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秘密兵器D80号

ウルトラマン80』感想・第47話

◆第47話「魔のグローブ 落とし物にご用心!!」◆ (監督:東條昭平 脚本:石堂淑朗
 少年野球の試合でエラーをした少年がグローブに八つ当たりすると、そこに謎の怪光線が宿り、不気味なグローブ型宇宙生物に!
 「おまえ、グローブのくせに生意気だぞ!」
 平気でそれと追いかけっこをする少年がだいぶ素っ頓狂な事になり、紫外線の異常を調査中の矢的とユリ子が怪グローブを発見するも翻弄され、どこへ行きたいのかわからない感じはちょっと面白い(笑)
 とりあえず撃ってみる矢的だが通用せず、空を飛び回りながら紫外線を吸収していく怪物グローブは姿を消し、紫外線の異常現象は環境問題が影響しているのかも、とユリ子がUGMに講義。今回、冒頭からユリ子の出番が多めなのですが、気がつくとUGMのレーダーなどをいじっており、謎の位置づけです(城野隊員の殉職後に、配置転換されたという解釈は可能な範囲でありますが)。
 キャップは怪物グローブの捜索を命じ、夜明けと共に活動再開する可能性が高いのに、どうして、徹夜でパトロールを命令……。
 矢的は会議中に口を滑らせた涼子をウルトラ説教し、矢的がウルトラ族と地球人の距離感を説く為に、涼子が毎度なにかやらかすパターンになっていますが、正直、今頃になってそのテーマを持ち込む事そのものに困惑するので、涼子が無駄に可哀想な印象。
 「地球の人間が、変に我々の力をあてにし始めるのが一番怖いんだ」
 最終的に80が事態を解決するのは(メタ的な必然性による)お約束なものの、UGMの側が80を当てにする描写は記憶の限りでは皆無であり、どちらかというと矢的が積極的に変身してきたので、このテーマをやればやる程、矢的の支離滅裂の度合いが手遅れになり、記憶の混濁が手に負えなくなっていき、ユリアンは本当は王女ではなく(矢的が思い込んでいるだけ)、ウルトラの国からやってきた看護士なのでは……。
 そもそも今作の場合、80を登場させる為にUGMがこれといった作戦を工夫する事も許されないまま雑に前座を務めるのが恒例になっているので、そのメタ状況を作り出している当人である矢的に上から目線で言われても、地球人に出来る事は地球人で、という教訓を引き出すのに多大な無理が発生しています(それを従順に聞く生徒役の涼子、というのもあまりよろしくない構造)。
 そしてUGMが無駄なパトロールで消耗した翌朝、日光を浴びたグローブが覚醒。
 市民から引きはがす為に涼子が赤外線を撃ち込むと、興奮した怪グローブはとうとう巨大化してしまい……超、気持ち悪い。
 先に「地球人がウルトラマンをあてにするようになってはいけない」と言わせたので、この怪獣の巨大化については不用意に赤外線を撃ち込んだ「我々の責任だ」と言わせるのですが、その割に80に変身するわけではなく、日没までの丸一日、怪獣が大暴れを繰り広げるので、『80』基準でもだいぶ意味不明な事に。
 日が沈んで紫外線の供給を受けられなくなったグローブ怪獣が姿を消すと、UGMは捜索を再開し、宇宙光線キャッチ能力を発動した涼子が雑に怪獣の居場所を特定。矢的も矢的でウルトラアイを使用し、今度こそ自分たちで責任を取るという事なのかもしれませんが、率直に今作としては無理のあるテーマを挿入した結果、矢的先生の自分ルールぶりが目も当てられない酷さになっていきます。
 どうしても「地球(人)とウルトラマン」のテーマをやりたいなら、「80を母星に連れ帰りたいユリアン」と「地球を守る事にこだわる80」の対比にでもした方が、それに基づく矢的猛のアイデンティティを確立し直しつつ、ウルトラ族としてのしかるべき距離を取りながら地球人と歩んでいこうとする80の姿も描けて、収まりが良かったように思えるのですが……。
 「夜だし街から離れている。君一人を観客に、君の代わりに力一杯戦うよ」
 時空間移動を繰り返して記憶が曖昧になりながらも、それだけは健在な残念スイッチを押した矢的先生は80に変身すると、軽快なBGMに乗せて多彩な蹴りを叩き込み、珍しい主題歌バトルになるのですが……後期OP、物凄く戦闘に合わない(笑)
 グローブ怪獣の柔軟ボディに決定打を与えられない80は、空中で高速回転すると自ら球状になって飛び回る必殺・ウルトラ団子を発動し、興味本位で一時停止してはいけなかった画。
 見た目はともかく威力は高いウルトラ団子の猛攻で優位に立つ80だったが、体当たりを透過されると紫外線攻撃を浴びて危機に陥り、涼子の赤外線による援護を受けると、逃げるグローブ怪獣を追って前期主題歌インストに乗せての空中戦。
 夜明けが近付く中、グローブ怪獣を地面に叩きつけた80は、ウルトラ皿回しからのウルトラ赤外線ビームで大勝利。怪獣は消滅し、矢的と涼子は現場に残されたグローブを拾い、さすがにそれは、少年一家も要らないのではないでしょうかね……。
 最後は少年野球のコーチを買って出た矢的先生が、スポーツマンぶりを誰ともなしにアピールして、ユリちゃん強化キャンペーンかと思ったら、結局涼子が全て持っていったまま、つづく。
 石堂脚本回にしてはUGMメンバーが動作不良を起こしませんでしたが、涼子以外の隊員はどうでもいい空気が急速に作品全体を覆っており、城野隊員は、色々なものの犠牲になったのだ……。
 次回――またしても予告が内容の大半を喋っている気がするのに、その大半が何を言っているのか意味不明の新パターン来た。

人の出逢いは奇跡の光

『魔進戦隊キラメイジャー』感想・最終話(長い)

◆エピソードFINAL「君たちがいて輝いた」◆ (監督:山口恭平 脚本:荒川稔久
 地上にはペチャット人間が徘徊を続け、ど派手に自爆したヨドン皇帝が遂に再生。
 「わたくしにも、何かできないでしょうか!」
 「……姫、今は彼らを信じて、見守るんだ」
 “彼ら”……の中に、しれっと加わっているクランチュラさんの勇姿(笑)
 「奴の唯一の弱点は、邪面の下の顔か!」
 「そこを叩けば、皇帝は再生不能になるらしい。だが……」
 ロレンチーニサーチの結果を共有していない筈のクランチュラさんが、皇帝の弱点についてより詳しい情報を把握しており、知的好奇心から独自の情報網で皇帝について調査していた事が窺えて、基本的に危険人物……(笑) 結果として、前回、多少強引でもロレンチーニサーチで弱点情報を得たのは、土壇場でクランチュラ情報が全て教えてくれる展開を回避する役割に。
 てっきり邪面の破壊に使われるかと思われたデストラストーンは、皇帝撃破の切り札として温存しておきたい事情から邪面攻略に頭を悩ませる事になるが、ここで妙に悪ぶるクランチュラから追加情報。
 「皇帝が自ら邪面を外す時が、一つだけある。……おまえら全員が死んで、その屍を、喰らう時だ! ひひひっ!」
 「ぬぅぅ、ふざけんなぁぁ!」
 「ふざけてなーい! それが、皇帝の流儀らしいんだ!」
 「皇帝の、流儀……ひらめーきーんぐ!!」
 赤が手を高々と掲げ、背後で満足そうに笑みを浮かべるクランチュラ、作り手として必ず何かを閃く筈だという充瑠への信頼感が熱い(笑)
 実質的に打倒皇帝の手段をクランチュラが全部喋ってしまうのはどうかと思ったのですが、終わってみると、これぐらい最終決戦に貢献したら生き残っても良いだろう、という理由付けの一端になっており、前回ラストの流れを受けて、ここで完全にクランチュラが、「キラキラ輝く為に巡り会った僕ら」の一員になった、といえそうです。
 「よーし……やるよ! みんな!」


人が輝く時、そこに奇跡が生まれる――
輝き、それは未来を変える戦士の証
キラメイGo!

 今回は通常通りのOPでちょっと驚きましたが、そうする事で前回OPをスキップして、ラストに持ってくる主題歌をより劇的にしたのかと思うと、改めて見事な見せ方でした。
 「ヨドン皇帝……あなたにとって、ボクは……なんだったのですか?」
 「……弱さだ」
 「弱さ?」
 「我はそもそも澱みに生まれた蛇の化身。大した戦士ではなかった。ある時、我は天啓を受け、最初の邪面を作った。それを被ると……無敵になった気がした」
 再生中の皇帝は、意識の部屋においてヨドンナに自らの出自を語り、雷に打たれてエウレカ!した皇帝にとって邪面とは、無敵の自分になりきる為の一種の暗示装置――いわば、「変装による聖性の獲得」であった事が明らかになり、ここで「無敵になった」のではなく「無敵になった気がした」なのが、非常に丁寧な台詞。
 これにより、ガルザの体色変化や三日月ヘルメットは、ヨドン皇帝による強制的なやつしに基づく人格の転換であったと補強され、「仮面」のより本質的な機能を用いるヨドン軍そのものがネガ《仮面のヒーロー》と位置づけられるのは面白いテーマなのですが、それを掘り下げるルートは選択されずに、皇帝周りの背景設定にまとめられた雰囲気は感じます。
 当初から「イマジネーション」と「ひらめキング」の類似にそこはかとなく『トッキュウジャー』要素を見ていた今作ですが、実際に意識していたのかどうかとは別に、“ごっこ遊びの延長線上としてのヒーロー”を突き詰めていった『トッキュウジャー』と同様、戦隊ヒーローとは何か? の本義と取り組む事で生まれた同調の部分があったのかもしれません。
 ……ところで、ヨドン蛇(クリスタリアという楽園に潜り込んだ悪意にして、再生の象徴か)に閃きを与えた雷は、『カーレンジャー』的な“宇宙の邪悪なエネルギー”な気がしてならないのですが、一歩間違えると、皇帝ではなく、悪のスーパーメディアクリエイターになっていたのでは(笑)


 「閃いたぞ、カーレンジャーを倒す方法を。宇宙の邪悪なエネルギーを浴びたこのわたくしが、必ず、カーレンジャーを倒してみせる。 ふふふふふふふふ、ぬはははははははは……りーっちっちっちっちっちっちっち」

 ……は、まあさておき、
 「そして、倒した相手の屍を喰らうことを重ね、我はより強く、より巨大になった」
 最終回にして発生した皇帝を打ち破る起死回生のチャンスは皇帝の本質と繋げられ、キャラクターの掘り下げをやってくれるならもう少し早めに、とは思うところでありますが、ラスボスの種明かしと直結する要素はどの作品もタイミングの難しいところではあり、突然の逆転手段だけにならなかったのは良かったなと。
 「そんな我の脳内に貴様とシャドンは生まれた。我は気付かぬ内に、最も忌み嫌う仲間を求めたのだ。それはすなわち、我の心が生んだ弱さの象徴。それがある間は、真の強き者ではない」
 他者と触れ合う事で互いによりキラキラ輝くのではなく、あらゆる他者を餌としてたった一人の神になろうとする存在として、ネガキラメイジャーとしての皇帝がもう一押しされ、美人コスプレイヤーの彼女を連れて健さんの映画を見に行きたい青春でした。
 「そうか……ボクが居なくなれば……皇帝は……絶対的な強者に、なるのですね…………良かった」
 玉座へと這っていったヨドンナは、皇帝に向けて笑顔を浮かべながら消滅し、前回見せた「悲しみ」の感情が特に拾われなかったのは残念でしたが、皇帝からの独立ではなく、あくまで皇帝の中身としての最期を迎えた事で、幹部が一人は悪に殉じたのは、バランスとしては納得。
 そしてその消滅が、ヨドンナにとっての“生きてきた意味”になり、闇の継承が果たされるのが、ネガ存在としては凶悪。
 「我は今こそ孤高の存在となった」
 妄想フレンズも、ついつい割と真面目に運営してしまった保険会社も捨て、ヨドンナの邪面が砕け散った皇帝は完全復活すると大量の闇を噴出。再び奇襲攻撃をかけてきたジョーキーを難なく弾き飛ばし、やられ役ですが最終回でジョーキーに移動手段以外の出番があったのは嬉しかったです。
 「ありったけのキラメンタルをぶつけるぞ!!」
 キラメイジンとドリラーは皇帝の邪面に集中攻撃を仕掛け、相棒ロボとしては扱いの悪さに不満の出たキラメイジンですが、最終戦で各自に個別攻撃の見せ場が与えられたのは良かったです。
 だが両ロボの猛攻も皇帝には全く通じず、逆にヨドンデストロイヤーを受けてキラメイジャー全滅?! ……は全てイリュージョンストーンによる幻覚でした、はクランチュラさんの示唆そのままでしたが、ラスボス相手にも丁寧に作戦を解説する事で前回今回と『キラメイ』スタイルとして貫かれ、茶番感がそこまで出なかったのは良かったです。
 キラメイジンは、キラメイジャーの屍(幻覚)を喰らおうと素顔を曝した皇帝に奇襲を仕掛けて邪面を奪い取るとぽいっと放り捨て、幻覚に惑わされている真っ最中の皇帝の隙を突こうと、背後でじっと不意打ちのタイミングを計っている正義の二大ロボは、最終回にして割とさいてーな図でしたが、昔の偉い人は言いました。
 「闇討ちは 戦士のたしなみ メディテーション  姿」
 「我が、魔性の石に幻覚を見せられていただと?!」
 ヨドン皇帝すら完全に騙す石の力は今回も出鱈目ですが、使用した赤のイメージする力の強さゆえとは解釈できますし、皇帝が超常の力によってエウレカしていた事が明かされたので、それをまた摂理を越えた力で討ち果たすのは、トントン、とはいえましょうか(……しかしやはりこの世界には、地上の生命を弄ぶ閃きの神が居るのでは)。
 「おのれぇ……! 我の養分になるだけの虫けらの分際で!」
 「それは違います!」
 ドリラー渾身のキックを顔面に叩き込まれたヨドン皇帝は人間サイズに小型化し……その前にいち早く立ったのは、姫様ぁ!!
 ここで姫様が最前線に飛び出して皇帝と対峙してくれたのは、そうこなくては、と最高に姫様らしくて格好良かったです。そしてこれは、姫様なりの「戦わせる」だけではない「戦う」覚悟であり、今の自分なりに出来る事、であるのが素敵。
 「あの方々は、悪逆非道のあなたに引導を渡す、輝きの戦士たち。煌めきに満ちたそのお顔を、しかと拝みなさい!」
 その後、「余の顔を見忘れたか!」ではなく「こちらにおわす御方をどなたと心得る!」ポジションになりましたが(笑)


「煌めきスパークリング! キラメイレッド!」
「導きシューティング! キラメイイエロー!」
「突撃ライトニング! キラメイグリーン!
「切っ先アンストッパブル! キラメイブルー!」
「手さばきインクレティブル! キラメイピンク!
「貫きシャイニング! キラメイシルバー!」

「「「「「「キラッと参上! カラッと解決!!」」」」」」」
「魔進戦隊!」
「「「「「「キラメイジャー!!」」」」」」

 メットオフ状態の6人はフル名乗りを行い、顔出し&エフェクト無しで見せると、為くんが最初に手をこねこねしているのが凄く謎ですが、普段はなにを意味してましたっけ、あれ……(笑)
 そして、ダンス危うげ系の小夜さんがあの手の動きをちゃんと出来るのかだいぶ不安だったのですが、なんとかなりました。
 素顔を隠し続けてきた皇帝と顔出しの6人を対比する事で、最終回のお約束的な素顔名乗りを、なるべく意味を持って物語の中に取り込もうとした意識は感じられるのですが、名乗り終えると割とふわっとメットONしてしまうので、あまり効果的にはならず。
 省略されるかと思った組み体操も決めたのは、ここでも『キラメイ』らしさを貫き、アップのシーン以外は上手く合成したのか、それとも全員で頑張ったのか……顔出しだと、改めて宝路のポーズのおかしさが際立ちます。
 「これで終わりだ! ヨドン皇帝!!」
 突撃するキラメイジャーだが、皇帝は未だかつてない強さを見せる親衛隊ベチャットを召喚し、最終回でこのタイツ&マント怪人を押し出してくるのも、『キラメイ』総決算らしいというか。
 「負けないで、みなさん……お願い」
 「勝ちますよ、マブシーナ姫」
 姫様が戦況をじっと見守る中、飛んでくる11個のキラメイストーン。
 「ファイヤ、みんな……」
 「負けるわけがなかろー。姫様が引き合わせた、戦士たちじゃー」
 「そしてわたくし達の最高の相棒です!」
 「……マブシーナ、おまえは見てきた筈だ。彼らの煌めきが、どんな困難も乗り越え、未来を輝かせてきた」
 「夢の中に閉じ込められた時だって、乗り切っただろー」
 劇場版のマジックアイテムが最終回に急に出てきて??? は近作の怖いパターンですが、公開時期が公開時期だけにか回避され、こんな戦いもありましたし今映画でやっているよ! は宣伝も兼ねて巧い取り込み方になりました。
 「……そう、そうでした!」
 姫様が明るい声を取り戻すと、逆転のテーマとして主題歌が流れ始め、作戦を組み立てる黄。
 「時雨! 小夜ねぇ! 宝路さん! きついと思うが、このエンペラーガードベチャット退治に専念してくれ!」
 最終回になんて言いづらい名称!
 「「「了解!!」」」
 「その間、充瑠はアローにパワーをチャージだ!」
 「わかった!」
 「あたしは?!」
 「これを持って俺と待機!」
 そう……

キラキラ輝くために 僕らは巡り会ったと思うから――

 「為朝さん……誰よりも状況を的確に把握できていて、作戦を立てて下さる」
 「それでいて出しゃばらず、充瑠をリーダーとして立てる奥ゆかしさ!」
 「――素敵です!」
 姫様&相棒ストーンの台詞に合わせて、メンバー個々にクローズアップした戦闘と名場面集の映像が流れ、相変わらず巫女ヨドンナの件を突かれつつ、赤のガード役としてベチャットを華麗に銃撃する黄が格好良くて大満足。
 「お兄様……いつでも全力で、体を張って、わたくし達を守ってくれました」
 「笑顔も全開で、みんなにたくさんの勇気をくれたな」
 「――ワンダーラブです!!」
 お兄様の相棒は居ないのでお父様が代行し、為朝への「素敵です!」が割とおお? と思わせる力の入り方だったのですが、お兄様への「ワンダーラブです!!」はもっと力が入っていました(笑)
 「小夜さん……大人で可愛い、しなやかなあなたは、決して弱音を吐きません」
 「小夜さんは、決して諦めない、強い人!」
 「――眩しいです!」
 メンバーの中では、宝路を除くと小夜が一番マブシーナと距離感が近かったので、そこを中心に掘り下げる回が一つあればな、とは惜しまれるところ。
 「時雨さん……剣の技を追求して、戦いに活かすあなたは、誰よりもストイックでした」
 ……のところで背後に流れる名場面が翼を広げて羽ばたく妄想シーンなの……なんか、変だよね。
 「アニキの自分を律する心」
 「――格好いいです!」
 「格好良すぎです!」
 一番言ってほしい事を言われて、半身の決めポーズが格好いいよアニキ!(笑)
 青桃銀の奮闘により親衛隊ベチャットの陣形が崩れ、ヨドン皇帝へ向けて拓ける一筋の道――
 「今だ瀬奈! デストリアを皇帝に食らわせろ!」
 「OK!」
 切り札を手に緑は猛ダッシュで突撃し、今作の象徴として“走る”アクションを最終決戦に持ち込んでくれたのは、実にお見事。
 「瀬奈さん……勢いで皆さんを引っ張って、悲しい時も笑顔に変えてくれて」
 「お嬢様の周りは、いつでも空気があかるうございました」
 「――好きです!」
 「大好きです!!」
 だが、マッハ渾身の叫びも虚しく緑の突撃は皇帝に受け止められ、弾き飛ばされて宙を舞うデストラストーン。
 「想定内だ……!」
 酷いよ為くん!!
 ……いやまあ、相手の力量を見誤らずに対処パターンを用意しているのは凄く為朝らしいのですが、黄は空中に舞った石を即座に銃撃で押し戻し、ここで何が凄いって、一連の動きが見えている中で小揺るぎもせずにチャージを続けている赤の迷いの無さ、赤のみならずそれぞれの役割を果たすメンバーの、為朝の作戦で駄目なら仕方ない、という強い信頼感が、実にキラメイジャーらしいクライマックスバトル。
 同時に、ここまでの物語において、思考放棄(緑除く)や作戦への盲信にならないような描写が積み重ねられており、作戦参謀としてはチームでのポジショニング含めて、本当に出色のキャラクターとなりました。
 そして今、傷つき磨き上げてきた力が一つの矢に集い……
 「充瑠さん……あなたは不思議な方でした。おどおどしているけれど、弱虫ではなくて」
 「イメージする力は、時にオラディン様以上」
 「――憧れます!」
 ここで姫様が手を真っ直ぐに伸ばす仕草が会心の名シーンで、キラメイストーンらを始め数多の想いを乗せたキラフルゴーアローが放たれると、空中でデストラストーンに的中して破壊の力を宿したフェニックスアローが、ヨドン皇帝を貫通――
 「馬鹿な……我が、負ける筈が……」
 孤高の皇帝は大爆発して最期を遂げ、ここにキラメイジャーはヨドン軍を打ち破るのであった!!
 とにかく今回は、このラストバトルが物凄く良かったのですが、「姫様は今作の裏主人公」説を唱える身として前回を更に越えるミラクルジャンプに大満足だったのに加えて、コロナ禍の制作環境で、分割展開の多用やスーツシーン増量などの対応策が取られたと思われる今作において、最後に一人一人のキャラクターにフォーカスを当てる事で、掘り下げきれなかった部分を出来る範囲で取り返そうとしてくれたのは、凄く良かったなと。
 その為、実質的なモノローグの内容が“理想の○○”になっている面は少なからずあるのですが、姫様フィルターと相棒フィルターがかかった主観的発言にする事で成立させたのは巧かったなと(笑)
 ……なお、途中で挟むと台無しになるのでここまで我慢しましたが、どうしても、


「弾北斗――君はどんな困難な状況にあっても、常にリーダーとして、仲間を引っ張ってくれた。
ニュースーパーダイナマイトを編み出せたのも、血を吐くような君の努力、君の剣のお陰だった。
ダイナレッド、燃えたぎる情熱のレッド! 赤い血潮のレッド!」
(以下5人分)
(『科学戦隊ダイナマン』最終話)

 を思い出さずにはいられなかった事を、ここに白状します(笑)
 ヨドン皇帝を倒し、勝利に湧くキラメイジャーは武器を放り投げ、青が勢いで桃に抱きつ……こうとして抱きつけなかったと思われる不自然な万歳を二回ほど繰り返した末に結局は赤に抱きつき……へたれた。
 「――この6人で、魔進戦隊、キラメイジャーです」
 姫と青は歓喜の輪の中で泣き崩れているのだと思われるのですが、スーツでわかりにくいので、若干、頭をぶつけて痛がっているように見えます(笑)
 「終わった…………終わったーーーーー!!」
 博多南さんは椅子に全身を預けて絶叫し、当初は、ファンキーさを押し出した強引なキャラ付けで騒がしい感じにならないかちょっと不安だったのですが、どちらかというと有能さが前面に出て、締めるところをきちっと締めてくれる好感の持てるキャラになって良い長官/博士ポジションでありました。
 「やったんだね、熱田!」
 ベチャット化した人々も元に戻り、ヒーローの戦いを知る柿原さんが笑顔で青空を見上げるのが非常に美しいカットになり――三ヶ月後。
 充瑠の髪型の変化で、既に次のステップに進んでいる事が端的に示され(大学生……?)、その充瑠はバーチャル会議で仲間たちと再会。クランチュラからヨドンヘイムの体制変化の連絡を受けた事を仲間たちに伝え、どうやらクランチュラさん、ヨドン皇帝亡き後のヨドンヘイムをまとめ上げたようで、クリスタリアのクーデターで始まった今作が、ヨドンヘイムのクーデターで終わる事に。
 最終的には、「侵略組織」から一つの「国家」にコンバートする事でどちらかが滅びるまでの全面戦争を回避し、穏健派が政権を握る事で和解ないし相互不干渉に落ち着くのは、過去にクリスタリア側がヨドンヘイムにカチコミ仕掛けている例も効いて、飲み込める範囲の落としどころになりました。
 冒頭に触れた通り、クランチュラさんに関しても、皇帝撃破に繋がる最重要情報をもたらした事で、生存に納得できる範囲になったかな、と。
 そして……
 「なんでおまえはオラディン王様とシンクロしたんだろうなって」
 残された大きな謎と共に笑い声が響き渡り、観客の立場で高みから全てを娯楽として消費していた真の巨悪・ひらめキング! がその姿を見せ……ずに「素敵な偶然」で片付けられ、
 「えーーーー?! そういう、ふわぁってしたやつぅ?!」
 当の本人に抗議させる、ズルいやり口(笑)
 「でも、それが一番、しっくり来ない?」
 「充瑠が違う世界と繋がったから全てが始まった。それは確かだろ?」
 ……や、白いキラメイストーンに乗ってきたオラディンによる侵略行為からではないですかね……(笑)
 「お陰で、私たちも出会えた」
 「おまえにそういう力があったんだ」
 「充瑠が呼び込んだんだよ、素敵な偶然を」
 「……そっか、そうなんだ」
 一同よってたかっていい話にして丸く収めようとしているのはむしろ、調査の結果、充瑠に関する吐き気がするほど邪悪な真実が明らかになってしまったので、皆で誤魔化しているようにも見えますね!(映像的には、女性陣の化粧をいつもより大人っぽくした勢いで乗りきろうといった感じ)
 そこへ姫様と宝路が姿を見せ、マブシーナの正式な女王就任を報告。更に魔石も参加して場は一気に賑やかになり、別離がさらっとスキップされたのは“精神的に大人”な戦隊であったキラメイジャーらしかった上で、バーチャルで軽く再会するのは、今風とはいえましょうか(笑)
 まあこの辺りは、Vシネマだったり劇場版だったりの関係で明確な別離を描きにくい事情があるので、スタッフ的にも、劇的な別離を描いた方が物語が“締まる”のはわかった上で、開き直らざるを得ない部分といった感じ。
 「アニキはまたそれ着てるんだね」
 「だって……! いやさみしいだろそんないきなし卒業って言われても」
 そんな中、思い出のユニフォームを脱ぐのがしのびない時雨の姿には、同じクラスだったあの子、への未練も見えなくもありませんが……社会人としての確固たる立場を築いており、それを尊重しながら戦う事を掲げた今作は、一定の成熟(確かで強い煌めき)を前提とした社会人メンバー4人の大幅や「変化」や「成長」を描きにくい面があったのですが(それ故に、「姫様の成長物語」の要素が軸として強調されたといえます)、そんな4人にとってのヨドン軍との戦いはなんだったのかといえば、「キラキラ輝いていたあの頃」=「青春の1ページ」と位置づけられたような感があり、終わってみると今作、部活系戦隊だったのかな、と。
 皇帝撃破後の博多南さんの叫びが「勝った」でも「やった」でもなく「終わった」な事にちょっとした違和感を覚えていたのですが(別に台詞としておかしくはないのですが)、結果としての勝利よりも「最後の大会が終わった」みたいなニュアンスが強くて、ヨドン軍との決着というのはキラメイジャーにとって「一つの季節の終わり」だったのかな、と。……まあ、博多南さんの場合は企業家なので「プロジェクトが終わった」的な感覚だったのかもですが。
 で、この1年の戦いを「大会」とか「文化祭」だと思ってみると、序盤のスパルタ特訓や、中盤のバンド回が「青春を燃やした」「あの頃だから出来た事」の象徴としてトータルでは割と腑に落ちるのですが、“今”をかなり意識していた今作の中に、“青春へのノスタルジー”が混合されているのは、それは中途では違和感になる筈だなと(笑)
 ただ考えてみると、パーソナリティとしては生かし切れなかったものの“昭和の男”もメインメンバーに居るわけなので、どこまで意識していたのかはなんともですが、「青春の輝き」を80年代戦隊における曽田博久イズムの継承だと捉えると、そういうものを全てひっくるめて、新しい歴史に向かっていくのが『キラメイジャー』の進んできた道であり、これから目指す未来なのでありましょう。
 ……その点では、“昭和の男”がどうも浮いた設定になってしまったのは残念なところでありました。
 「ファイヤ、元気してた?」
 「勿論! 俺はいつだってめっちゃメラメラだ!」
 一方、ラップ回で情緒的に描かれていた二人の関係は大変さっぱりで、充瑠はたくましく卒業していた(笑)
 残る地雷として心配していた「カナエマストーンによる復興の範囲」は、「国土は元に戻ったが、生き残った国民たちの傷が癒えたわけじゃないない」と、澱みに汚染された環境は浄化されるが失われた命は戻らない、のは奇跡の活用としては納得の行く案配でした。
 父は鳥、母は頭飾りなのでマブシーナが国民を率いていく事になり、子供達と国民の前なので前向きに振る舞っているとも解釈も出来ますが、これはこれでまあいいか、と両親は実にてきとー夫婦。「王の継承」の要素をもしっかりと盛り込まれましたが、やはりこの点に関しては、王妃様が呪いを回避した時点で、物語内における「命の重み」がだいぶ減じてしまったのは、惜しまれます(「失われた国民の命」の意味にも響いてしまいますし)。
 まあ何もキャラクターの退場を好きこのむわけではないですし、クリスタリア王族がだいぶトンデモ種族ではあるのですが(それはヨドン皇帝も危険視するわけで)、やはり王様と王妃様は宇宙へ飛び立った方が良かったような気がしないでもないものの、とりあえずマブシーナの治世には、国民に広く創造的行為を解放してほしいものです(笑)
 「皆さんのお陰です。わたくし、皆さんのように、輝いて生きていたいと思って……こんなにいいお手本がいてくれたから、決断できたんです!」
 宝路との和解後に王女就任の道筋を示した後、しばらくこの要素に触れていなかった為か、マブシーナの言葉が若干、屋上屋を重ねるような事にはなりましたが、しかるべきゴールに辿り着いてくれて、姫様の物語としては大満足。
 「新たなクリスタリアが目指す、理想の姿を掘りました!」
 王国の岩壁には充瑠たち5人の巨大な彫像が彫り上げられており……ちょっと、治世の先行きが不安になってきますが(笑)
 充瑠たちが彫像を見上げる場面からエンディングテーマが流れ出してスタッフロールと共にエンディングパートに入り、三ヶ月の間に下の名前呼びになっている柿原さんがそこに乱入。
 「今度の今度こそ可愛く描いてってゆったのに……なにこれ!」
 ……明らかにお洒落しているのですが、充瑠はバーチャル会議の予定が入っていたので、絵に文句を言うのにかこつけて遊びに誘う気満々で、全欧州が泣いた。
 柿原さんが充瑠に突きつけたスケッチブックに描かれていたのは、煌びやかな5人の戦士達(ゼンカイジャー)……と、その片隅で紫色の妖気を漂わせる柿原さん。
 「なにそれ?」
 「……よくわかんないけど、ひらめキングで?」
 「おい、またどっかの世界と繋がっちまったんじゃねぇのか?」
 充瑠がゼンカイジャーの姿をひらめキングし、それは素敵な偶然なのかも、というのは次作への繋ぎ要素としては素晴らしくスマートで、会議冒頭に「素敵な偶然」で片付けられた時はどうしようかと思いましたが、作中で消化不能となった(或いは、最初からそこまで重視してなかったのに妙に怪しげになったしまった)要素の着地方法としては非常に鮮やかなアクロバットとなり、これはもう、笑ってサムズアップするしかありません(笑)
 「さあ? ……でも、これもきっと、素敵なものだよ!」
 「描き直しなさいよ!」
 充瑠は柿原さんに引きずられていき、相変わらず、他人の色恋ネタには中学生みたいな反応で盛り上げるキラメイメンバー。
 「これ、描き直しなさいよ!」
 「あ?! ひらめきーーーんぐ!!」
 「そんなの今いいから!」
 「だって仕方ないよ! ひらめいちゃったんだから!」
 「待ちなさい!」
 走り出す充瑠を柿原さんが追いかけ、柿原さん贔屓だったらしい下さんの強烈な圧力を受けてか、荒川さん(塚田Pか山口監督の差し金かもですが)が最後の最後でダイビングヘッドを決め、まさかのラブコメEND(笑)
 エピソード0+本編4話(うち1話は「べちゃ~」のみ)の登場としては破格の待遇となった柿原さんですが、ラスト、主人公の突飛な部分も含めて好意を抱いてはいるがそれはそれとして今は私の方を向け、という「そんなの今いいから!」が大変クリティカルで戦隊史に鮮やかな爪痕を刻み込み、最後の最後で物凄く跳ねたのが、もはやミラクル。
 軽快なエンディングテーマとも合わせて、大変爽やかなラストシーンになりました。
 追いかけっこを始める二人の姿が俯瞰の映像に切り替わり、そこにかかるナレーション。
 「人が輝く時、そこに奇跡が生まれる――
 輝き、それは、未来を変える戦士の証!
 キラメイ・Go!!」
 色々どうかと思うオラディンですが、最後のこのナレーションが滅茶苦茶はまったので、もう仕方ないか、みたいな(笑)
 やり方は極めて鮮やかだったとはいえ、ラストカットがゼンカイジャーなのはさすがにどうか、と思ったら、風でスケッチブックのページがめくれると主要メンバーの笑顔のイラストで、大変気持ち良く、おわり。

 ……昨年末のラップ回をピークに、年明けはやや物足りない出来が続いたところにガルザ×オラディン問題の肩すかしが来て大失速が懸念されましたが、前回-今回のラスト2話は、出来る限りの要素を拾ってなるべく綺麗な着地をさせた上で、とにかく1年間やってきた『キラメイジャー』のスタイルに全編が貫かれていて、満足の出来でした。
 パイロット版監督である山口監督が作品のスタイルを早期に確立してくれた印象の強い今作ですが、道中に多少の波があっても最終的な作品のコア部分の押し出しはきっちりやってくる塚田Pの作り方に、荒川脚本と山口監督の相性の良さもあり、これが『キラメイジャー』だ! というラスト2話になったのは、大変良かったです。
 話数削減、撮影上の制限、恐らくは主要メンバーの出演不能の可能性に備えたオプション作り……と、難題山積だったと思われる今作ですが、最後まで走り抜けてくれた事にはとにかく感謝。
 序盤の出来の良さから90点越えを期待していたものの、最終的には80点前後になんとか着地、という事への高いレベルでの不満はありますが、トータルでここまでの完成度を見せてくれたのは素晴らしく……その点ではどうしても、前々回の諸々の雑さが惜しまれますが、色々な面で、ベテランの渡辺監督がババを引いてくれた面はあったのかもしれません。
 毎度の事ながら頭が煮えてきたので諸々は別項で追加できれば……と思いますが、そう言ってすぐ書く確率がだいぶ低くて我ながら自分の発言の保証が出来ません! とりあえず、全体の構造の把握も兼ねて、メイン回の配分をチェックしながらの、主要キャラ振り返りはやってみたいかな、と。
 ……そういえば、モンストーンに関しては、完全に投げられ、宝路が破壊後に残った結晶を回収している思わせぶりシーンや、邪面師の強化要素を考えると、何か構想はあったのかな……と思われますが、取捨選択としてはダメージの少なそうな部分ではあり。
 とにもかくにも今回はクライマックスバトルが最高で、姫様・キラメイストーン・作戦、といった要素を使い切って、今作ならではの最終決戦にしてくれたのが、素晴らしかったです。
 さて、来週からは新番組が始まるわけですが……年々、完結作品を一週間で消化しきるのが苦しくなっているので、インターバルが一週間欲しい! と、毎度ちょっぴり思うわけであります(笑) まあホント、来週もあるという事がありがたくはあるわけですが……シリーズを巡る状況の好転も、切に祈りたいです。
 次作について現時点で思うことは、主人公の眉毛、凄く平行。
 以上、『魔進戦隊キラメイジャー』感想でした!

狼、吠えろ

牙狼GARO> ~RED REQUIEM~』感想

◆『牙狼GARO>~RED REQUIEM~』◆ (監督:雨宮慶太 脚本:江良至/雨宮慶太
 2010年に公開された劇場版。日本初の全編フルデジタル3D劇場作品との事で、随所に、3D映画的な画面構成や演出あり。以前に『仮面ライダーW AtoZ/運命のガイアメモリ』を見た時も思いましたが、3D作品は劇場版ならではの売りや楽しさにはなる一方、後にディスクなど見ると演出面の違和感が出るのは難しいところだなと(勿論、映画として作ってる以上、劇場の公開形態こそが本義ではありますが)。
 「闇を切り裂く希望の光、彼らの戦いは終わる事はない。そして、今夜――」
 ガルザのナレーションによる『牙狼』基本説明の後、ゴスロリパーティーの会場に現れた怪しげな男女がカバンの中から巨大な鏡を取りだし……場面は一転、ベビーカーを押す女と、それを追う怪しげな風体の男のシーンに切り替わり、例によって例の如く、女の方がホラー。
 それにグラサンの魔戒法師2人組が立ち向かい、若い方がいまいちへっぴり腰でカラクリ魔戒ドッグに振り回されていたり、中年の構える筆がやたら巨大だったりで、ちょっと『ゴーストバスターズ』ノリ(笑)
 二人がピンチに陥っところに露出度の激しい新たな女魔戒法師が現れ、連携から筆の攻撃でホラーを撃破。だが……
 「その赤ん坊をこっちに渡してもらおうか。そいつのお守りはおまえらには無理だ」
 そこに白いロングコートの男が姿を現し、相変わらす言い方がアレですが、実は女の連れていた赤ん坊とベビーカーこそが、より強大なホラーへと変貌。
 「どうだ、鋼牙!?」
 「見切った!」
 5年経ってちょっと声の渋くなった魔戒騎士・冴島鋼牙は、鎧召喚して黄金騎士ガロへと変身するとベビーカーホラーを撃破し、仕事を終えると特になんの説明もなくスタスタ去って行くのが、5年経ってもとっても鋼牙。
 ただ、相手に呼び止められて丁寧に名乗られると足を止めて会釈は返すので、単なる、人見知り説も浮上します(笑)
 「ホラーを追ってこの街に来た」
 鏡に憑依して人間を喰らう魔鏡ホラー・カルマ調伏の任を受けた鋼牙だが、女法師・烈花も同じくカルマに執着。
 「俺は女に生まれた。だから騎士になれなかった、ただそれだけの事だ。騎士だろうが法師だろうが関係ない。俺はホラーを封印する力を持っている。その力でカルマを倒すだけだ」
 元々ホラーと戦っていたのは魔戒法師、その後、魔戒騎士という戦士クラスが生まれる、魔戒騎士になれるのは男だけ、といった背景事情が盛り込まれ、お約束的に入るトレーニングシーン。
 おまえ攻撃スキルに片寄りすぎ、と鋼牙は烈花に指導を付け、再び夜――街に入ってからザルバの鼻が利かなくなっていたのは敵の根城に強力な結界が張られていた為とわかり、中年の魔戒法師・アカザの裏切りが判明。
 服装だけなら、ただれたナイトスポットに似合っている二人は店内を探索し、敢えて敵の手中に飛び込んだ烈花が鏡の中に見たのは、カルマに殺された父の幻影。飛び込んできた鋼牙が鏡を砕くもそれは即座に修復され、鋼牙VSカルマ下僕男による、ダンスステージでの生身バトルは面白い趣向。
 カルマの策謀により、鋼牙はガロの鎧を魔鏡の中に吸い込まれてしまう未だかつてない窮地に陥り、法師の筆から凄いレーザーが出た(笑)
 ここが映画としての折り返し地点となり、負傷してうなされる鋼牙は、少年時代に出会った一人の魔戒騎士を思い出す……
 「坊主、おまえなぜ、ホラーを倒したい?」
 「悪い奴だからだ!」
 「……それじゃあ、駄目だ。なぜ魔戒騎士が命がけでホラーを倒すのか。そして何故、その戦いに俺がおまえを連れていかないのか。その答はおまえが一人前の魔戒騎士になった時にわかる。焦るな、坊主。おまえの時代は、まだずっと先だ」
 男の吹く笛の音と現在の笛の音が重なって、回想の魔戒騎士=烈花の父親である事が示唆されるのですが、どうもここは、鋼牙と烈花の繋がりを強める為にやや強引に過去の出来事を作ってしまった印象。
 大河の死後に完全な独学ではなく一時的に他の魔戒騎士に師事していたのか、大河が任務中に一時的に預けられていたのか、はハッキリしないのですが、どちらにしても、父-子の狭い世界を意識的に描いていたTV本編のイメージからは少しズレますし、前者と後者では「鋼牙の師」としての意味合いが変わってくるのですが、大河への言及が無い為にそこが曖昧になっており、せめて大河の死後なのかどうかは、明確にしても良かったかなと。
 少年鋼牙の大きさで大体わかるのではという気もしますが正直覚えておらず……大河の死後かどうかによって少年鋼牙の「悪い奴だからだ!」の意味も変わるので、個人的には、映画的追加要素としてもスッキリしない回想になってしまいました。
 「俺が救ったのは、おまえの命だけじゃない。一つの命の先には、家族があり、友があり、そして愛する者がある。俺はその命を守る為に戦っている」
 復讐に逸った暴走を悔やむ烈花を鋼牙は叱咤し、「白夜の魔獣」で完成した『牙狼』のテーマのど真ん中を鋼牙が他者に伝える事により、既に鋼牙の中でそれが確固たる言語化をされている、魔戒騎士としての現在地が描かれたのは綺麗にはまりました。
 「焦るな烈花。おまえの時代はまだこれからだ」
 図らずも烈花父の言葉を伝える鋼牙であったが……それはそれとして、大事な鎧を失って、アイデンティティにちょっと揺らぎが(笑)
 そんな鋼牙はそれとなく指輪に励まされ、ガロ――その名は旧魔界語で「希望」を意味する事が明らかに。
 亡き妻と娘の幻影を餌に、カルマの術に囚われていたアカザは捨て身で責任を取ろうとするも鋼牙に諭されて「継承」の要素も盛り込まれ、魔鏡の結界破りの短剣を手に、カルマの潜む廃棄ビルへと向かう鋼牙&法師3人は、三手に分かれてホラーとバトル。
 烈花が魔戒金魚爆弾で下僕女を撃破すると、鋼牙に人生何度目かのビルダイブを決めさせた下僕男は、愛する女を失って狂気に駆られた画家と判明し、両者の激闘は魔鏡内部へ突入。
 「貴様等にはわかるまい……愛する者を、大切な者を失う悲しみを」
 「わかっていないのは貴様だ!」
 「なに?」
 「本当に大切で掛け替えのない人を、ホラーなどにできるものか! 貴様の愛も、永遠の命もカルマの作ったまやかしだ!」
 「黙れぃ!」
 「――ガロぉ!!」
 ばしっと決めた鋼牙は大事な鎧を取り戻して黄金騎士になると、直球で悪魔的なデザインの画家ホラーを一蹴し、真の姿を見せた巨大カルマと異界で激突。
 カルマ下僕の本当の姿が画家で中尾彬峰岸徹さんと同じく、昭和成金変態中年役の巧者)だったり、ボスキャラが半裸の巨大女性だったりというのは、TVシリーズのセルフオマージュ(第1話とクライマックスを彷彿とさせる)といったところでありましょうか。
 満を持してゴウテンを召喚するも苦戦を強いられるガロだが、鏡の外からその戦いを目にしたアカザが、文字通り自らの命を賭して鏡の中へ飛び込むと烈花に笛を手渡し、烈花が父から教えられた英霊たちへのレクイエムによりカルマに喰われた数多の英霊たちが目を覚まし、この笛のメロディが今作の白眉。
 希望の光――黄金騎士ガロは英霊たちの力を受け止める器となると天高く舞い上がり、遂に、尻尾が生えた。
 命を守り、命を繋ぐ一方で、霊魂になっても修羅の世界に在り続け、後に続く者はそれを引き継いでいかなければならないというのは今作におけるヒーロー――魔戒騎士のシビアな一面でありますが、英霊たちの想いを背負い翼としたガロは、遂にカルマを撃破。
 烈花と共に帰還を果たすが、二人を救ったアカザの命は既に尽きており……マジックアイテム無しで鏡の異界へ入る手段の伏線、裏切りの精算、そして通しのテーマが繋がって、まとまりの良い着地になりました。
 「法師が守ったのは、沢山の人たちの未来だ。俺たちはそれを託されたんだ」
 任務を終え、去りゆく鋼牙の背中からスタッフロールに入り、カルマの声:カオル役の肘井美佳さん(特別出演)、だったという凄いオチ(笑)
 そしてザルバが、烈花から預けられた伝令用の魔戒金魚に「カオル」と名付けようとするも鋼牙に拒否されて、終幕。
 単純に、TVシリーズを踏まえた映画サイズの作品、としては「白夜の魔獣」の方が面白かったですが、勿論、TVシリーズの延長線上のスペシャルと、5年後の劇場版では全く意味づけが違ってくるので、リアルタイムと後から見るのとでは、だいぶ感触の変わるタイプの作品ではあるのかなと。
 その感動や興奮は当然、リアルタイムで追いかけていたファンの特権であろう、と思うわけでありますが、今回、公式の配信という形で視聴できて有り難かったです。
 物語としては、実質的に烈花が主人公で、鋼牙は先輩ヒーロー……ソルブレイバーに対するナイトファイヤー? みたいなポジションであり、その辺りのちょっとした物足りなさみたいなものはありましたが、より成熟した魔戒騎士として希望の象徴たらんとする鋼牙の姿には納得であり(同時に、その重みの裏側の掘り下げを期待させるのが鋼牙中心に見た場合は映画としての食い足りなさになっているのですが、この時点で第二シーズンを見据えていたのならば、ブリッジ的な作品の面もあったのでしょうか)、その上で中盤に相棒ポイントを稼ぐザルバがおいしい役回りでありました。