気付けなかったぁ……! 不覚~!」
 ガオーン、介人への愛の深さで痛恨の敗北……!
 介人たちはゾックスにハカイザーの正体が五色田功であったと事情を説明。身柄の確保に協力を取り付けているとトジテンドが出現し、商店街に駆け付けたゼンカイジャーが目にしたものは……
 「あー、ビックリした」
 あらゆるものをビックリ箱に変えてしまうビックリバコワルドの能力と、あっさりとそれを受け入れてしまった人々の姿だった。
 アース-45人の順応力の高さに完敗した悲しいワルド怪人は、せめてゼンカイジャーを倒す、と不意打ちでビックリビームを放つと、ビックリ箱と化したギアトリンガーの蓋が閉まらなくなってしまい、その隙にクダックをけしかけて逃走。
 何やらひらめキングして別行動を取っていた金がその退路を塞ぐとゴセイナイト先輩にレボリューションするが、何故か断罪ナイトダイナミックせずに、ライオンヘッド状態でびっくり箱を拉致して姿を消してしまう……。
 一方トジテンドでは、ハカイザーの正体判明によりイジルデの論文盗用がボッコワウス様の知るところとなり、部下に嘘をつかれていた事に苛立つ壁王様による、かつてなく激しいトントン相撲が行われていたが、まあ別に、誰が特許権を持っていようが、トジテンド的にはどうでも良かったので、寄り切りでイジルデの勝ち。
 ラボでは充電&再洗脳中のハカイザーをステイシーが見つめ……
 ――「組むも何も、俺たち最初っからチームじゃないか!」
 やはり完全に、あの言葉が致命的な一撃となって、心の隙間にちゃぶ台と湯飲みとマンガ本を並べられていた。
 だがその一方で、介人の父親=息子、を探すヤツデの言葉も胸に去来し……どうして君はそんなに辛い立場なんだ!
 介人も介人でだいぶ辛い境遇の筈なのですが、いちいちリアクションが深刻な為、どうしてもステイシーの方が突き刺さってきます(笑)
 カラフルに戻った介人たちはゾックスの行動に首をひねっていたが、人質に取ってハカイザーを捕獲しようとしているのでは、とブルーンがひらめキング。
 「「「「「ええ?!」」」」」
 「でも、やりそう……あの人は、ハチャメチャやりそう!」
 基本アウトローな界賊一座は勿論その期待に応えて縛り上げたビックリ箱を天井から吊るしており……「ヒーローと人質」といえば、敵組織の幹部二人を人質に取り、もう一人の幹部を相手に「動けば仲間の命はない!!」と言い放つ仮面ライダー1号(『仮面ライダーストロンガー』)が、忘れられないインパクトです。
 「介人、こういうの、嫌がりそうだけどな」
 「だからこっちで勝手にやってんだ」
 泥をかぶるのは俺の仕事、あいつは綺麗なままでいい……とゾックスは本日も後方彼氏全開で、あまりにも適切すぎて他の表現が思いつかなくて悔しいです(笑)
 なお五色田介人さんは、知り合ったばかりのキカイノイドに銃を渡して、「友達の証明としてあいつら撃ってよ?」と同族殺しを要求した過去があるので、ゾックスには、そんな介人も見てほしかった。
 「駄目だよそんなの!」
 それはそれとして、卑怯、駄目、絶対。戸隠流に知られたら消されちゃう、と介人はゾックスの人質作戦(推定)に断固反対。
 「とはいえ、相手はトジテンドだ。別に地下3000mの秘密施設に監禁して鉄板の上で正座させながら質問に口を噤む度にサラダ油と卵で溶いた小麦粉を頭から注いでも構わねぇだろ」
 ……じゃなかった、
 「今はまだビックリするだけで済んでるが、ぶっちゃけこの先どうなるか……」
 と、介人の線引きとは別の角度から、かつて牛乳で文明を滅ぼそうとしたワルド怪人には油断大敵、と動く理由付けを補強してくるのが鮮やか。
 かくしてゾックスを止めるべく介人たちがカラフルを飛び出した頃、囚われのビックリ箱の元に現れたのは、ハカイザー……ではなく、バラシタラ。
 「ハカイザーを狙うのは、ゼンカイザーだと思ったが、貴様等が引っかかるとはな」
 バラシタラの一声でビックリ箱がフェイスチェンジして闇の道化師に豹変すると、監禁場所にしていた倉庫内部がトラップハウスに様変わりし、わざと弱腰のワルド怪人を送り出す事で罠を仕掛けるバラシタラ、相変わらず、戦場では意外と策士。
 ……何故その洞察力が、日常生活では働かないのか。
 倉庫からの脱出中に珍しく直接打撃を受けたフリント(弟たちを助けようとしての結果なのが細かく巧い)が、バラシタラミサイルで崩れた瓦礫の下敷きになる危機に陥り、ゾックスもビックリ光線によりギア舵輪の「蓋がしまんねぇ」事で変身不能の大ピンチ。
 罠を仕掛けたつもりが逆に罠にはまり、卑怯な手段は、より卑怯な手段によって覆されるしっぺ返しに見舞われるのが、実に手堅い話運びです。
 ビックリ箱ワルドの覚醒と共に、市街地も凶悪化したビックリトラップにより大混乱に陥っており、人命救助に時間を取られていた介人たちの元へリッキーが応援を求め、5人は苦戦するゾックスの元へ。
 「チェンジは出来ないビックリバコ」
 「出来るよ。――仲間が居ればね」
 前回のダイヤと同じ路線といえますが、使い方次第で地味に有効だった強制ビックリ箱の効果に勝ち誇るワルド怪人に対し、円陣を組んだ介人たちは、変身者がギアをグルグル回している間、左隣に立った者が蓋を抑える力技で次々とチェンジ全開し、見たかこれが(指先の)筋肉の力だ!
 思わず目が点になる身も蓋もない解決法でしたが、変身アイテムのギミックを活用しながら仲間の存在の大きさを描き、一人で戦おうとするゾックスには思いつかない解決手段としてゼンカイとツーカイの間に未だあった溝さえも浮き上がらせる、驚天動地のアクロバット
 発想としては実に馬鹿馬鹿しい部類なのですが、その馬鹿馬鹿しさが劇中ギミックと連動しながら物語の中で大切な意味を与えられているのが、大変素晴らしいシーンでした。
 今回はやらかしたと思っているようで(フリントを心配しているのもあるでしょうが)、やや気まずげなゾックスも白に蓋を押さえられながらグルグル回すと意地でも踊り、改めての揃い踏みから戦闘開始。
 毎度のことながら一連のあれこれをじっと見ているバラシタラ、多分に話の都合ではありますが、割とこう、当たり前の戦いに飽きてしまったような部分が見え隠れして、意外とジニス様系かもしれないなと(笑)
 「ふん! 全く面白い奴らである!」
 キカイノイド4人はゴーゴーファイブ先輩を憑依させるとフリント救出に向かい、正攻法の使い方で絶対そこに辿り着く!
 一方、充電と再洗脳の完了したハカイザーは、
 「は?! この気配は!」
 と、イジルデの話そっちのけでラボを飛び出すと、部署間の対立を無視してビックリ箱ワルドを守る為にアース-45に降り立ち、参戦して乱戦。
 「誰の配下とか関係ない。俺はワルドを、守るんだーーー! とーう!」
 行動原理の第一は「味方を守る」ながら、武器を打ち合わせながら「ははは、楽しいな」、不意打ちをガードする格好いい動きから「みんな居るねー」とにこやかに手を振るなど、快楽的な戦闘強の一面を持つハカイザーですが、基本的な行動原理はイジルデの洗脳プログラムだと思うと、快楽主義(の余り、明らかに任務を忘れている事もある)には功博士の影響が出ている気がしてなりません(笑)
 決して無機質一辺倒ではなく、どこか歯車のズレた空虚な感情を振り回す姿に、介人父がこうなってしまう恐ろしさと同時に、プログラムと功人格の混合による揺らぎも見えて、正体が明確になった事により、むしろ「ハカイザー」というキャラクターとしては面白くなってきた感触。
 乱戦は、ビックリ箱vs赤黄桃青・バラシタラvs金・ハカイザーvs白、のマッチアップとなり、セッちゃんのアドバイスで充電切れを狙うゼンカイザー。
 「父ちゃん、目ぇ覚ましてよ!」
 「俺の名は父ちゃんじゃない。ハカイザーだ!」
 そういえば今頃気付きましたが、「とぅ!」には、超有名ヒーローのオマージュと共に、「父(とう)」もかかっていたのですね……鬼だ!
 「あいつは……ようやく手に入れた僕の仲間だ……。…………すまない、ヤツデ」
 戦いを物陰から見つめていたステイシーは、大事に持っていたカラフルおやつ券を握り潰す事を「選択」し、いったい誰のアイデアだったのか、おかし券の裏側に「いつでも来てね!!」と書く事を思いついた人に、現時点での今作における人の心が無いで賞を贈呈したいと思います。
 (役者さんの発案だった場合、まさかの榊原郁恵さんが鬼という事に! ……いやその場合は、嬉々としてそれを活用する演出陣がきっと悪い)
 「――暗黒チェンジ」
 ステイシーザーが飛び出したところから流れ出すBGMが、雰囲気にマッチして大変秀逸。
 「ステイシー!」
 「ハカイザーは渡さない!」
 「悪いけど、譲れない!」
 火花を散らす両者に取り残され、いつの間にかヒロインと化すハカイザー。
 「いやいや、あ、うん…………渡せとか譲れとかやめてくれぇっ。俺の仲間は……俺が、自分で決めるーー! とぅ!」
 そして、プログラムと功人格の揺らぎの中に「ハカイザー」人格が形成されつつあるのではないか、と新たな鉱脈に期待を持たせ、どう生きるかを決めるのは、自分自身だ!(毎度お馴染みJPさん)
 「……自分で決めるなら、やっぱり、本当の父ちゃんに戻ってからだ!」
 「黙れ! おまえばかりなんでも手に入れさせてたまるか!」
 ハカイザーの手助けを受けた紫が放った流星ミサイルを受けながらも、雄々しく立ち上がるスーパーゼンカイザーの姿には介人の強い意思が窺えて格好良かったですが、ここでさらっと「功の選択」なら、それがどんなものでも尊重する意思を見せるのが、介人の介人らしいところ(その上で許せないなら、対決する覚悟もあるのかはまださておき)。
 一方のステイシーは大きく道を踏み外し始めましたが、ステイシー視点では、「母親は介人のところに戻っている筈」なので、これぐらいいじゃないか(良くはないのですが)といった気持ちがやさぐれ具合に拍車をかけているのが想像され、案の定、マジーヌ偽装問題も、爆発に向けて地下で着々と成長していきます。
 その間に全力全開キャノンでビックリ箱は爆殺され、射撃を任されたブルーンの上半身が、反動で吹っ飛んだ(笑)
 それを見た紫とハカイザーは撤退し、なんとしてもハカイザーに余計な戦いをさせまいとする紫の姿が完全に、欠落した愛情を求める子供のそれになっていますが、今回ステイシーは、己の欲望の為に誰かのものを奪おうとする事で明確な「悪」の道に踏み込んでおり(イジルデの盗用判明と重ねたのも、意図を感じます)、先行きに黄信号。
 まあ基本的に悪役ポジションとしては、ここからどう転んでもおいしいルートが山ほど広がっていますが。
 金を叩きのめしていたバラシタラも帰還すると巨大ビックリ箱にはゼンカイジュウオーが立ち向かい、恐らくコピーワルド回の映像を流用して省エネを図りつつ、乱入したマジブルが寝起きドッキリマジックで隙を作り出し、前回とは打って変わって、今回はサブタイトルを拾い尽くしました(笑)
 介人とゾックスは作戦方針の違いで揉めるが、最終的にはゾックスが折れ……
 「……わかったよ。手遅れになっても知らねぇからな」
 「手遅れにはしない! 絶対助ける。――今日みたいに」
 ここで単純に介人のヒーロー的主張が押し通されるのではなく、フリントを助けた事が効くのが鮮やかで、介人の力強い笑顔に、ゾックスは一定の納得をしてカラフルを辞する事に。
 「バレちゃったらしゃあねぇな」
 「この件は介人のやり方に付き合うしかないか」
 「……ま、でも介人のそういうとこが面白いんだけどな」
 「仲間が出来るってのは……面倒くせぇな」
 呟くゾックスの口の端には笑みが浮かび、自己の価値観を捨ててしまうわけではないが、他人の価値観と向き合い、時に受け入れ時に歩み寄る姿を「変化」として描くのは、非常に香村さんらしい組み立て。
 物語としては、界賊一座がSDトピアを開放したらさらば~~いというわけには行かないので、「仲間」認識の強化に加え、フリントを傷付けたバラシタラとツーカイザーのマッチアップなど、諸々の因縁強化を図った感じ。アバンタイトルでSDトジルギアの名前を出しておくのも手堅いのに加え、今回、“フリントを直接助けたのがキカイノイド組”なのは、ゾックスに対して有効なカードになったと思われ、ステイシーが冥府魔道へ向けて小さくない一歩を踏み出す一方で、ゼンカイ組と界賊一座の関係を強化再構築する目配りの利いたエピソードでした。
 予告の内容からてっきり、一山越えた後のお笑い回かと思っていたらそんな事はなく、バラエティ豊かな崩しを入れつつエピソードのツボを的確に押さえ、香村脚本と加藤演出の相性の良さが光ります。
 次回――侵略する大根おろしは、今作では間違いなく油断ならない予感。そして、やりそうでここまでやっていなかったマジーヌ×フリント回で、突然の荒川さんの可能性に一応身構えておきたいと思います(笑)

11/24付けレス

 本日は、映画『牙狼GARO> -月虹ノ旅人-』感想を書きました。

ダイヤモンドは砕けるかい

◆つがなさん
 >ジュラン達の様子を見るにダイヤダイヤとしか言えなくなった者同士では普通に意思疎通可能っぽいので意味なさそうですね。
面白くて普通に見ていましたが、冷静に考えると、大変不思議ですね……(笑)
 >そうなると、冒頭でやってたみたいに飲食物や機械類をダイヤ化する物理的な侵略手段しか。
的確なポイントを突ければそれなりの効果を発揮できそうですが、ワルド怪人にはその知力が無い、という(笑)
 >本当にステイシーに対して心が無い展開の連続で、(良い意味で)急遽登場したキャラとは思えないシナリオになっていますね。
一応メインには介人と両親の問題を持ってきているとはいえ、そのどちらとも関わり、本人の行く手に問題山積で、実質的にストーリーラインの主軸を担っているのは今ステイシーですものね。ここは非常に、楽しみなところです。

◆あきさん
 >あの御年でも無理なくさらっと着こなして見せていて、ナイスキャスティングだなとつくづく。
榊原郁恵さんはホント、締めるところはきちっと締めてくれた上で『ゼンカイ』世界のぶっ飛んだ明るさにぴたっとはまり、なおかつ奇抜な演出にも対応してくれると、素晴らしいキャスティングになりましたね。
 >再び闇に突き落とした後に自分が友達になるという光しか見ていない、みたいな狂気を感じてしまいます(笑)。
そうでした、そういえば介人は、狂気寄りの主人公だったな、と思い出しました(笑)
 >結局、介人のものでない自分だけの大事な物が欲しいならトジテンドを離れて世界を広げるしかなく
ステイシーの問題は、これに気付けるのかどうか、というところは一つあるんでしょうね……「そうか……僕が本当に欲しかったものは……」は、確率的に生死半々といった印象で、ますます油断できませんが!
 >「なんじゃこりゃあああ!」「勝手に名前使うなら呼んでくれよ!」と突っ込むと同時に出演交渉されておられました(笑)。
これてっきり、次回の怪人の声にキャスティングされているのかな……と思っていたら、全くそんな事はありませんでしたね(笑)
 >文字派の赤青、イラスト派の黄桃、簡潔な赤黄、こちゃこちゃ面倒臭そうな青桃
今回、台詞をダイヤに固定しながらも、細かい芝居や演出でキカイノイド4人の個性を引き立ててくれたのは、非常に良かったですね。
 >拒絶されたらとドキドキしながら勇気出して頑張ったことが、相手には何でもないことだった思春期のあるある、みたいな。
ステイシーは端々で、心情が現実にリンクする形で刺さってくるのがいいですよね……頑張って世界を広げた直後、スタッフによる悪鬼羅刹の所業で地獄に落とされましたが、なんとか、好転のきざしになってほしいものです。
 >他の方も仰っていますが鬼畜な人選
それを乗り越えていくのがゼンカイジャーとは思いたいところですが、これを採用した人達は本当に人の心が無いですね……。00年代以降で父子の物語というと、ウルザードはやはり印象強いですが、印象強いだけに『マジ』関連を外しているところはあるのかもですね。
 >ご自身が手掛けた戦士ではありますが、こうやって膨大な戦隊知識を必要に応じて笑いと説得力込みで使いこなせてしまうのも、
 >香村さんがこれだけ連投されている一因なのかもですね。
メインライター作品という事で気楽に使いやすい部分はあったのでしょうが、ギアでも濃かったですねサワオ(笑) ホントまあ、香村さんは余人に代えがたい存在でありますよね……。

狼、月に託す願い

牙狼GARO> -月虹ノ旅人-』感想

◆『牙狼GARO> -月虹ノ旅人-』◆ (監督・脚本:雨宮慶太
 2019年公開の劇場版。
 シリーズの履修は、第1作とそのTVスペシャル『白夜の魔獣』、その5年後の劇場版『牙狼GARO>~RED REQUIEM~』、そして今作の主役である雷牙が主人公のシリーズを1エピソード見ているだけなので、“『牙狼』のイメージ”は、第1作に基づきます。また、雷牙周辺の人間関係に関しては把握していない旨、ご了承下さい。

 そんなわけで……コート・肌色・そして足技!
 冒頭から『牙狼』の性癖全開で、息子さんに迫る女性型ホラーの魔手!
 若かりし頃、お父さんは言いました。
 「俺の苦手な女のホラーか」
 若かりし頃、お父さんは言われました。
 「あの人、いつもあんなに無愛想なの?」
 「どうかクールと、言ってあげてください」
 「貴様の因果、俺が断ち切る!」
 若き黄金騎士・冴島雷牙は、ガロの鎧と共に一気の馬を召喚すると見事にサソリホラーを調伏するが、その直後、謎の死人に腰抱きつきのヒロインムーヴから膨大な邪気を注ぎ込まれ、鎧の浄化が必要になってしまう。
 父・鋼牙は、異郷へと消えた(またも変態の魔手なのか?!)母・カオルを探し、幼い雷牙に「必ず戻る。信じて待ってろ」と言葉を残したまま未だ旅より戻らず、両親との関係において見えない傷を抱える雷牙の心情が、物語の縦軸。
 冴島邸には忠実なる執事ゴンザが未だ健在で、食堂にはカオルのあの絵がかかっているのが、さりげなく嬉しい。
 雷牙は、同居人のマユリ(会話の断片から推測するに、雷牙のパートナーにして元魔戒法師だが現在は力を失っており、霊的効能を持つ植物を育てて暮らしている感じ)の願いで、失踪直後のまま保存されているとおぼしきカオルのアトリエを訪れ、鋼牙-雷牙の関係を大河-鋼牙と重ねて「父子(家族)」という『牙狼』のコアテーマを描くと同時に、マユリとカオルを重ねて「戦士とそれを支える者」の関係を描く構造。
 アトリエからの帰路、邪気を浴びた影響により苦しみだした雷牙はなんとかそれを押さえ込むが、急ぎ鎧のクリーニングが必要だと浄化の為に英霊の塔へ向かおうとするその前に現れる……変態だーーー!!
 真っ黒なテカテカコートに白鳥マスクという、非の打ち所のない変態だーーー!!
 さすが、シリーズ一つの集大成と思われる劇場版、変態のクオリティも非常に高く、雷牙を剣技で制する変態に邪気を注ぎ込まれたマユリは操られるように姿を消してしまい、変態白鳥仮面も大ジャンプで撤収。
 マユリの後を追った雷牙はアカモクに向かうという黒の列車に乗り込むと、奇妙な空間と奇妙な乗客が猥雑と幻想を織り成す列車の中で、バデルと名乗る少年と知り合いになり、わかりやすく銀河魔戒鉄道の夜。
 先頭車両に乗ったと思われるマユリを目指し、強固な結界に守られた列車を最後尾から一つ一つ前へと進んでいく雷牙と少年だが……無賃乗車で、逮捕。
 バルチャス要素を入れて牢獄から脱出し、結果的にショートカットに成功した二人を乗せた列車は幻想的な映像で走り続け、制止を振り切り、強い決意で次の車輌へと向かっていく雷牙を見送った少年から連絡を受けたのは……満を持して登場の父、冴島鋼牙。
 一方、先へ進んだ鋼牙を待ち受けていたのは、インモラルな雰囲気漂う仮面舞踏会、そして、変態だーーー!!
 「目的はなんだ?!」
 「目的? そんなものは無い」
 「なに?」
 「おまえがこの女を愛するならば、俺はこの女を憎む」
 「なにを言っている?」
 「そしておまえが生きようとするなら、俺はおまえを死へと誘う!」
 両者は激しく剣を打ち合わせ、父に捨てられたと心中深くに憎しみを抱いているのではないか? と精神的な揺さぶりをかけられる雷牙だが、憎いのは父ではなく「必ず戻る」の言葉を信じ切れない己の心の弱さだ、とそれに打ち勝つと、変態白鳥仮面を一刀両断。
 同時に列車が停止すると、雷牙は駅舎のホームに立っている自分に気付き、そこに現れた父・鋼牙から、邪気に支配されたガロの中に取り込まれ、死の淵を彷徨っている事を告げられる。
 実際にはマユリは変態白鳥仮面にさらわれておらず、全てはアトリエを出た直後に苦しみだすと、鎧ごとその場で石化してしまった雷牙の魂が現世と幽世の狭間で見ていた幻影だったのだ。
 同僚の魔戒騎士クロウ(どこかで見覚えがある顔だな……と思って結局EDクレジットまでわからなかったのですが、時雨のアニキでした)によって鎧の中に閉じ込められていた肉体を解放された雷牙は、鋼牙によって魂を現世に送り返され、なんとか帰還。
 だが、浄化中のガロの鎧を媒介に放出された邪気が英霊の塔の上層を吹き飛ばし、親方、空からなんか豪邸が!
 「ここで私は生まれ変わる。――金色の光を、糧にな!」
 雷牙を救うべく、魂だけでうつつの狭間に飛び込んでいた鋼牙を弾き出した変態白鳥仮面が雄々しく甦ると、時を止めて死の世界をもたらす魚を冴島邸へと向けて放ち、ゴンザのガード役を買って出たクロウをその場に残た雷牙とマユリは、ワープゲートを使って英霊の塔へと急ぐ!
 主人公カップルが出来上がっているところから始まって、ヒロインを追いかける構造の前半は、どうしても人間関係への思い入れ不足からノりにくかったのですが、存在だけ匂わされてハッキリ出てこないのではと不安があった鋼牙の登場に続き、心中のネガ面などではなく白鳥仮面が独立した悪役としてしっかり立ち上がってきたこの辺りから、グッと面白さが加速。
 白鳥屋敷により英霊の塔を制圧した白鳥仮面は、迫り来る英霊たちを次々と屠るとその力を吸収していくが、そこにメインテーマと共に切り込んでくるのは、正真正銘の冴島鋼牙!
 これは文句なく盛り上がり、両者が刃をぶつけ火花を散らしていた頃、マユリに見送られた雷牙は、英霊の塔から白鳥屋敷を目指す。
 「必ず戻る。信じて待ってろ」
 が綺麗に――父の言葉を信じ抜く強さを得たからこそ、愛する者に同じ言葉を告げられる――決まり、息子さんが一皮剥けた一方、お父さんは、14年後も外壁を滑り落ちていた。
 冴島邸で一人頑張っていたクロウは、マユリの花が邪気を吹き飛ばしたチャンスを掴み、カラス天狗のような鎧をまとって魚クリーチャーに勝利。雷牙を想って丹念に育てられたマユリの花が邪悪を退ける力を目の当たりにしたゴンザは、その花を英霊の塔に届けるようにとクロウを説得し、魔戒騎士たちの戦いの中で、そこに浮かぶ人の想いを常人として酌み取って貴重なパスを繋ぐ、愛されゴンザ。
 またここで、「カオルの絵」と「マユリの花」が、戦いを支え未来を繋いでいくものとして重ねられ、白い花を手に英霊の塔へと飛び立つ天狗特急便。
 白鳥屋敷の玉座でパワーを溜める変態白鳥仮面……の正体は、仮面ライダーナイト!
 そして、死人の体を渡り歩いた末に、その元魔戒騎士の肉体をゲートにして現世に顕現したのは、きょ、京本政樹ぃぃぃ!
 考えてみれば因縁の敵としてはこれ以上なく納得なのですが、ここで京本さんの登場は驚きました。
 塔の上層を塞ぐ邪気の歪みに行く手を阻まれていた雷牙は、なにやら異貌の神的存在と交渉。時空の狭間を彷徨う旅人となる代償を受け入れる事により、発動した契約に基づき白鳥屋敷に辿り着くと、雷牙の誕生を希望として復活したと語るバラ崎先生と父子共闘バトルがスタート。
 一方、天狗特急便は英霊の塔まで辿り着くと、魚に追い詰められていたマユリの危機を救い、子犬系後輩気質を感じさせるクロウ、当初は主戦場から離れたところで一応の出番を与えられるぐらいの扱いなのかなと思っていたら、飛行系鎧のインパクトに加え、主戦場にもきっちり参加したこの辺りから、段々と格好良く見えるようになってきました。
 続々と決戦の場に集結していく魔戒騎士だが、バラ崎の生み出す死の領域は拡大を続け、屋敷の絵画の中から正統派のホラー軍団が出現するのが、嬉しいサービス精神。大量のホラーに追い詰められる父子だが、そこに列車の少年バデルが駆け付けるとホラー軍団をまとめて吹き飛ばし、なんとその正体は、鋼牙の父・冴島大河の大盤振る舞い!
 「バデル」とは旧魔戒語で「父」の意味……は、本編のセルフオマージュネタと思われますが、ここに三世代の黄金騎士継承者が集い、風にたなびく純白のロングコートと真っ黒なラバースーツの男が3人並ぶと、画面が……濃い(笑)
 親子三代とバラ崎先生の死闘が開始される一方、回想シーンの力を借りて屋敷の結界を破壊するクロウだが、バラ崎先生のスタンド攻撃を受けて撃墜され、時間停止によりリタイア。
 「時は満ちた。今ガロの系譜をここに断ち切る!」
 結界は消え去ったものの死の領域の拡大は止まらない中、絶体絶命となったマユリは謎の少年に助けられて英霊の塔内部に引き入れられるが、親子三代の攻撃を凌ぎきったバラ崎は暗黒騎士と化すと、かつて最強と呼ばれた魔戒騎士オウガの鎧を召喚。金色の光――英霊たちの魂を喰らった事で得た力によりオウガの鎧と融合する事で、究極の鎧として新生する!
 「貴様等に鎧は無い。終わりだ!」
 4本の剣が交錯する一方、塔の中に引き入れられたマユリはガロの英霊と接触。その手の中に残されていた希望は、たったひとひらだけだったが、幻像として現れたカオルの手がそれに寄り添い……フィルターの効果などもあるのでしょうが、ここで出てきたカオルが第一作のイメージを明確に感じさせる姿だったのは現実世界で約15年に渡る物語の地続き感を強めて良かったです。
 ……まあ、かつての鋼牙脳内にしばしば現れた白ワンピース概念カオルが『牙狼』世界に拡大して、概念女神化している感じもありますが(笑)
 雷牙を見守り、愛する者たちの想いが可憐な白い花を甦らせると、雷牙の元に届いた花は黄金の鎧となり、ガロ、復活!
 ……と思ったらバラオウガの攻撃を受けてすぐに解除されてしまいましたが、そこから、祖父と父が片腕ずつにガントレットを身につけて、オウガの攻撃を防ぐのが痺れる演出。
 再び立ち上がり、集った3世代の黄金騎士ガロが、鎧を次々と部分装着しながら怒濤の連続攻撃を浴びせ、ここからは、魔戒騎士のターンだ!
 3世代合体ゴールデン曲芸キックを受けてもなお健在のオウガだが、今度は大河が鎧を完全装着し、まさかのガロジェットストリームアタック(笑)
 魂の継承がこれ以上なく直球な映像で描かれ、大ガロ、鋼ガロ、雷ガロ、の三連撃を受け、遂に砕けるオウガの鎧。
 「馬鹿な……! たった一つの鎧で……」
 「一つではない!!」
 「この鎧には、沢山の人の想いが込められている!」
 「そして共にに戦った、盟友の姿を刻んできた!」
 「この鎧は、その想い、姿を、希望として、未来へ運ぶ鎧なのだ!」
 シリーズの歴代キャラクターの姿を背負いながら雷牙たちはオウガに啖呵を叩きつけ、黄金騎士ガロとは――を通して、ヒーローとは何か?に至るのが、エログロバイオレンスを売りの一つとして押し出しつつも、その根源にヒーローフィクションの魂を据える、牙狼>の真骨頂。
 またここに至って、「英霊」達とは、劇中における歴代ガロの継承者であると共に、メタ的に、数多のヒーローフィクションにおける「英雄」達である、との解釈も可能となり、京本政樹の外見以外は自らが何者であるのかを既に喪失しているバラ崎が、人の世を護るヒーロー達が倒すべき大いなる概念悪、として成立するのも、お見事。
 三世代ガロ共演にサービス以上の物語意味を鮮やかに込め、シリーズ一つの集大成として、歴代作品を見ていれば見ているほど感動の増す構造ではあるかと思いますが、視聴したシリーズ作品は少ないながら、今回この映画を見て良かった、と思えるシーンでした。
 『牙狼』ど真ん中をやりつつ、真っ正面からのヒーロー賛歌になっているのが、大変ツボ。
 「おのれぇ……!」
 悪あがきを見せるバラオウガだが、もはや黄金騎士ガロの敵ではなく、メインテーマのアレンジをバックに炸裂する金狼感謝三世代スペシャルによって浄化されると、世界は輝きを取り戻すのであった……。
 大河は英霊の世界へと戻っていき、父と子、二人の狼は再会を約して別れ、邪神的存在の口より、鋼牙の長年の家出は通りすがりの魔戒騎士に目覚めてしまったのではなく、契約の先取りにより、雷牙に代わって時空の狭間の旅人となっていた事が原因と判明。

 ――「夜の月が虹を放つ時、愛する旅人が愛する者の元へと帰ってくる。昔からの言い伝えだ。月の虹が輝く時、俺はカオルと共に帰ってくる。雷牙、必ず戻る。信じて待ってろ」

 かくして、未来の息子を救う為に鋼牙は月虹の旅人となり、父の深い愛を知った雷牙はマユリの元へ帰還すると、ただ父を待っているだけではなく、父を迎えに行く旅へ共に行こうと告げる。
 「で、いつ旅立つんだ?」
 「……そうだな……帰ったら……すぐ」
 の、ちょっととぼけた感じが妙にいい味を出し、実質的プロポーズ(?)が、実に気持ちのいい場面に。
 そして月虹の蝶は旅人を導き……人生という名の、旅は未来へと繋がっていく!

 当初は、2時間の映画だし、感想はさらっとめにしよう……とメモ控えめにしていたのが気がつくとこのぐらいの物量になる面白さ(謎基準)で、お薦めして下さったガチグリーンさん、ありがとうございました。
 シリーズ一つの集大成として極めて濃厚な『牙狼』ぶりで、大変面白かったです。
 特に三世代揃い踏みを、英霊たちに見守られながら継承されていく黄金騎士とは何か、という形で『牙狼』ならではの説得力を乗せたヒーロー論に繋げて物語に落とし込んだのは、お見事でした。
 時代に輝け、牙狼